王の視察5
食事も一段落したころ。
「ねえねえ、ゲームしよう!」
マドカが突然、番号札をテーブルの上に並べ始めた。
「ゲーム?」
トロイが首を傾げる。
「王様ゲーム!」
「……」
トロイは少しだけ嫌な予感がした。
「余がいるのに?」
「だから面白いんじゃん!」
「理屈が分からん」
クリスティーナが楽しそうに笑う。
「いいではありませんか。たまにはこういうのも」
「姉上まで……」
「王様ゲームって、どんなゲームなの?」
ヒナタが興味深そうに聞く。
「番号を引いて、王様になった人が命令するの」
マドカが説明する。
「命令?」
「うん。『三番が五番に何かする』とか」
「なるほど」
ニコラが札を眺める。
「王様が王様に命令するの~?」
「今回はそれもあり!」
「ふふ」
クリスティーナが笑った。
「では、やってみましょう」
王城のメイドたちも参加することになった。
エキドナのメンバー。
王族。
王城のメイド。
かなりの人数だ。
「では、引いてください」
一斉に番号札を取る。
「王様は誰?」
「私!」
マドカが手を上げた。
「最初はマドカか」
トロイが少し安心した顔をする。
「えーっと……」
マドカが考える。
「三番が五番に――」
その瞬間。
「待て」
トロイが止める。
「いきなり何を命令する気だ」
「まだ言ってないよ?」
「顔が怪しい」
「ひどい!」
マドカが笑う。
「じゃあ普通に!」
少し考えてから、
「三番が五番に、握手!」
「無難だな」
命令が実行される。
そして次。
「今度は私が王様ですわ」
クリスティーナが札を掲げた。
「では……二番と六番が、一緒に紅茶を飲む」
「平和だな」
トロイが言う。
「王様ゲームって、こんなものなのか?」
「まだ始まったばっかりだよ!」
マドカが笑う。
次の回。
「俺が王だ」
トロイが札を見せた。
「おお!」
「では……」
トロイは考える。
少しだけ悪戯っぽい顔をした。
「四番が一番に、料理を一口食べさせる」
「お父様、意外と普通ですね」
「何を期待していた」
料理が運ばれる。
そしてまた次。
「王様は……私!」
エレノアだった。
「では、七番が八番にコーラを注いでください」
「普通だねぇ~」
ニコラが笑う。
「平和ですわね」
クリスティーナも楽しそうだ。
そして――
「王様、私!」
マドカが再び札を掲げた。
「今度こそ!」
「嫌な予感がする」
トロイが呟く。
「三番が五番に――」
マドカが番号を確認する。
「膝枕!」
「……」
部屋が静かになった。
「三番は?」
トロイが自分の札を見る。
「余だ」
「五番は?」
クリスティーナが札を見せる。
「私ですわ」
「……」
トロイとクリスティーナが互いを見る。
「王様の命令ですもの」
クリスティーナが笑う。
「仕方ありませんわね」
「……余が姉上に膝枕を?」
「そういう命令ですから」
トロイは諦めたように息を吐く。
「分かった」
クリスティーナがソファに座り直す。
「どうぞ」
「……」
トロイがそこへ座る。
「……なんだ、このゲーム」
王城のメイドたちは必死に笑いを堪えていた。
エレノアも口元を押さえている。
マドカは大喜びだ。
「王様ゲーム楽しいね!」
「お前が言うな」
トロイが呟く。
そこへ猫が一匹やってきた。
トロイの膝に乗る。
「……」
「まあ」
クリスティーナが笑う。
「猫まで参加していますわ」
「猫も王様ゲームする?」
マドカが聞く。
「猫には番号札がありませんわ」
「じゃあ猫は特別枠!」
「どういう枠だ」
トロイが呆れる。
しばらくして。
「では、次です」
王城メイドが札を集める。
「王様は……」
「私ですわ」
またクリスティーナだった。
「では――」
クリスティーナがトロイを見る。
「三番の方は、五番の方に紅茶を淹れて差し上げてください」
「……」
トロイが札を見る。
「三番は余だ」
五番を見る。
「五番は……姉上」
「よろしくお願いしますわ」
「……」
トロイは立ち上がった。
「紅茶を淹れればいいんだな」
「はい」
王城メイドがすぐに準備する。
トロイが紅茶を淹れる。
クリスティーナが受け取る。
「ありがとうございます、トロイ」
「……」
トロイは席に戻った。
「……おかしくないか?」
「何がです?」
「王様ゲームだぞ」
「そうですわね」
「なぜ余ばかり接待されている」
「王様だからじゃない?」
マドカが即答した。
「それだ!」
トロイがテーブルを叩く。
「王様だからって何でも許されると思うな!」
「でも王様ゲームだよ?」
「……」
言い返せない。
ニコラがくすくす笑う。
「王様ゲームって、王様を接待するゲームだったんだねぇ~」
「違う!」
トロイが即座に否定した。
その横で、猫が気持ちよさそうに丸くなっていた。
オムライスには大きく「王」の文字。
テーブルにはパンケーキ全部のせ。
手元には紅茶。
膝には猫。
そして隣には姉。
「……」
トロイは改めて周囲を見回した。
「……余は何をしに来たんだった?」
「視察ですよ」
エレノアが答える。
「本当に?」
「本当に」
クリスティーナが笑う。
「楽しい視察ですわね」
「……そういうことにしておく」
こうして。
王の視察は、さらに王様ゲームという名の接待へと姿を変えていった。




