王の視察3
### 王、美容品とアルケミービーストを見る
ゲンナイの店を出ると、トロイたちは次の区画へと進んでいった。
「ここは何の店だ?」
棚に並んでいるのは、色とりどりの小瓶や箱。
化粧品らしいことは分かる。
だが、王宮で見かけるものとは雰囲気が違った。
「カトリーヌの美容品ですわ」
クリスティーナが楽しそうに説明する。
「美容品……」
トロイが一つ手に取る。
「これも魔道具なのか?」
「いえ、普通の商品ですよぉ」
横からニコラがのんびり答えた。
「使い方も簡単~。洗って、塗って、終わり~」
「……随分と簡単だな」
「簡単なのがいいんだよぉ~」
トロイはしばらく商品を眺めていた。
そして、ふとクリスティーナを見る。
「姉上、こういうのは好きか?」
「あら。もちろんですわ」
「そうか」
トロイは棚の商品をいくつか見比べる。
「カトリーヌに言っておいてくれ。これは家族への土産として取り置きしておけ」
「はいはい~」
ニコラが返事をする。
「……余の分も忘れるなよ」
「王様、自分の分も買うんですかぁ~?」
「悪いか?」
「別にぃ~」
ニコラは眠そうに笑った。
その隣で、クリスティーナが小さく笑う。
「まあ。せっかくですもの。私も選びたいですわ」
「好きにするといい」
完全に買い物になっている。
エレノアはそんな二人を見ながら、少しだけ苦笑した。
「お父様、視察は?」
「している」
「本当に?」
「している」
トロイは真顔で答えた。
だが、その手にはしっかりと土産用の商品が抱えられていた。
そのまま進んだ先。
「おや?」
トロイが足を止める。
そこには、小さな魔物たちがいた。
檻ではない。
広めの囲いの中で、自由に歩き回っている。
「これは?」
「アルケミービーストですわ」
「……これが?」
トロイが目を丸くする。
見た目は魔物だ。
しかし、こちらを見上げて首を傾げる姿は、どうにも怖くない。
「かわいいでしょう?」
クリスティーナがしゃがみ込む。
「……まあ、確かに」
一匹の小さなアルケミービーストが、トロイのほうへ近づいてきた。
鼻先を近づける。
くんくん。
「……」
トロイはじっと見つめる。
アルケミービーストも見つめ返す。
「……一匹、売ってくれ」
「え?」
エレノアが振り返った。
「もしくは、余に引き取らせてくれ」
「お父様?」
「何だ」
「本気ですか?」
「本気だ」
トロイはしゃがみ込む。
するとアルケミービーストが、ちょこんと足元に座った。
「……こいつがいい」
「決めるの早くない?」
「余を選んだ」
「そういうものなの?」
エレノアが困った顔をする。
そこへ、係のエキドナメンバーがやってきた。
「ああ、その子ですか」
「売ってくれるか?」
「もちろんですけど……」
「けど?」
「里親も募集してますよ?」
「……里親?」
「はい。ちゃんと面倒を見てもらえるなら、引き取ってもらえます」
トロイはアルケミービーストを見る。
アルケミービーストもトロイを見る。
「……余にも、できるか?」
「王様でも大丈夫ですよ」
「では」
トロイは即答した。
「余にほしい」
エレノアが思わず吹き出す。
「お父様、完全に気に入ってるじゃないですか」
「……悪いか?」
「いいえ」
クリスティーナも楽しそうに笑っていた。
「ふふ。良かったですわね、トロイ」
「姉上も欲しいのか?」
「私は……もう少し見てから決めますわ」
「そうか」
トロイはアルケミービーストを撫でながら、満足そうに頷いた。
こうして王の視察は、少しずつ別のものへと変わっていった。




