告知映像塔
「まあ~」
ニコラが大型魔道具を眺めながら言った。
「映像の送受信はもうできてるしね~」
「そうなの?」
「うん。だから、そこまで手間じゃないよ~」
マドカが少し安心したように頷く。
「じゃあ、すぐできそう?」
「できると思う~」
「よかった」
「ただ……」
ニコラが大型魔道具の素材を確認する。
「素材が多そう~」
「素材?」
マドカが首を傾げる。
「今回のは~」
ニコラが画面を見上げる。
「みんなが見ても充分な大きさでしょ~?」
「うん」
「だったら、今までのクリスタルじゃ足りないね~」
「じゃあ、大きくする?」
「そうそう」
ニコラは何でもないことのように答えた。
「クリスタルも大きくなる~」
「どれくらい?」
「そうだなー」
ニコラが少し考える。
「三階建てくらいかな~」
「…………」
マドカが固まった。
「無理だろ」
グレタが即座に言った。
「え~?」
「クリスタルだけで三階建てって、どこから持ってくるんだ」
「作る?」
「どうやってだよ」
「頑張って~?」
「雑だな、おい」
マドカも大型魔道具を見上げる。
「いやいや、三階建てのクリスタルって何?」
「大きいクリスタル」
「そういう問題じゃないよ!」
ニコラは少し考える。
「じゃあ、二階建て?」
「そういうことじゃない!」
「一階建て?」
「普通のサイズに戻して!」
リゼットが呆れたように笑った。
「ニコラ。あなた、また必要な素材の規模を考えてないでしょう?」
「考えてるよ~」
「三階建てと言った時点で信用できないわ」
「ひどいな~」
「でも、実際に作れるなら問題ないんでしょう?」
エレノアが尋ねる。
「うん~」
ニコラはあっさり頷いた。
「素材さえあればね~」
「…………」
マドカたちは顔を見合わせた。
「結局そこなんだ」
「そうだね~」
「じゃあ、まず素材集めからか」
「そうなるね~」
ニコラは楽しそうに笑った。
「大きいクリスタル、探しに行こうか~」
「……三階建ては却下だからね?」
「え~」
「絶対だからね?」
「分かったよ~」
ニコラは少しだけ残念そうだった。
「じゃあ二階建てで」
「だから違うって!」
「なんで三階建てくらいの大きさなの?」
マドカが尋ねる。
「それはね~」
ニコラは大型魔道具を見上げながら答えた。
「全家庭から見ると、そのくらいは必要でしょ~?」
「た、確かに……」
マドカは少し考える。
町のどこからでも見えるようにするなら、それくらいの大きさが必要なのかもしれない。
「だが」
グレタが口を挟む。
「ギルドとか役場とか、食堂に配るだけでいいんじゃないか?」
「…………」
ニコラがマドカを見る。
「もぅ~」
「なに?」
「マドカはつまんないな~」
「つまんない!?」
マドカが思わず声を上げる。
「え? そんな理由なの!?」
「そんな理由って?」
「三階建てにする理由が『町のどこにいても見えるように』って……」
「大事でしょ~?」
「いや、ギルドとか役場とか、人が集まるところに置けば十分じゃん!」
「え~」
ニコラが不満そうに頬を膨らませる。
「せっかく作るんだから、どこからでも見えた方が面白いのに~」
「面白さで三階建てにするな!」
「まぁ、そうだな」
グレタが腕を組む。
「マドカの方が現実的だ」
「なんで!?」
マドカが振り返る。
「私、普通だよ!?」
「お前は変な知識を持ってくるくせに」
グレタが淡々と言う。
「常識から抜け出せないヘタレだ」
「ヘタレ!?」
マドカが抗議する。
「なんで私がヘタレなの!」
「三階建てのクリスタルを見て『無理だろ』と言えるからだ」
「それ普通だから!」
リゼットがくすりと笑う。
「ふふ。そうね」
「リゼットまで……」
「マドカは変だけど、普通ね」
「どういう評価なの、それ!?」
ニコラが楽しそうに笑う。
「じゃあ、やっぱりマドカは普通の変人だね~」
「その言い方やめて!」
マドカは頭を抱えた。
「もう! 普通なら普通でいいじゃん!」
「でも、三階建ては?」
「却下!」
「え~」
「却下!」
「つまんないな~」
「町の人たちの首が疲れるでしょ!」
「そこ?」
グレタが呆れたように呟いた。
「そこだよ!」
こうして、三階建ての大型クリスタル案は、とりあえず却下された。
「でも~」
ニコラが、ふと思い出したように言った。
「心当たりはあるんだよ~」
「え?」
「クリスタル」
「あるの?」
「うん~」
ニコラはあっさり頷く。
「ゲンナイだよ~」
「あー」
マドカも納得する。
「あの人なら便利だよね」
「おい」
グレタが眉をひそめる。
「本当の事を言ってやるな」
「だって便利じゃん」
「否定はできねぇが……」
「クライブも便利だけど」
マドカが続ける。
「あの人はなんか反則よね」
「そうそう~」
ニコラも頷く。
「好きな素材出してくれるし~」
「代わりに飯を要求するけどな」
グレタが言う。
「それくらいで好きな素材を出してくれるんだよ~?」
「やっすいよね~」
「やっぱり安いよな」
マドカも頷く。
「いや、だから本人に聞こえるところで言うなって」
「他にもヒロバトのデータ取らせろだろ?」
グレタが思い出したように言う。
「あいつ誰と対戦すんだよ」
「…………」
全員が黙った。
「俺らしか相手いねぇじゃねぇか」
「まあ、そうだけど」
マドカが笑う。
「でも、ゲームなら絶対勝つ!」
「急にどうした?」
「絶対勝つから!」
マドカが妙に自信満々に胸を張る。
「ゲンナイには負けない!」
「そこまで言うと、逆に負けそうね」
リゼットが微笑む。
「絶対勝つ!」
「はいはい~」
ニコラが笑った。
「じゃあ、ゲンナイさんに頼んでみる?」
「それでゲンナイにもらうの?」
エレノアが尋ねる。
「うん~」
「でも……」
リゼットが少し考える。
「さすがにマスタールームに置くのはきついんじゃない?」
「あ」
マドカが気づいた。
「そうだね」
「大きなクリスタルなんて、あの部屋には入らないわよ」
「いや、三階建ては却下しただろ」
グレタが即座に突っ込む。
「でも大きいのは欲しいんでしょ?」
「それはそうだが」
「だったら、マスタールームから出せばいいんじゃない?」
ニコラが考える。
「マスタールームの外に置いて、そこから町に送ればいいし~」
「……ゲンナイさん、部屋から出られないんじゃなかった?」
マドカが確認する。
「そうだな」
グレタが頷く。
「なら、俺たちが取りに行くしかないだろ」
「じゃあ行こうか」
マドカが立ち上がる。
「ゲンナイのところに」
こうして、一行はダンジョンのマスタールームへ向かうことになった。
しばらくして。
「おーい、ゲンナイー」
マドカがマスタールームへ入る。
「なんだ?」
部屋の奥から、いつもの声が返ってきた。
「ちょうどよかった~」
ニコラが前に出る。
「ゲンナイさんにお願いがあるんだよ~」
「嫌な予感しかしねぇな」
「大きいクリスタルが欲しい~」
「…………」
ゲンナイがニコラを見る。
「どれくらいだ?」
「町中から見えるくらい~」
「却下された」
マドカが即座に言う。
「誰に?」
「私に」
「じゃあ、ほどほどにしろ」
「ほどほどってどれくらい?」
「マスタールームから持ち出せるくらいだな」
「それだと、どのくらい?」
「知らん」
「知らんの!?」
「俺がサイズ測ってると思うか?」
ゲンナイは呆れたように言う。
「必要な分だけ出してやる」
「やった~」
「ただし」
ゲンナイが指を立てる。
「飯は食わせろよ」
「ほら!」
ニコラが嬉しそうに笑う。
「やっぱり安い~」
「……だから本人の前で言うなって」
グレタが呆れる。
マドカは笑いながらゲンナイを見る。
「じゃあ、クリスタルお願いね」
「ああ」
「あと、ヒロバトもやる?」
「やる」
即答だった。
「でも絶対負けないからね!」
「お前、まだ言ってんのかよ」
「ゲームなら絶対勝つ!」
ゲンナイが笑う。
「じゃあ、楽しみにしてるわ」
「負けないよ!」
こうして。
大型魔道具のためのクリスタルは、ゲンナイに用意してもらうことになった。
ゲンナイから譲ってもらった巨大なクリスタルは、そのままでは使えなかった。
まず、必要な大きさに合わせて板状へと加工する。
巨大な一枚板のままでは運ぶことも設置することも難しいため、さらにいくつもの大きさに分割。
まるで巨大なジグソーパズルのように細かく分けられたクリスタルを、外へ運び出して再び組み直していく。
分割した部分には継ぎ目が残る。
そこを丁寧に処理し、段差や歪みをなくしていく。
最後は表面を徹底的に研磨。
何度も磨き上げられた巨大なクリスタルは、やがて一枚の巨大な映像表示面へと姿を変えた。
「できた~」
ニコラが満足そうに見上げる。
「これなら、町のみんなにも見えるね」
「ええ」
マドカも巨大なクリスタルを見上げた。
「これで予定とか、お知らせとかを流せるんだよね?」
「うん~」
「なら、目的は達成だね」
そう言ったところで。
「せっかくだから、シンボルタワーが欲しいわね」
「…………」
リゼットが突然、とんでもないことを言い出した。
「タワー?」
「ええ」
リゼットは巨大なクリスタルを見ながら続ける。
「途中にこの魔道具をはめ込めば、遠くからでも見えるわよ」
「いや、画面だけで十分じゃない?」
「町の目印にもなるでしょう?」
「まあ……」
マドカが考えている間に、ニコラが嬉しそうに頷く。
「いいね~」
「作るなら、丈夫にしないとな」
グレタまで乗ってきた。
「ちょっと待って」
マドカが二人を見る。
「なんで作る方向に進んでるの?」
「塔はリゼットが担当~?」
ニコラが尋ねる。
「ええ」
リゼットは即答した。
「この子のプレゼントだもの」
「そうね」
エレノアも頷く。
「せっかくですから、町の象徴になるようなものがあってもいいと思います」
「エレノアまで……」
マドカが頭を抱える。
「では、どんな塔にしましょうか」
町長も興味深そうに尋ねた。
「そうね……」
リゼットは少し考える。
「白い巨塔にして」
「白い巨塔?」
「ええ。汚れ防止もかけておくわ」
「そこまでやるの?」
「長く使うものですもの」
リゼットは当然のように答える。
「それに、高い方がいいでしょう?」
「どのくらい?」
ニコラが聞く。
「ざっと……六百三十四メートルくらいかしら」
「ムサシかよ!」
マドカが即座に突っ込んだ。
「あなた、何を言っているの?」
「いや、数字!」
「何か問題でも?」
「問題しかないよ!」
マドカが塔の建設予定地を見る。
「そんなの町から見たら完全に巨塔じゃん!」
「だから、シンボルタワーなのでしょう?」
「そういう意味じゃないって!」
町長は二人のやり取りを眺めながら、ふと真面目な顔になる。
「ですが……」
「?」
「確かに、この町にも名物と言いますか、象徴となる建築物のようなものは必要だと思っていました」
「そうなの?」
「ええ。我が町には、教会などもまだありませんから」
「ああ……」
マドカも少し考える。
「まあ、生きるのに必死だったしね」
「ええ。昔からこの町には、そこまで信心深い者も多くありませんでした」
町長が苦笑する。
「今の住民の信仰は、リゼット様でしょうね」
「何を馬鹿なことを言っているの」
リゼットが呆れた顔をする。
「本当に……呆れたものね」
「いえ、冗談ではなく――」
「やめなさい」
「はい」
町長は素直に引き下がった。
そして。
塔の建設が始まった。
巨大な基礎が組まれ、白い素材が次々と積み上げられていく。
リゼットが魔法で形を整え、グレタたちが構造を補強する。
ニコラは巨大なクリスタル製の映像表示面を設置するための魔道具を調整し、エレノアと町長は安全面や周囲への影響を確認していく。
さらにリゼットが表面へ汚れ防止の魔法を施していく。
作業は恐ろしいほどの速度で進んだ。
そして――。
二日が経った。
朝。
「ん……」
マドカは眠そうに目をこすりながら、窓へ向かった。
「今日もいい天気――」
何気なく外を見る。
「…………」
マドカの動きが止まった。
窓の向こう。
ゴールの中央に。
昨日まで存在しなかったものが、天高くそびえ立っていた。
真っ白な塔。
あまりにも巨大で、先端が視界に収まらない。
朝日に照らされた白い塔は、まるで天そのものへ突き刺さっているようだった。
「…………」
マドカはしばらく無言で見上げる。
そして。
「バベルかよ!!」
朝のゴールに、マドカの叫び声が響き渡った。




