モンバト大会
モンスターバトル大会は、予想以上の盛り上がりを見せていた。
参加者たちが次々と勝ち上がり、観客席からは歓声が途切れない。
実況席ではニコラが、いつもののんびりした調子で実況を続けている。
「おお~、これは意外な展開だねぇ~」
隣の解説役が、それらしい分析を加える。
予選、そして準々決勝。
マドカも、ガブリエルも順調に勝ち進んでいった。
そして迎えた準決勝。
第一試合は――
「さあ、準決勝第一試合! ガブリエル選手対――トロイ王!」
「おおおおおっ!」
王族同士の対戦に、会場が大きく沸いた。
「王様だからといって、手加減はしませんわよ!」
「もちろんだ。大会なのだからな」
二人とも、普段とは違う真剣な表情。
そして始まった試合は、予想以上に激しいものとなった。
しかし最後は、ガブリエルが勝利。
「やりましたわー!」
「……負けたか」
王は悔しそうに笑いながら、ガブリエルと握手を交わした。
「見事だった」
「ありがとうございますわ!」
そしてもう一つの準決勝。
「続いては、マドカ選手対リゼット選手だよぉ~」
「あら」
リゼットが少しだけ目を細める。
「まさか、ここで当たるとは思わなかったわね」
「私も」
マドカはいつも通りだった。
そして――試合開始。
こちらも一進一退の攻防が続いた。
リゼットは長年の経験を活かし、マドカの癖をよく知っている。
マドカもまた、リゼットがどう動くかを知っている。
「おお~、これは読み合いだねぇ~」
ニコラの実況が続く。
そして最後は――
「勝者、マドカ選手!」
会場が沸いた。
「よく頑張ったわね」
「お姉ちゃんもね」
「ええ」
こうして決勝の組み合わせが決まった。
マドカ。
そして――ガブリエル。
ニコラが実況席から立ち上がる。
「それじゃあ、決勝だよぉ~」
そこで、解説席の人物が交代した。
席についたのは、先ほどまで戦っていたリゼットだった。
「……負けた選手が解説ね。」
「マドカのこと、よく知ってるからねぇ~」
「そういうことね」
「それじゃあ、決勝戦の選手紹介だよぉ~!」
会場に歓声が響く。
先に姿を現したのは、ガブリエル。
いつもの姿とは少し違う。
赤を基調としたドレス。
きっちりと整えられた縦ロール。
まるで今から舞踏会にでも向かうような格好だ。
ただ、その表情は完全に戦闘モードだった。
「皆様、お待たせしましたわ!」
大きく手を広げる。
「この決勝戦――本気でいきますわよ!」
歓声がさらに大きくなる。
そして反対側から、マドカが歩いてくる。
服装はいつも通り。
七分丈のナイロンパンツ。
そしてTシャツ。
胸元に、大きく文字が書かれている。
――『大丈夫 僕 最強だから』
「…………」
リゼットが沈黙した。
「……マドカ」
「なに?」
「そのTシャツは、今日のために?」
「ううん。普通に着てきた」
「そう……攻めてるわね」
ニコラがTシャツを見ながら、のんびりと言う。
「マドカ、今日は随分と強気だねぇ~」
「そう?」
「それ、ガブちゃんに見せるためじゃないのぉ~?」
「違うよ」
マドカは首を傾げる。
「大丈夫。僕、最強だから」
「それを言うのね……」
リゼットが小さくため息をついた。
向かいでは、ガブリエルが拳を握っている。
「……マドカ」
「ん?」
「まずは一勝ですわね!」
「うん。勝てたらね?」
マドカも笑う。
「じゃあ、やろっか」
審判が両者を確認する。
「決勝戦――開始!」
最初のモンスターが、それぞれのフィールドへ飛び出した。
「おお~っと! マドカ選手、最初はカーバンクルだよぉ~!」
小さな身体。
愛らしい姿。
対するガブリエルのモンスターは――
「そしてガブリエル選手は……これは大きいねぇ~!」
巨大な狼。
フェンリルを思わせる、巨大な獣だった。
観客席からどよめきが起こる。
「これは……」
リゼットが静かに口を開く。
「正面からでは、カーバンクルに勝ち目はほとんどありませんね」
「だよねぇ~」
「ええ。ですが――」
リゼットがカーバンクルを見る。
「マドカが、正面から戦わせるとは限りません」
開始直後。
巨大な獣が一気に距離を詰める。
「速い!」
ニコラが叫ぶ。
カーバンクルが跳ぶ。
爪が空を切った。
その瞬間――
「ん?」
フェンリルの動きが、一瞬だけ止まった。
「おっとぉ?」
フェンリルが右へ向く。
何もない。
今度は左。
そこにも何もいない。
「どうしたんだろうねぇ~?」
「幻覚です」
リゼットが即答する。
「カーバンクルのスキルでしょう」
フェンリルが唸りながら周囲を見回す。
見えているものが、現実とは違う。
わずかな隙。
カーバンクルがそこへ飛び込む。
「今だよぉ~!」
攻撃。
だが――
フェンリルの身体が弾かれるように動いた。
「うわっ!」
カーバンクルが吹き飛ぶ。
「まだまだ!」
ガブリエルの指示に、フェンリルが追撃する。
幻覚によって動きを乱されても、圧倒的な身体能力そのものは変わらない。
「カーバンクル、逃げる!」
マドカが叫ぶ。
だが、間に合わない。
フェンリルが大きく吠えた。
次の瞬間――
衝撃波。
カーバンクルの小さな身体が、まっすぐ後方へ吹き飛ばされた。
「あっ!」
観客席から声が上がる。
そして――
場外。
「勝者、ガブリエル選手!」
「やりましたわ!」
ガブリエルが拳を握る。
「まずは一勝ですわね!」
マドカは場外に落ちたカーバンクルを見て、少しだけ笑った。
「うん。強いね」
そして次のモンスターを取り出す。
「じゃあ――」
フィールドに現れた姿を見た瞬間。
会場の空気が変わった。
「……ドラゴン?」
誰かが呟いた。
次の瞬間。
「ドラゴンだーっ!」
観客席が一気に沸いた。
巨大な翼。
鋭い爪。
大きな牙。
そして――
向かい側にも、同じように巨大な影が現れる。
「えっ……!」
ニコラが声を上げる。
「ガブちゃんもドラゴンだよぉ~!」
「これは予想してなかったわ。」
リゼットも思わず身を乗り出す。
「両者とも切り札を残していたようよ」
マドカとガブリエルが互いを見る。
そして――
「行きますわよ!」
「うん!」
二頭のドラゴンが同時に飛び出した。
炎と炎。
爪と爪。
牙と牙。
空中で何度もぶつかり合う。
「すごい!」
「真正面からやり合ってるよぉ~!」
ブレスが交差する。
片方が避ける。
もう片方が追う。
体当たり。
爪。
魔法。
どちらも一歩も引かない。
「これは……」
リゼットが呟く。
「互角ね」
長い戦いになった。
そして最後。
二頭が同時に空中へ舞い上がる。
「決めますわ!」
「こっちも!」
二頭が真正面から激突した。
巨大な衝撃音。
砂煙が舞う。
観客が息を呑む。
そして――
砂煙の中から立ち上がったのは、マドカのドラゴンだった。
「勝者、マドカ選手!」
大歓声。
ガブリエルは悔しそうに拳を握った。
だが、すぐに顔を上げる。
「見事ですわ……!」
マドカは頷いた。
「ガブちゃんも強かったよ」
そして――
最後の一体。
ガブリエルがモンスターデバイスを掲げた。
「ふふっ」
その表情には、まだ自信が残っている。
「最後は、これですわ!」
フィールドに現れたのは、一羽の巨大な鳥だった。
全身を炎が包んでいる。
「おお~!」
会場から歓声。
「これは……?」
ニコラが首を傾げる。
「最難関ダンジョンでゲットしましたの!」
ガブリエルが胸を張る。
「マドカも知らないモンスターのはずですわ!」
マドカは炎の鳥を見る。
少し考える。
「そうかー」
そしてガブリエルを見る。
「ガブちゃん、本気なんだね?」
「もちろんですわ!」
「そっか」
マドカがモンスターデバイスを操作する。
「じゃあ――これだ」
フィールドが揺れた。
炎の鳥とは比べものにならないほど巨大な影が現れる。
観客席が静まり返る。
炎の向こうから現れたのは――
巨大な精霊獣。
「……なに、あれ」
ニコラが呟く。
リゼットも目を見開いた。
「まさか……」
マドカが呼び出したのは、最難関ダンジョン第三十層。
その最奥に存在するラスボス。
巨大な精霊獣――イフリート。
「イフリート……!」
リゼットの声に、会場がざわめいた。
「さ、三十層……?」
「そんなの、いたのか!?」
ガブリエルも目を見開く。
「……なるほど」
そして――笑った。
「そこまでですのね!」
「うん」
マドカも笑う。
「勝負しよう」
開始の合図。
炎の鳥が飛び上がる。
翼から炎が噴き出す。
無数の火球がイフリートへ飛んでいく。
「火には火ですわ!」
ガブリエルが叫ぶ。
爆発。
爆発。
爆発。
フィールドが炎に包まれる。
「どうだぁ~!?」
ニコラが実況する。
しかし――
炎の中から、巨大な腕が伸びた。
「え?」
イフリートの拳が、炎の鳥を捉える。
「ぐえっ!」
そのまま地面へ叩きつけた。
「肉弾戦だよぉ~!」
「同じ火属性でも、戦い方がまるで違いますね」
リゼットが解説する。
「フェニックス型のあのモンスターは、火を主体とした飛行型。一方、イフリートは――」
イフリートが拳を振り抜く。
「――あの巨体そのものが武器です」
炎の鳥が飛び上がる。
上空から炎を落とす。
イフリートも炎をまとった。
そして――
「来ます!」
イフリートの周囲に巨大な魔法陣が浮かぶ。
「上級魔法だよぉ~!」
炎が一気に膨れ上がる。
逃げる炎の鳥。
しかし、その先にも炎。
左右から挟み込まれる。
そして――
巨大な炎の塊が炸裂した。
「きゃあっ!」
ガブリエルが思わず声を上げる。
煙の向こう。
炎の鳥が、まだ飛んでいる。
「まだですわ!」
ガブリエルが叫ぶ。
「最後まで――!」
炎の鳥が一直線に突っ込む。
イフリートも迎え撃つ。
巨大な拳。
炎をまとった鳥。
二つの炎が真正面からぶつかった。
轟音。
フィールドが揺れる。
観客席からは、誰も声を出さない。
そして――
ゆっくりと、炎の鳥が落下した。
地面に倒れる。
動かない。
「……勝者」
審判が確認する。
「マドカ選手!」
一瞬の静寂。
そして――
「うおおおおおおおおっ!」
会場が爆発したような歓声に包まれた。
マドカはイフリートを戻す。
ガブリエルは、しばらく倒れたモンスターを見つめていた。
やがて――
「……負けましたわ」
悔しそうに呟く。
だが、次の瞬間には顔を上げた。
「マドカ!」
「ん?」
「もう一回やりたいですわ!」
マドカは少し驚いてから、笑った。
「いいよ」
「本当ですの!?」
「うん。今度はもっと強いの連れてきてね」
「望むところですわ!」
実況席では、ニコラが笑っている。
「というわけでぇ~、優勝はマドカだよぉ~!」
隣ではリゼットが静かに頷いた。
「……まあ、マドカだからね」
「リゼット、それで納得しちゃうんだぁ~」
「ええ」
リゼットはフィールドにいるマドカを見る。
「ただ――」
「ただ?」
「ガブリエルも、かなり強くなったわ」
その言葉に、ニコラが笑った。
「じゃあ次の大会は、もっと面白くなりそうだねぇ~」
フィールドでは、すでにガブリエルがマドカへ駆け寄っていた。
「次は絶対に勝ちますわよ!」
「うん」
「その余裕そうな顔……!」
「え?」
「絶対に負けませんわ!」
「分かった分かった」
決勝戦は終わった。
しかし――
二人の勝負は、どうやらこれで終わりではないらしい。




