祭りまで半月
祭りの告知が始まってから、まだ一日。
しかし、祭り当日までは――あと半月しかない。
町長の執務室では、すでに大量の書類が積み上がっていた。
「……来賓への招待状はこれで全部か?」
「はい。王都関係者、それから近隣の町や商人組合にも」
「宿の方は?」
「すでに予約が入り始めています。祭りの規模を考えると、町の宿だけでは足りなくなる可能性があります」
「会場は?」
「こちらも急いで準備しています」
「警備は?」
「冒険者ギルドと相談中です」
「交通整理は?」
「これからです」
「……」
町長は机に突っ伏した。
「半月しかないんだぞ……」
「だから急いでいるんです」
「分かっている!」
祭りというものは、開催するだけなら簡単だ。
だが、大勢の人間が集まるとなれば話は別だ。
宿。
食事。
警備。
交通。
会場。
来賓。
案内。
町の各所で準備が必要になる。
「……成功させれば、この町にとって大きな宣伝になる」
町長は顔を上げた。
「だったらやるしかないな」
◇
町長だけではない。
町のあちこちで、祭りに向けた準備が始まっていた。
「何を出そうかねぇ」
「新作料理を考えないと!」
「大食い大会もあるんだろ?」
「普通の料理じゃ駄目じゃないか?」
「でも食べきれない量にしたら失格になるぞ!」
主婦たちも大忙しだった。
祭りの日に出す料理。
屋台で売る新作。
大食い大会用の料理。
それぞれの家で試作が始まっている。
「これならどう?」
「ちょっと味が濃いわね」
「じゃあこっちは?」
「……いいんじゃない?」
「よし!」
失敗しては作り直し。
食べては意見を出し合う。
祭りはまだ先なのに、台所はすでに戦場だった。
◇
鍛冶屋でも同じだった。
「祭り限定品を出すぞ!」
「新作の剣は?」
「間に合う!」
「防具は?」
「こっちもだ!」
「エキドナが装備展示するんだろ?」
「だったら負けてられねぇ!」
槌の音が響く。
鍛冶職人たちも、新作作りに追われていた。
そして――
「服飾部門はもっと大変だぞ」
「分かってる!」
「スロリアゴールの服って、他国から見たらどう思われる?」
「……」
「ダサいと思われたくない」
「それは絶対に嫌だ!」
祭りは他国からも人が来る。
ならば、自分たちの町の服飾文化を見てもらう絶好の機会でもある。
「新作を作るぞ!」
「流行を作るくらいの気持ちでいけ!」
「徹夜はするなよ!」
「お前が言うな!」
こちらも大騒ぎだった。
◇
そして町の中心部では。
「ここが予選会場か」
「四人同時進行にするんだろ?」
「ああ。最初から一人ずつやってたら時間が足りない」
モンバトコロシアムの設営も進んでいた。
試合会場。
観客席。
大型の来賓席。
実況席。
解説席。
さらに選手たちの待機場所や、予選用の舞台まで必要になる。
「予選は四人同時だ」
「本戦まで残す人数は?」
「それは大会実行委員と相談だな」
「実況席はここでいいか?」
「もう少し高くした方が見やすい」
「来賓席は?」
「こっちだ」
巨大な会場が、少しずつ形になっていく。
普段のコロシアムとは、まるで別物だった。
◇
その頃。
銀翼の拠点でも、祭りについての話し合いが行われていた。
「俺たちも店を出すんだろ?」
「そうだな」
「でもさ……」
一人が腕を組む。
「これ、俺らだけで店出して客入るか?」
「……」
全員が黙った。
「エキドナの店、かなり大きいんだろ?」
「ああ。総合店みたいなものになるらしい」
「モンバトもある」
「アルケミビーストもいる」
「グレタの装備展示もあるらしいぞ」
「……俺たち、勝てる?」
「何の勝負だ」
しばらく考えて。
「もう私達、同盟なんだから」
女性陣の一人が言った。
「エキドナの敷地を借りて、混ざりましょう」
「それがいいな」
「銀翼単独の店にするより、その方が人も来るだろう」
「同盟の宣伝にもなるしな」
「じゃあ、エキドナに相談しよう」
銀翼の祭り計画も、少しずつ形になっていった。
◇
一方その頃。
王城でも、祭りの話が出ていた。
「ねぇ、トロイ」
「姉上、どうされた?」
クリスティーナ公爵夫人が一枚の手紙を手にしている。
「エキドナから招待が来たのだけど」
「祭りの招待状だな。余にもきているよ。姉上も興味津々だろう?」
「エキドナが運営を手伝う町だもの。楽しみしかないですわね。」
「ガブリエルもエレノアも手伝っているようだし、余も行こうと思う」
「そうね。今度はどんな面白いことがあるのかしらね。」
王は手紙を眺めた。
「ヒロバトの件もある」
「……ええ。あの子達は有名になりすぎたわね。」
「妙な輩が難癖をつけなければいいが」
少しだけ表情が曇る。
エキドナが関わる催しとなれば、ヒロバト目当ての者も集まるだろう。
それがどんな人物を呼び込むかまでは分からない。
すると、そこへ姉が顔を出した。
「あら?ニコラ博士がいるのでしょう?」
「いるけどあの貴族などどーでもいい態度、不安だ。」
「大丈夫よ」
「何がだ?貴族など気に入らんと噛みつくぞ?」
「何か言われても、ニコラ博士なら適当に流すわよ」
「……」
「ふふ」
王も少し笑った。
「それもそうか」
「楽しみね」
「ああ」
◇
そして、町にはもう一つ。
祭りを待ち望んでいる者たちがいた。
「これは大きな催しになりそうね」
記者は集めた資料を机に並べていた。
「エキドナの記事はいつも大好評だし……」
情報塔から流れた祭りの告知。
エキドナ。
モンバト。
ヒロバト。
新作料理。
各種職人の展示。
さらに王族や他国からの来賓まで予定されている。
「観光レポートも売れるわね!」
記事を書く手にも力が入る。
「これはしっかり取材しないと!」
◇
町長が走り回る。
主婦たちが料理を試作する。
職人たちが新作を作る。
コロシアムが姿を変えていく。
銀翼も準備を始める。
王城でも話題になり。
記者たちも記事の準備に追われる。
まだ祭りは始まっていない。
それでも――
町の誰もが、それぞれの場所で祭りに向けて動き始めていた。
あと半月。
この町にとって、これまでにないほど大きな催しが。
少しずつ、その姿を現し始めていた。




