ヒロバト説明会6
「では、最後にいくつか確認させていただきたい」
会場から声が上がった。
「騎士団などの場合、自分たちの団員をデータ化して、訓練に利用することも可能なのですな?」
「もちろん~」
ニコラはあっさり答える。
「自分たちのデータなら、わざわざ他人のデータを買わなくても使えるよ~。剣士とか槍兵とか盾兵とか、いろんな人を登録しておけば、それだけでも訓練相手になるし~」
「なるほど……」
騎士団関係者たちが互いに顔を見合わせる。
「では、他人のデータを購入するのは、自分たちにない技術を持つ者が必要な場合などですな」
「そうそう~。○○流の達人と戦ってみたいとか、自分たちの団にはいないタイプの魔法使いが欲しいとか。そういう時に契約すればいいんじゃない?」
「ふむ……」
今度は教育関係者から声が上がった。
「学校などで利用する場合も、教師や卒業生など、本人の許可を得て登録すれば教材として使えるということですか?」
「契約で許可されてればね~」
ニコラは眼鏡を押し上げる。
「人間データだから、そこはちゃんと決めておいてね~」
「分かりました」
そこで、一人の魔法研究者が手を挙げた。
「では、魔法について確認したい」
会場の視線が集まる。
「幻影が魔法を使えるとのことだが、例えば治癒魔法を使わせれば、実際の負傷者を治療できるのか?」
「できないよ~」
即答だった。
「幻影の魔法で現実の人を治したり、実際の物を作ったりすることはできないよ~。あくまで戦闘で使っている魔法を再現するだけだから」
「……そうか」
魔法研究者の表情が少し曇る。
別の者が続けた。
「では、建築用の魔法を使わせて、実際の工事に利用するということも?」
「無理~」
また即答。
「そういうのは本物の魔法使いに頼んでね~」
「……なるほど」
さらに別の魔法使いが、おそるおそる尋ねる。
「では、その魔法の理論についてはどうだ? 幻影の使っている魔法を観察すれば、術式や構築理論まで理解できるのか?」
「そこまでは分からないよ~」
「……」
魔法使いたちの間に、微妙な空気が流れた。
「本人が実際に使っている魔法を再現することはできるけど、その人がどういう理論で魔法を組み立てているのかまで、こっちが理解できるわけじゃないから~」
「それは……少し残念ですな」
「まあ、戦闘の教材としてなら使えると思うよ~」
ニコラは特に気にした様子もない。
そんなやり取りを聞いていた一人が、ふと別の疑問を口にした。
「しかし、これほど複雑なものなら、購入した者が規則を理解できずに問題を起こすこともあるのでは?」
「別に買ってもらわなくても困りませんし」
ニコラの返答は早かった。
「面白そうだからつくっただけ~」
「…………」
「BANされる使い方する方が悪いんじゃない~?」
会場が静まり返る。
「……う、うむ」
王が頷いた。
「ニコラの言う通りだな」
何人かが気まずそうに視線を逸らした。
ニコラはそんな空気も気にせず続ける。
「そもそも今回のは、モンスターバトラーみたいに簡単じゃないから~」
「ほう」
「だから、ここに集めてもらったんだよ~。権力者とか教育者とか、お金を持ってる人とか。実際に買って使う可能性がある人向けの説明会~」
そして、壇上に置かれた記録媒体を指差す。
「説明映像も最初から用意してるし~」
「説明映像?」
「うん。人間データの扱いとか、契約とか、禁止されてることとか。全部説明してるよ~」
「本体を購入しなければ見られないのですか?」
「いや。説明映像だけでも売ってるよ~。タダみたいな値段で」
会場がざわつく。
「本体買わなくても、それ見てから考えればいいじゃん~」
ニコラは本当に何でもないことのように言った。
「見て、面白そうとか便利そうって思ったら買えばいいし。理解できないなら買わないで~。面倒だし~」
「……煽っているなぁ」
誰かが小さく呟いた。
「煽ってないよ~。本当にそう思ってるだけ~」
「…………」
「だから、説明した内容について後から『知らなかった』って言われても困るんだよね~」
王が苦笑する。
「そこまで準備しているなら、確かに言い分はないな」
会場にも、今度は反論ではなく頷く者が増えていった。
その様子を見ながら、王が口を開く。
「だが――」
会場が静かになる。
「私は、この製品について別のことを考えている」
王の視線がヒロバトへ向いた。
「これは、世界の教育を著しく向上させることになるのではないか」
先ほどまでとは違う空気が流れた。
「例えば、○○流剣術などがあるだろう?」
数人の剣士が顔を上げる。
「このデータは、最初に決まった技を使い、その次には必ず別の技を使う――というものではないのだな?」
「うん~」
ニコラが答える。
「○○流剣術の技術を全部組み合わせて、相手の動きを見ながら選ぶよ~」
王は頷いた。
「つまり、相手の行動を読み、その場に適した技を繰り出す」
「そういうこと~」
「ならば、同じ相手であっても?」
「一度たりとも同じ行動にはならないと思うよ~」
「毎回、違う結果になるわけか」
「うん」
王は会場を見渡した。
「これは単なる記録映像ではない」
誰も口を挟まない。
「一流の剣士の技を見るだけではない。その者を相手にして、何度でも戦い、考え、試すことができる」
王の言葉に、教育者たちが顔を見合わせる。
「自分たちの団員を登録すれば、自分たちだけの訓練環境も作れる。必要なら他者と契約して、さらに技術の幅を広げることもできる」
そして、ゆっくりと言った。
「これまで、一流の技術を学ぶには、その人物のもとへ直接赴く必要があった」
「だが、ヒロバトならば違う」
王はヒロバトを見つめる。
「何度でも学べる。何度でも挑戦できる。相手の反応も毎回変わる」
「……」
「私は、この製品が世界の教育を大きく変えることになると思っている」
その言葉に、会場がざわめいた。
そして、その中から明るい声が響く。
「おもしろい……おもしろいわね!」
クリスティーナ夫人だった。
「あなた! ニコラ博士! これはやばいわよ!」
「便利だよ~」
「ええ、本当に!」
ニコラは相変わらず淡々としている。
「まあ、便利だなーって思う組織は多いだろうねー」
そして最後に、
「でも、ただの金持ちの自慢で買ったら後悔するよ~?」
王が思わず苦笑した。
「最後までそれを言うのか」
会場から笑いが起こる。
こうして、ヒロバト説明会は幕を閉じた。




