感謝祭の町の様子
祭り当日。
朝早くから、スロリア・ゴールには人が集まり始めていた。
町の入口には飾り付けが施され、通りには簡易の屋台が並んでいる。
情報塔からも、祭りの開始を知らせる声が響いていた。
『本日、スロリア・ゴール収穫祭を開催します。皆さん、楽しんでくださいねー』
マドカの声だった。
『食べ過ぎには気をつけてください。あと、走ると危ないですよー』
「子供扱いされてるみたいだな」
通りを歩いていた冒険者が苦笑する。
「でも、こういうのも悪くない」
その横を、別の冒険者が串焼きを片手に通り過ぎていく。
「朝から食ってんのかよ」
「祭りだからな!」
「理由になってねぇ!」
そんなやり取りが、あちこちで聞こえていた。
◇
「すごい人だねー!」
マドカは町を見回していた。
「昨日より多いんじゃない?」
「祭りだからでしょう」
エレノアが隣で笑う。
「町の外から来た人も多いみたいです」
「宿、大丈夫かな?」
「そこは商人たちが臨時の宿泊場所を用意しているそうです」
「へぇー」
町が勝手に動いている。
それがマドカには少し嬉しかった。
エキドナが全部準備しなくても、町の人たちが自分たちで祭りを作っている。
「いいね」
「何がです?」
「こういうの」
マドカは笑った。
「私たちだけのお祭りじゃなくて、町のお祭りになってる」
「はい」
エレノアも嬉しそうだった。
◇
「果物パフェはこちらですよー!」
ヒナタの声が響く。
屋台には色とりどりの果物が並んでいた。
「イチゴ!」
「こっちは桃!」
「ブドウもあるぞ!」
「全部乗せできる?」
「できますよ」
「じゃあ全部!」
「全部ですか?」
「祭りだから!」
ヒナタが困ったように笑う。
「分かりました」
その隣では、
「コーラあるぞ!」
ゲンナイの作った炭酸飲料も売られている。
「なんだこれ!」
「シュワシュワする!」
「甘い!」
「もう一杯!」
『飲み過ぎんなよ』
映像装置からゲンナイの声が飛んでくる。
「ゲンナイさん、飲み過ぎる人いるの?」
『いるに決まってんだろ』
「なんで分かるの?」
『人間だからだ』
妙に説得力があった。
◇
食べ物の屋台は、それだけではない。
肉料理。
焼き魚。
揚げ物。
パン。
菓子。
エキドナで作られた新しい料理から、町で昔から食べられていたものまで並んでいる。
「マドカちゃん、これ食べる?」
クリスティーナが串焼きを差し出した。
「食べる!」
「どうぞ」
「あーん」
「自分で食べなさい」
「ちぇー」
マドカは串を受け取る。
「おいしい!」
「でしょう?」
クリスティーナも嬉しそうだった。
その少し離れたところでは、ガブリエルが大量の料理を前にしている。
「まだまだ食べられますわ!」
「ガブちゃん、食べ過ぎじゃない?」
「祭りですもの!」
「それ便利な言葉だなぁ」
「マドカさんも使っているではありませんか!」
「私はそんなに使ってないよ?」
「使っていますわ!」
「そうだっけ?」
「使っています!」
そんな二人を見ながら、エレノアが笑う。
「楽しそうですね」
「うん」
マドカも笑った。
◇
昼頃になると、広場では簡単な余興が始まった。
「次は大食い競争でーす!」
司会をしているのはマドカ。
「制限時間は三十分! 食べられるだけ食べてください!」
「雑だな!」
観客から声が飛ぶ。
「細かいことは気にしない!」
「それでいいのか!?」
「祭りだから!」
「またそれか!」
参加者たちの前に料理が並べられる。
「よーい!」
開始と同時に、一斉に食べ始めた。
「すごい……」
ヒナタが目を丸くする。
「冒険者って、あんなに食べるんですね」
「体力使うからね」
マドカは適当に答える。
「マドカさんは?」
「私は見てる」
「参加しないんですか?」
「無理」
「即答ですね」
◇
午後。
今度は広場に大きな舞台が作られた。
「お待たせしました!」
マドカが舞台へ上がる。
「ここからはファッションショーです!」
観客から歓声が上がる。
「服を見るだけなのか?」
「もちろん!」
「祭りで?」
「祭りだから!」
「またか!」
笑い声が起こる。
最初に出てきたのは、町の服飾店が作った衣服。
続いてエキドナの衣服。
普段着。
子供服。
動きやすい服。
少し豪華な服。
そして、マドカが地球の服を参考に作った衣装。
「おお……」
観客の目が集まる。
「こういう服もあるのか」
「動きやすそうだな」
「王都じゃ見たことないぞ」
町の人たちが楽しそうに話している。
次々とモデルが舞台を歩いていく。
そして。
「次はグレタさんの装備です!」
「……装備?」
観客がざわつく。
舞台にグレタが現れる。
身につけているのは鎧。
だが、ただの鎧ではない。
装飾性と機能性を両立させた、グレタらしい一品だった。
「武器まで持ってるぞ」
「ファッションショーだよな?」
「そうだよ」
マドカが即答する。
「武器もファッション!」
「そうなのか!?」
グレタは気にした様子もなく舞台を歩く。
観客から拍手が起こる。
「……悪くねぇな」
グレタが小さく笑った。
◇
最後に、マドカ自身も舞台に上がった。
白い髪。
いつものようなラフな服。
そして胸元には、大きく文字が書かれている。
――自由人。
「それ、普段着だろ!」
観客から突っ込まれる。
「そうだよ?」
「ファッションショーだぞ!」
「私の服だからいいの!」
笑いが起こる。
マドカは舞台の中央でくるりと回った。
「こういう服も、こういう祭りも!」
観客を見る。
「好きなものを好きに楽しめばいいんだよ!」
大きな拍手が起こった。
スロリア・ゴールのあちこちから歓声が聞こえる。
食べ物を楽しむ人。
買い物をする人。
友達と笑う人。
初めて町を訪れた人。
そして、エキドナの作ったものを楽しむ人。
いつの間にか。
スロリア・ゴール全体が、一つの祭りになっていた。
「……楽しいね」
マドカが舞台の上から町を見渡す。
「うん」
エレノアが答えた。
「とても楽しいです」
祭りは、まだ始まったばかりだった。




