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落内円は落ちている  作者: 七風


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王の視察2

 総合エキドナ館の奥へ進んでいく。


 武具、衣類、化粧品、食料品。


 様々な商品が並ぶ中で、ひときわ雰囲気の違う一角があった。


「ここは?」


 トロイが足を止める。


「ゲンナイさんの作った魔道具が置かれている場所です」


 エレノアが答える。


「ゲンナイ?」


「ゲンナイ・ヒラガさんですわ」


 クリスティーナが名前を告げた瞬間、トロイの視線がニコラへ向く。


「……ヒラガ?」


「うん~」


 ニコラがいつもの調子で答える。


「関係者なのか?」


「そうだよぉ~」


「なるほど」


 それ以上を聞くこともなく、トロイは展示品へ視線を戻した。


「これは……何だ?」


「生活用の魔道具です」


 エレノアが説明する。


「生活用?」


「はい」


 目の前にあるのは、箱型の魔道具。


「食材を冷やして保存できます」


「冷やす?」


「はい。一定の温度を保てるそうです」


「……氷を使わずに?」


「魔道具ですから」


 トロイはしばらく箱を見る。


「便利だな」


「他にもありますよ」


 エレノアが隣を指す。


「洗濯用」


「……洗濯?」


「衣服を入れて動かします」


「掃除用」


「掃除?」


「料理用」


「…………」


 トロイは無言になった。


 一つ一つの用途は分かる。


 むしろ分かりやすい。


 だからこそ、妙だった。


「魔道具というのは……こういうことまで出来るのか?」


「ゲンナイさんは色々考える方ですから」


 クリスティーナが答える。


「こういうものが欲しい、と思ったものを魔道具にしてしまうんですの」


「なるほど……」


 トロイが次の展示品へ目を向ける。


 すると、少し離れたところに置かれた魔道具から声がした。


『あ、そこ見せて』


「?」


 トロイが振り返る。


 そこには小さな映像を映し出す魔道具があった。


 画面の中に映っているのは、若い男。


 見た目は二十五歳ほどだろうか。


『グライブ君、悪い。そっち行って』


「はいはい」


 声に応じて、少し離れた場所にいたグライブが歩き出す。


『もうちょっと右』


「こっち?」


『そうそう』


 グライブが右へ移動する。


『じゃあ今度、あっち』


「……まだやんのかよ」


『うん』


「はいはい」


 グライブは諦めたように歩いていく。


 トロイはその様子を眺めた。


「……何をしているんだ?」


「ゲンナイさんがグライブ君を通して店内を見ているんですわ」


 クリスティーナが答える。


「本人は外に出られませんので」


「なるほど」


 トロイは映像魔道具を見る。


 画面の中では、ゲンナイが楽しそうにグライブ君へ指示を出している。


『グライブ君、そこに立って』


「ここ?」


『うん。ちょうどいい』


「で、何なんだよ?」


『別に』


「……」


『じゃあ次、入口』


「はいはい」


 またグライブが歩いていく。


「……あいつ、何をさせられているんだ?」


 トロイが呟く。


「本人も慣れてますわね」


「そうだな……」


 映像の中のゲンナイが、トロイたちに気づいた。


『ん? ああ、お客さんか』


 トロイが一瞬、背筋を伸ばす。


 王として挨拶をするべきか。


 そう考えたところで――


『いらっしゃい。何か見る?』


 普通だった。


 あまりにも普通だった。


「……」


『そっちの棚、結構便利なの多いよ』


 ゲンナイはトロイが誰なのか、特に気にしている様子もない。


「……余は」


「トロイ」


 クリスティーナが横から止めた。


「?」


「普通のお客様として扱われているようですわね」


「……そうだな」


 トロイは少しだけ苦笑する。


「では、客として聞こう」


『うん』


「この魔道具は、どういう発想で作ったんだ?」


『どれ?』


「これだ」


 トロイが冷却用の魔道具を指す。


『ああ。冷蔵庫』


「冷蔵庫?」


『食べ物を冷やして保存するやつ』


「……」


『便利だよ』


「それは分かる」


 トロイは展示品を見る。


「だが、なぜ魔道具にしようと思った?」


『便利だから』


「……」


 また、その答えだった。


「それだけか?」


『それだけ』


 トロイはクリスティーナを見る。


 クリスティーナは楽しそうに笑っていた。


「そういう方ですわ」


「……そうか」


 トロイは諦めた。


 そして別の魔道具を見る。


「これは?」


『洗濯機』


「洗濯……」


『服を洗う』


「これは?」


『掃除機』


「これは?」


『電子レンジ……は、この世界だと魔道具レンジかな』


「…………」


 聞けば聞くほど、用途は分かる。


 だが、発想が分からない。


 魔法を使える者なら、もっと大規模なことを考える。


 戦闘。


 防衛。


 建築。


 治療。


 そういうものなら理解できる。


 しかし、この男は違う。


 食べ物を冷やす。


 服を洗う。


 部屋を掃除する。


 料理を楽にする。


 生活の中にある面倒なことを、魔道具で片っ端から便利にしている。


「……ずいぶん、生活に寄った魔道具だな」


『生活が一番長いからね』


 ゲンナイは当然のように答えた。


「……なるほど」


 トロイは少し考える。


「確かに、その通りか」


『でしょ?』


 画面の向こうでゲンナイが笑う。


 そのとき、グライブ君が戻ってきた。


「戻ったぞ」


『お疲れ』


「次は?」


『うーん……ちょっと休んでいいよ』


「最初からそうしてくれよ」


『じゃあ休んで』


「はいはい」


 グライブ君がその場に腰を下ろす。


 トロイはそのやり取りを見て、思わず笑った。


「……仲がいいな」


『まあね』


「そうか」


 映像魔道具越しに話しているだけなのに、不思議と距離を感じない。


 ゲンナイは王を王として扱わない。


 グライブ君も、ゲンナイに付き合う。


 そしてニコラは、いつものように少し離れたところで、


「おじいちゃん、また遊んでるねぇ~」


 と呟いている。


 トロイは店内を見回した。


 便利な魔道具。


 見たこともない発想。


 そして、それを当たり前のように並べているエキドナ。


「……ここは、本当に何でもあるな」


『そうだよ』


 映像の向こうからゲンナイが答える。


『ゆっくり見てって』


「そうさせてもらおう」


 国王ではなく、一人の客として。


 トロイは次の展示へ歩き出した。


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