王の視察7
服売り場の一角。
そこには、普通の衣服とは明らかに違う商品が並んでいた。
「……なんだ、これは?」
トロイが一枚のシャツを手に取る。
胸元に大きく書かれている。
――諦めたらそこで試合終了だよ。
「名言Tシャツ!」
マドカが胸を張った。
「名言?」
「うん。地球で有名な言葉を服にしてみた」
トロイは次の一枚を見る。
――逃げちゃダメだ。
「……これは?」
「それも名言」
「ずいぶん短いな」
「短いからいいんだよ」
「そういうものなのか?」
「そういうもの」
その隣には、
――海賊王に俺はなる。
「海賊王?」
「うん」
「海賊の王か」
「そう」
「……なりたいのか?」
「私はならないよ」
「ならないのか」
「私はマドカだから」
「それはそうだな……」
さらに一枚。
――坊やだからさ。
「これはどういう意味だ?」
「坊やだからさ」
「いや、それでは説明になっていないだろう」
「名言だから」
「名言なら仕方ないのか……?」
トロイが困惑している横で、エレノアが別のシャツを手に取った。
「お父様、こちらもありますよ」
――まだだ、まだ終わらんよ。
「……」
「……」
「これは私が着ても問題ないだろうか?」
「いいんじゃない?」
マドカが即答する。
「王様だし」
「王であることと何の関係がある?」
「なんとなく」
「なんとなくか……」
その横にはさらに、
――見ろ、人がゴミのようだ。
「これは駄目だろう!」
トロイが思わず突っ込んだ。
「なんで?」
「王が着ていたら問題になる!」
「じゃあお忍び用」
「そういう問題ではない!」
マドカは笑いながら次のシャツを取り出した。
――止まるんじゃねぇぞ。
「これは?」
「止まるなってこと」
「そのままだな」
「分かりやすいでしょ?」
「……まあ、分かりやすいが」
さらに一枚。
――クソお世話になりました。
「これは……」
トロイが黙る。
「どういう場面で着るんだ?」
「感謝を伝えたいとき?」
「随分と荒々しい感謝だな」
「気持ちは伝わるよ」
「本当にそうか?」
そして最後。
黒いシャツに、大きく書かれた文字。
――I am Atomic.
「……これは?」
「必殺技」
「服に必殺技を書くのか?」
「かっこいいじゃん」
「……そういうものなのか」
トロイはしばらくTシャツを眺めた。
「この店には、普通の服はないのか?」
「あるよ?」
「では、なぜこんなものが大量にある?」
「面白いから」
「……」
トロイは少し考えた。
そして、
「『まだだ、まだ終わらんよ』を一枚」
「買うの?」
「気に入った」
「王様が?」
「ああ」
「じゃあおまけしてあげる」
「王だからか?」
「ううん。お客さんだから」
「……そうか」
トロイは少し嬉しそうに笑った。
王としてではなく、一人の客として扱われる。
それもまた、この町では普通のことらしい。




