↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落内円は落ちている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
147/531

王の視察4

 次に案内されたのは、少し変わった区画だった。


「……ここは?」


 扉を開けた瞬間、トロイの耳に聞こえてきたのは、楽しそうな声。


 そして――


「にゃー」


 一匹の猫が、足元を横切った。


「……猫?」


「猫カフェですわ」


 クリスティーナが微笑む。


「猫カフェ?」


「はい。猫と触れ合いながら、お食事やお茶を楽しめるお店です」


 エレノアが説明する。


「なるほど……」


 トロイは店内を見回した。


 そこそこ広い。


 猫が走り回れるように作られたスペースもあり、その一方で食事をするための席も用意されている。


「人気店なんですよ~」


 ニコラがのんびり言う。


「ただ、人気になりすぎて、ちょっとお客さんのマナーが悪いこともあってねぇ~」


「マナーが?」


「猫を追いかけ回したり、他のお客さんに絡んだりとか~」


「それは困るな」


「だから、ちゃんと猫と一緒にゆっくりできるVIP個室もあるんです」


 エレノアが扉を開ける。


「こちらです」


「……ほう」


 中はかなり広かった。


 テーブルと椅子。


 ソファ。


 猫が休める場所。


 そして、猫が自由に出入りできる小さな扉まである。


「今日はここを貸し切りにしています」


「貸し切り?」


「はい。私たちエキドナの皆さんと、王城のメイドたちで使わせてもらいます」


「王城のメイド?」


 トロイが振り返る。


 そこにはすでに数人の王城メイドが控えていた。


「本日はお手伝いさせていただきます」


「……」


 トロイは店内を見回した。


 猫。


 メイド。


 エキドナ。


 自分たち。


「……これは視察なのか?」


「視察ですよ」


 エレノアが即答する。


「本当に?」


「本当にです」


 クリスティーナが楽しそうに笑った。


「まあ、座りましょう。せっかくですもの」


「そうだな……」


 トロイも席についた。


「では、メニューをどうぞ」


 王城メイドが差し出したメニューを開く。


「……」


 トロイが黙る。


「どうしました?」


 エレノアが覗き込む。


「多くないか?」


「そう?」


 マドカが横から見る。


「オムライス、ポテトフライ、からあげ、エビフライとハンバーグのプレート……」


 トロイが読み上げる。


「ホットドッグ」


「ありますよ~」


「パフェ」


「あります~」


「アイス」


「あります~」


「パンケーキ全部のせ」


「あります~」


「コーラ、コーヒー、紅茶……」


「あります~」


「……」


 トロイがメニューを閉じた。


「多すぎないか?」


「選べるって大事だよ!」


 マドカが力説する。


「余は食べきれんぞ」


「みんなで食べればいいじゃん」


「……それもそうか」


 結局、全員でいくつか注文することになった。


「私は紅茶とパンケーキにしますわ」


 クリスティーナ。


「私はオムライス!」


 マドカ。


「私はホットドッグ~」


 ニコラ。


「私は……紅茶を」


 ヒナタが小さく手を上げる。


「私はコーヒーでいいわ」


 リゼット。


「私はエビフライとハンバーグのプレート!」


 エレノアが嬉しそうに言った。


「お父様は?」


「……」


 トロイは少し考える。


「オムライスにする」


「じゃあオムライスですね」


 マドカが頷いた。


「そうだ!」


 何か思いついたらしい。


「オムライスといえば、あれやろう!」


「あれ?」


「ケチャップで文字を書くの!」


「文字?」


「好きな文字を書けるんだよ!」


「面白そうですわね」


 クリスティーナも乗ってくる。


「では、誰が書くかは?」


「じゃんけん!」


「お父様も参加ね」


 エレノアが笑う。


「余も?」


「もちろん」


「……王にケチャップを持たせるのか?」


「王様だからこそ!」


「意味が分からん」


 そう言いながらも、トロイはじゃんけんに参加した。


「じゃーんけーん……」


「ぽん!」


 勝ったのは――


「余か」


「おお!」


 マドカが拍手する。


「じゃあ、好きな文字を書いて!」


 トロイはケチャップを受け取った。


 オムライスを見る。


 少し考える。


 そして――


 大きく一文字。


「……王」


「普通だ!」


 マドカが笑う。


「何を書くと思ってたんだ?」


「『肉』とか!」


「なぜだ」


 クリスティーナがくすくす笑う。


「ふふ。トロイらしいですわ」


「姉上まで……」


 そこへ猫が一匹、トロイの膝元へやってきた。


「おや」


 トロイが手を伸ばす。


 猫は逃げない。


「……こいつ、余に懐いているのか?」


「たぶん」


 マドカが笑う。


「気に入られたんじゃない?」


「そうか……」


 トロイは少し嬉しそうに猫を撫でた。


 料理が運ばれてくる。


 オムライス。


 ホットドッグ。


 エビフライとハンバーグ。


 からあげ。


 ポテトフライ。


 そして、デザート。


「……これは」


 トロイがパンケーキを見る。


「全部のせです!」


 エレノアが嬉しそうに言う。


「全部……」


 生クリーム。


 果物。


 アイス。


 チョコレート。


 色々なものが乗っている。


「すごいですわね」


 クリスティーナも興味津々だ。


「お父様、一口食べます?」


「いや、余は――」


 猫がテーブルの下から顔を出した。


「……」


 トロイがパンケーキを見る。


 猫を見る。


 もう一度パンケーキを見る。


「……一口だけだ」


「ふふ」


 クリスティーナが笑った。


 食事を楽しんでいるうちに、マドカが突然立ち上がった。


「じゃあ、次はゲーム!」


「ゲーム?」


「王様ゲームしよう!」


「……」


 トロイが固まった。


「王様ゲーム?」


「うん!」


「余がいるのに?」


「だから面白いんじゃん!」


「どういう理屈だ」


 ニコラが笑う。


「王様が王様ゲームするんだぁ~」


「ややこしいですわね」


 クリスティーナまで乗り気だ。


「いいじゃない。せっかくですもの」


「姉上まで……」


「私も参加します!」


 エレノアも手を上げる。


 王城のメイドたちも顔を見合わせる。


「……私たちも、ですか?」


「全員参加!」


 マドカが宣言した。


 こうして。


 王族二人。


 エキドナの面々。


 王城のメイドたち。


 そして猫。


 なぜか全員で王様ゲームをすることになった。


「では、くじを引いてください」


 王城メイドが番号札を並べる。


 トロイも一枚取った。


「……」


 番号を見る。


「どうしたの?」


「いや……」


 トロイが札を見せる。


「王だ」


「おお!」


「さすが王様!」


「だから余は本物の王だ!」


 部屋中に笑い声が響いた。


「では、王様。命令をどうぞ」


「……」


 トロイは腕を組む。


 少し考える。


「では――」


 猫が一匹、トロイの膝に乗った。


「……」


 トロイは猫を見る。


 そして、命令を決めた。


「この猫を一番可愛がる者を決める」


「それ、命令なの?」


「余が王だ。いいだろう」


「じゃあ私!」


 マドカが即座に手を上げる。


「私もですわ」


 クリスティーナも笑う。


「私も!」


 エレノア。


「……私も」


 ヒナタ。


「私も~」


 ニコラ。


 リゼットも猫を抱き上げる。


「私も参加しましょうか」


「全員じゃん!」


 マドカが笑った。


 猫はというと。


 トロイの膝の上で、気持ちよさそうに丸くなっていた。


 結局。


 王様ゲームの勝者は、最後まで決まらなかった。


 ただ一つ分かったことがある。


 王の視察は――


 完全に、ただの楽しい食事会になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。