ヒロバト披露会
エキドナの新しい魔道具。
その名も――ヒロバト。
今日は、そのお披露目の日だった。
会場となった広場には、多くの人が集まっている。
壇上に立っているのは、エキドナの面々。
そして中央にいるのは――ニコラだった。
「今日はぁ~、ヒロバトについて説明するよぉ~」
いつものように、のんびりした声。
「まずは、一番大事なところからねぇ~」
ニコラが端末を操作する。
「ヒロバトでは、人間のデータを使えるんだけどぉ~……勝手に登録することはできないよぉ~」
会場を見渡す。
「必ず本人の許可が必要だからねぇ~」
その言葉に、何人かが頷いた。
「ということでぇ~」
ニコラがエキドナの仲間たちを見る。
「今日は全員に、自分のデータ化を許可してもらいます~」
「私からでいいわよ」
リゼットが一歩前へ出る。
ニコラが端末を向ける。
本体からデータが参照される。
そして――カードが一枚、生成された。
「おお……!」
会場から声が上がる。
カードに描かれているのは、登録時のリゼット。
髪の一本一本まで分かるほど繊細で、まるで本人をそのまま切り取ったような姿だった。
「すごいな……」
「これ、本当に本人じゃないか?」
リゼットがカードを受け取る。
「……随分と細かいわね」
「そういうところはぁ~、ちゃんとしてるんだよぉ~」
続いてマドカ。
カトリーヌ。
グレタ。
アリシア。
エレノア。
そしてニコラ。
全員が本人の許可を出し、本体からデータが参照される。
一人ずつカードが生成されていく。
「俺も欲しい……」
「カードだけでも欲しいな」
「格好いい……」
会場の空気が少しずつ変わっていく。
そして――
ニコラが最後の操作を行った。
「じゃあ~、実際にカードを使ってみるねぇ~」
端末から光が広がった。
壇上に――
エキドナの面々が、もう一人ずつ現れた。
「…………」
「…………」
会場が静まり返る。
そこにいるのは、間違いなくエキドナのメンバーだった。
マドカが二人。
リゼットが二人。
ニコラが二人。
カトリーヌも、グレタも、アリシアも、エレノアも。
「え……?」
「二人……?」
「本人が増えた!?」
ざわめきが広がる。
そんな中、幻影となったニコラが一歩前へ出た。
そして、初めて口を開く。
『このニコラちゃんにかてるかなぁ~?』
会場がどよめく。
向かい側には、幻影のリゼット。
『私を誰だと思ってるの? 大賢者の名は伊達じゃないのよ?』
「おおおおお!」
歓声が上がった。
ニコラが説明する。
「ヒロバトのカードになった人はぁ~、こうやって幻影として戦えるんだよぉ~」
「では、特別試合を一戦だけ行います」
エレノアが告げる。
「ニコラ対リゼットです」
歓声がさらに大きくなる。
「ニコラちゃん、勝てるのか?」
「リゼット様だぞ!」
「でもニコラさんの魔道具って……」
開始の合図。
幻影のニコラが銃を構えた。
発砲。
リゼットが身を翻す。
しかし、弾丸は逃げた先へ正確に軌道を変えた。
リゼットが魔法障壁を展開する。
銃弾が弾かれる。
「今のぉ~、ほぼ必中なんだよぉ~」
「厄介ね」
ニコラが客席から眺めている。
「でも、リゼットなら防げるよぉ~」
「この程度ならね」
幻影のニコラが続けて銃を撃つ。
リゼットは障壁を展開しながら距離を取る。
そこへ――レーザー。
閃光が走る。
リゼットが魔法で受け流す。
直後、ニコラの幻影が何かを投げた。
爆発。
「うわっ!」
会場から声が上がる。
煙が広がる。
「爆弾も使えるのか!」
「魔道具で攪乱してるぞ!」
煙の向こうから銃撃。
リゼットが魔法で防ぐ。
さらにレーザー。
爆弾。
銃撃。
幻影のニコラはほとんど動かない。
動けない。
だが、動く必要がない。
遠距離から次々と魔道具を使い、リゼットの行動範囲を削っていく。
「へぇ……」
リゼットが目を細める。
「こういう戦い方なのね」
「ニコラは身体能力がぁ~……」
「言わなくていいわ」
「だよねぇ~」
しかし、リゼットの魔法が一気に広がった。
逃げ場が消える。
幻影のニコラは動けない。
魔道具による防御。
それでも押し切られる。
リゼットが一気に距離を詰めた。
そして――
決着。
幻影のニコラが消える。
会場から大歓声が上がった。
ニコラが肩を落とす。
「負けたぁ~ つよすぎ~」
リゼットは小さく笑った。
「勝負になると思った?」
それだけだった。
幻影のリゼットも消える。
ニコラが会場へ向き直る。
「こんな感じだよぉ~」
そして、もう一度端末を操作した。
「それとねぇ~」
会場が静かになる。
「ヒロバトは、エキドナだけが使うものじゃないんだよぉ~」
「自分のデータを一時的に登録してぇ~、エキドナに挑戦することもできるよぉ~」
ざわっ。
「ただし、試合が終わったら契約は解除されるからねぇ~」
ニコラはカードを掲げる。
「残ったカードはぁ~、記念品として持って帰っていいよぉ~」
「記念品……?」
「自分のカードを?」
カードには、登録した本人の姿が精細に描かれている。
会場の空気が一変した。
「俺、やりたい!」
「俺も!」
「マドカと戦わせてくれ!」
「リゼット様と!」
「エレノア殿下と戦いたい!」
次々と手が上がる。
「じゃあ、順番にねぇ~」
ニコラが受付を始める。
最初の挑戦者が前へ出た。
契約。
データ参照。
カード化。
そして――幻影が出現する。
「おお……!」
挑戦者が構える。
相手はエキドナ。
会場中が見守る。
そして試合開始。
「いくぞ!」
――数秒後。
挑戦者の幻影が消えた。
「…………」
「…………」
会場が静まる。
「……今、何が起きた?」
別の挑戦者。
「俺ならいける!」
試合開始。
――敗北。
「…………」
さらに一人。
「次は俺だ!」
――敗北。
会場から、少しずつ声が消えていく。
「……なんなんだ、あれは」
「今、何をされた?」
「見えなかったぞ……」
「俺も分からなかった……」
エキドナの面々は、いつも通りだった。
そして敗れた挑戦者たちには、一枚のカードが残る。
自分自身の姿が描かれた、精細なカード。
「……お」
一人がカードを見る。
「俺だ!」
別の男も自分のカードを掲げる。
「俺もだ!」
負けたことなど忘れたように、嬉しそうに眺めている。
会場のあちこちで同じ光景が生まれていく。
ただし――
誰一人として、エキドナにどうやって負けたのかを説明できなかった。
「…………」
「…………」
会場の人々は、エキドナを見る。
そして、もう一度カードを見る。
「…………なんなんだ、あれは」
誰かが呟いた。
ニコラはそんな会場を見ながら、のんびり笑った。
「楽しんでもらえたかなぁ~?」




