ヒロバト説明会3
「では、他にご質問はありますか~?」
ニコラが会場を見回す。
すると、クリスティーナ夫人が手を上げた。
「よろしいかしら?」
「どうぞ~」
「先ほど、登録した本人の声を再現できるとおっしゃいましたわね?」
「うん。戦闘開始と終了の台詞は登録できるよ~」
「それを、もう少し広げることは?」
「もう少し?」
「例えば歌手の方なら、歌そのものを登録することはできますの?」
「本人が登録するときに実際に歌ってくれれば、録音できるよ~」
会場の一角から、何人かが顔を上げた。
「歌を?」
「うん。何曲か登録して、それぞれ番号をつけることもできるよ~。『三番を再生』みたいな感じで」
「まあ」
夫人が楽しそうに目を細める。
「では、楽器を演奏する方なら?」
「実際に演奏してもらえば、その演奏を録音できるよ~」
「後から幻影に楽器を持たせて演奏させることも?」
「それは無理~。登録するときに実際に演奏したものを、音として再生するだけだからね~」
「なるほど」
夫人は少し考えた。
「では、それを店で流したり、演奏会で使ったりする場合は?」
「契約次第だね~」
「契約?」
「自宅で聞くのはいいけど、お店で使うのはダメ、とか。演奏会で使っていい、とか。最初に決めてもらうの~」
「使用場所や期間まで?」
「そこまで決められるよ~」
「それなら、本人が許可した範囲がはっきりしますわね」
「そういうこと~」
ニコラはそこで、少しだけ説明を続けた。
「契約すると、本体から契約内容を書いたカードが三枚出るよ~」
「三枚?」
「提供した本人と、契約した人、それからエキドナ用。エキドナの分は本部の専用端末にも送られるよ~」
「まあ。それなら、後から確認もできますのね」
「うん。『そんな契約してない』って言われても、ちゃんと確認できるからね~」
夫人は納得したように頷いた。
「つまり、カードを持っているからといって、何をしてもよいわけではない」
「そうそう」
「自宅で個人使用のみ、という契約なら?」
「自宅で使うのはいいけど、お店で使ったら契約違反~」
「演奏会で使いたければ?」
「演奏会で使っていいって契約してもらってね~」
「なるほど。使用する場所や目的まで契約に含められるのですね」
「他の人に貸していいかとか、期間とかも決められるよ~」
会場の商人たちが、何やら考え始めている。
「では、『知らなかった』というのは?」
「契約内容をちゃんと提示してるから、それだけじゃ理由にならないよ~」
「ふふ。随分とはっきりしていますのね」
「揉めるの面倒だからね~」
ニコラはあっさりと言った。
「もちろん、苦情が来たからって、いきなり使えなくするわけじゃないよ。まず契約を確認するの」
「契約の範囲内なら?」
「そのまま使えるよ~。本人が後から『やっぱり嫌』って言っても、最初の契約で許可してたなら、それだけでは契約違反にはならないからね~」
「逆に、契約外で使っていた場合は?」
「止めてもらう。悪質だったり、何度言っても繰り返したり、明らかに契約違反なら、その人のデータを幻影として使えなくすることもあるよ~」
「カードそのものを消すのですか?」
「カードは残るよ~。ただ、もう幻影は出せなくなる」
「なるほど」
夫人は少し考えてから、微笑んだ。
「契約そのものを記録しておくからこそ、そこまで明確にできるのですね」
「そうそう~」
「面白い商品ですわね」
夫人はそう言って、今度は会場の別の場所へ目を向けた。
「それなら……」
クリスティーナ夫人が、ふと会場の騎士たちへ目を向けた。
「騎士の方にも、面白い使い道がありそうですわね」
「騎士?」
「ええ。有名な騎士がいらっしゃるでしょう?」
「いるね~」
「その方の戦い方を登録しておけば……」
夫人がそこで少し考える。
「本人にお願いして、稽古相手になっていただく必要がなくなりますわね」
「そうだね~」
「例えば、王都の騎士団に有名な剣士の幻影を置いておけば、その方と戦う訓練ができる」
「できるよ~」
騎士の一人が反応した。
「それはかなり使えるな」
「ただし、登録した時のデータだからね~」
「本人が後から強くなっても?」
「勝手には変わらないよ。新しいデータが欲しかったら、また本人にお願いして登録してもらって~」
「なるほど」
別の騎士が続ける。
「では、同じ人物でも昔のデータと現在のデータを両方残しておけば……」
「V1、V2って感じで分けられるよ~」
「それは面白い」
会場の騎士たちが、互いに顔を見合わせる。
「昔の剣聖と今の剣聖を戦わせることも?」
「契約で許可されてればできるね~」
「本人同士では絶対にできない組み合わせだな」
「そういうのもヒロバトならできるよ~」
夫人は楽しそうに頷いた。
「それなら、昔の英雄の戦い方を残しておくこともできますわね」
「本人が登録してくれて、契約が続いてればね~」
「なるほど。勝手に後世へ残るわけではない」
「うん」
ニコラはそこで、いつもの調子で付け加える。
「契約が終わったら使えなくなることもあるからね~」
「そこは大事ですわね」
夫人は頷いた。
「本人が残したいと思えば残る。残したくなければ残らない」
「そうそう」
「では逆に、本人が『自分の強さを多くの人に試してほしい』と思っている場合は?」
「好きに契約すればいいよ~」
「ふふ」
夫人は笑った。
「そういう方も、きっといらっしゃいますわね」
会場の冒険者たちからも声が上がる。
「有名な冒険者なら、挑戦者を集められそうだ」
「本人が毎回相手をする必要もない」
「強敵との訓練施設にもできるな」
「対戦料を取るなら契約次第だろうが……」
話は自然と広がっていく。
クリスティーナ夫人は、その様子を眺めながら満足そうに笑った。
「まあ。最初はただの対戦道具だと思っておりましたけれど」
「対戦道具だよ~?」
ニコラが首を傾げる。
「もちろん、それは分かっていますわ」
夫人は楽しそうに答えた。
「けれど、対戦する相手が有名な方なら、それだけで人を集められますもの」
「そういうこと~?」
「ええ」
夫人は会場を見回す。
「有名な騎士と戦える。昔の英雄と戦える。遠くにいる強者とも戦える」
「うん」
「それを見たい人もいるでしょうし、自分で戦いたい人もいる」
「いるね~」
「ならば、そこにも商売が生まれますわ」
今度はニコラではなく、会場の商人が先に反応した。
「対戦会……」
「入場料を取って、観客にも見せられる」
「騎士同士の模擬戦なら興行としても……」
「冒険者向けなら参加費を取っても……」
また、会場がざわつき始める。
ニコラはそんな周囲を見て、少しだけ困ったように笑った。
「なんか、ヒロバトよりみんなのほうが楽しそうだね~」
「新しいものを見れば、使い道を考えたくなるものですわ」
「そうなの~?」
「ええ」
クリスティーナ夫人は頷いた。
「エキドナの皆様は、作ることがお好きなのでしょう?」
「うん」
「ならば、使う側がどう使うかまで全部考える必要はありませんわ」
「……まあ、それもそうだね~」
「商品を見た人間が、自分で新しい使い道を見つける。それもまた、商品の面白さではありませんこと?」
「なるほど~」
今度はニコラの方が、少しだけ感心したような声を出した。
「じゃあ、いっぱい考えてもらお~」
「ええ。ぜひそうなさいませ」
クリスティーナ夫人は、楽しそうに微笑んだ。




