住民へのプレゼント
祭りが終わって、数日。
町のエキドナショップに、新しい商品が並んでいた。
「……なんだこれ?」
見慣れない魔道具。
薄い板状の本体に、一本の細いペンが付いている。
値札を見て、町人は目を疑った。
「安っ……」
ほとんど無料と言っていいような値段だった。
店員に尋ねると、返ってきた答えは簡単なものだった。
「エキドナからのプレゼントだそうですよ」
「プレゼント?」
「はい」
魔道具を手に取る。
タブレットのような画面に、文字を入力する欄が表示されている。
付属のタッチペンで、そこに言葉を書く。
そして、書いた言葉を決定して送信する。
「これ、何に使うんだ?」
「情報塔にメッセージを送れるそうです」
「情報塔に?」
「はい。字が書ければ誰でも使えるそうですよ」
町人は魔道具を見つめる。
「つまり……エキドナに直接メッセージを送れるのか?」
「そういうことですね」
「へぇ……」
興味を持った町人が、タブレットの電源を入れる。
すると画面いっぱいに、見慣れた場所が映し出された。
「お?」
「情報塔の映像ですよ」
「映像まで見られるのか?」
「今、ちょうどエキドナからの案内をやってます」
「案内?」
「ほら」
画面の中では、エキドナのメンバーが並んでいた。
『というわけでぇ~、今日はこの魔道具について説明するよぉ~』
ニコラの声が聞こえる。
『このタブレットを使えば、情報塔に直接メッセージを送れるようになりました』
リゼットが説明を続ける。
『文字を書いて、送信するだけ。難しい操作は必要ないわ』
『送られてきたメッセージは、こちらで確認できます』
ガブが手元の端末を見せる。
『それから、今この配信を見ている人数も表示されるぞ』
画面の隅に数字が表示された。
「……今、見てる人の数まで出るのか」
「便利ですねぇ」
店の前で、何人かの町人がタブレットを覗き込んでいる。
「俺も見てみよう」
「私も買おうかしら」
「安いしな」
タブレットを起動している人数が、少しずつ増えていく。
そのたびに画面の数字も変わっていった。
「増えた」
「今、俺達が見始めたからだな」
「なんか面白いな、これ」
すると画面の中で、ティニアが声を上げた。
『せっかくだから、質問も受け付けるわよ!』
『質問?』
リゼットが少し驚く。
『こうやってメッセージを送れるなら、聞きたいことも送ってくるんじゃない?』
『なるほどぉ~』
ニコラが端末を覗き込む。
『もう来てるよぉ~』
「早っ!」
町人から思わず声が漏れる。
画面の中で、ニコラが届いたメッセージを読む。
『えーっと……「お祭り楽しかったです!」』
『それは質問じゃないわね』
リゼットが笑う。
『でも、ありがとうね』
次のメッセージ。
『「猫カフェ、またやりますか?」』
『やるんじゃないかしら?』
『猫ちゃん次第だな』
『「Tシャツ買いました!」』
『ありがとうございます』
『「エキドナのおかげで町がすごく便利になりました」』
リゼットが少しだけ嬉しそうに笑う。
『そう言ってもらえるなら、作った甲斐があるわね』
そして、また一件。
『「エキドナショップおもしれぇ」』
「…………」
四人が一瞬、黙った。
『ふふ みんなで作ったからね!』
『お祭りで開店した猫カフェとかはそのまま営業継続だよ~』
『喜んでくれたならいいじゃない』
リゼットも笑う。
『こういうのでいいのよ』
『だよぉ~』
ニコラも楽しそうに笑った。
『じゃあ、今日は届いたメッセージを適当に読んでいこうかぁ~』
『賛成!』
ティニアが手を上げる。
『偉大なる妖精ティニア様への質問も――』
『次の質問行くわよ』
『無視!?』
店内に笑い声が起こった。
エキドナショップで売られ始めた小さな魔道具。
それは、情報塔を見るための端末であり。
そして、エキドナへ直接言葉を届けるための端末でもあった。
値段は、ほとんど無料。
エキドナから町への、ほんの小さなプレゼントだった。
そしてその日から。
情報塔でエキドナが案内を始めるたびに、画面の隅に表示される数字は少しずつ増えていくことになる。




