ヒロバト説明会4
「……ならば」
さっきまで黙って話を聞いていた騎士の一人が、もう一度手を挙げた。
「剣士、槍兵、盾兵……それぞれのデータを用意して、実戦形式の訓練をすることもできるのでは?」
「できるよ~」
ニコラはあっさり答えた。
「同時に何人まで出せる?」
「本体の性能次第だけど、今のところ五人くらいなら問題ないよ~」
「五人……」
騎士が少し考える。
「では、実際に見せてもらうことは?」
「いいよ~」
ニコラがヒロバト本体へ手を伸ばす。
「せっかくだし、今いる人から選ぼうか~」
その言葉に、マドカが嫌な予感を覚えた。
「……私、嫌な予感がするんだけど」
「大丈夫大丈夫~」
「その言い方、全然大丈夫じゃないよ」
ニコラは聞かなかったことにした。
「マドカ、エレノア、ブリジット、リゼット、私。五人でいいかな~」
「なんで私まで!?」
「登録データがあるから~」
「理由が雑!」
会場から小さな笑いが起こる。
エレノアも苦笑した。
「まあ、私のデータも登録されているのでしたら、構いませんよ」
「私は盾役ですね」
ブリジットが自分の役割を察する。
「ええ。今回は軽い模擬戦ですので」
リゼットはそう言いながら、ちらりとマドカを見る。
「マドカ。幻影のあなたに負けても、本人が負けたことにはならないわよ」
「負ける前提なの?」
「そういう意味ではないわ」
「絶対そういう意味だった」
ニコラがカードを五枚並べる。
「じゃあ、出すよ~」
ヒロバト本体が光を放つ。
次の瞬間。
マドカのすぐ隣に、もう一人のマドカが立っていた。
「……」
本人のマドカと幻影のマドカが、互いを見る。
「……なんか変な感じ」
「自分を見るのって、そんなに珍しい?」
リゼットの幻影が、少し離れた場所に現れる。
エレノア、ブリジット、そしてニコラの幻影も続いた。
会場がざわめく。
「本当に本人そっくりだ……」
「動きまで再現されるのか?」
ニコラが手を叩く。
「それじゃ、始めるよ~」
幻影たちが構えた。
「レディ!」
一瞬の間。
「ファイ!」
マドカの幻影が一気に踏み込む。
エレノアの幻影が剣を受け、ブリジットの幻影が横から盾を差し込んだ。
その直後、リゼットの幻影が魔法を放つ。
「おおっ!」
魔法をかわしたマドカの幻影へ、ニコラの幻影が回り込む。
「そこ~」
「うわ、私まであんな動きするんだ……」
本人のニコラが、妙に感心している。
「自分のことなのに他人事なのね」
クリスティーナ夫人が笑った。
「だって幻影だし~」
その間にも、五人の幻影は戦い続けている。
マドカの幻影がエレノアの剣をかわし、ブリジットの盾を踏み台にして距離を取る。
リゼットの魔法をニコラが利用して、別方向からマドカへ迫る。
一人一人が別の判断で動いているように見える。
騎士たちの表情が変わった。
「……単純な動作の再生ではないな」
「相手に合わせて動いている」
「五人とも、それぞれ戦い方が違う……」
やがてニコラが声を上げる。
「はい、そこまで~」
五人の幻影が動きを止める。
そして、最初と同じように静かに立った。
「……」
会場が静まり返る。
最初に口を開いたのは、さっき質問した騎士だった。
「これなら……一人の教官が五人を相手にする必要もないな」
別の騎士が続ける。
「いや。五人どころか、組み合わせを変えれば訓練内容そのものを変えられる」
「剣士だけではなく、盾役、魔法使い、弓兵……」
「実戦を想定した訓練ができる」
クリスティーナ夫人も、幻影たちを見ながら楽しそうに微笑んだ。
「先ほどまで聞いていた話が、急に現実になりましたわね」
ニコラは五枚のカードを拾いながら、いつもの調子で答えた。
「だから言ったでしょ~。できるよ~って」
「実際に見せられると、説得力が違いますわ」
「そう?」
マドカ本人が、自分の幻影が消えていくのを見ながら呟く。
「……でも、やっぱり自分が二人いるのは変な感じ」
リゼットが笑う。
「慣れればいいのでは?」
「慣れたくないよ」




