ヒロバト説明会2
エレノアの幻影が消えると、会場にはしばらくざわめきが残っていた。
先ほどの戦いを見たことで、ヒロバトがただ人の姿を映し出すだけの道具ではないことは、誰の目にも分かった。
「では、ここからは質問を受け付けるよ~」
ニコラがそう言うと、すぐに一人の騎士が手を挙げた。
「まず、人間のデータはどうやって作る?」
「本人の許可が必要だよ~。勝手にデータ化することはできないの」
「許可というのは?」
「本人が納得する条件ならいいよ~。お金を払うとか、勝負に勝ったらとか、お願いして許可をもらうとか。そこは本人が決めることになるね~」
「なるほど。本人が条件を決められるわけか」
「そうそう~」
「では、そのデータはどうやってカードになる?」
「まず本体から本人のデータを参照するの~。それをカード化する。だからカードだけで勝手に新しい人間データを作ることはできないよ~」
「つまり、カードそのものに人間が入っているわけではない?」
「そういう感じ~」
別の騎士が手を挙げる。
「ならば、一度作ったカードを持っていれば、ずっと使えるのか?」
「違反行為をしない限りは基本的に永久だよ~」
「期限を決めることも?」
「できるよ~。何日間だけとか、契約した期間だけとか。短い期間だけ使いたい人もいるだろうからね~」
「その期限が切れた場合は?」
「使えなくなるだけ~。カード自体は残るよ。普通のカードになるから、記念にはなるんじゃない~?」
「使用できない記念品になるわけか」
「そうそう~」
今度は一人の魔術師が手を挙げた。
「先ほど、魔法も再現できると言っていたな」
「使っている魔法ならね~」
「ならば、その幻影に新しい魔法を教えることは?」
「できないよ~」
「なぜだ?」
「本人が実際に使っているものをデータにしてるだけだから~。幻影に魔法の理論を教えて、新しい魔法を覚えさせるようなことはできないの」
「では、剣士なら新しい技を覚えさせることも?」
「同じだよ~」
「なるほど……」
魔術師が少し考える。
「では、本人が後から新しい魔法を覚えた場合は?」
「そのままじゃ反映されないよ~」
「なぜ?」
「最初に作ったデータだから~。本体には、例えばエレノアならエレノアV1、エレノアV2みたいに別々に表示されるの」
「新しいデータが欲しければ?」
「本人ともう一回交渉してね~。今のデータが欲しいってお願いして、許可をもらってからデータ化するの」
教育関係者らしい女性が手を挙げた。
「それなら、剣術の教育に使う場合はどうでしょう?」
「どういう感じ~?」
「例えば、ある流派の師範のデータを使います。その場合、弟子が同じ動きを何度も見せてもらうことはできますか?」
「できるよ~」
「決められた型を再生するだけではないのですよね?」
「うん。さっき見てもらった通り~。相手の動きに合わせて、その人が持っている技術の中から選んで動くよ~」
「つまり、弟子が毎回違う攻撃をすれば、幻影もそれに応じて違う対応をする?」
「そういうこと~」
「それなら、実戦訓練にも使えますね」
「使えると思うよ~」
教育者が頷く。
「一流の師範が毎日何人もの弟子を相手にする必要がなくなる……」
その呟きに、周囲からも声が漏れた。
「確かに、それは大きいな」
「遠方の流派でも、データがあれば訓練できるのか」
「本人が許可してくれればね~」
ニコラはさらりと答えた。
今度は商人が手を挙げる。
「そのデータを本人が売ることはできるのか?」
「できるよ~」
「エキドナが買い取って販売するのか?」
「本人が売りたいならね~。本人が条件を決めて、自分のデータを提供することができるよ」
「では、エキドナが勝手に有名人のデータを商品にすることは?」
「しないよ~。本人の許可がないとデータ化できないから~」
「本人が自分のデータを売りたい場合、どうする?」
「そういう人が申し込めるようにする予定だよ~。名前や職業、どんな使い方を許可するか、期間や報酬なんかを本人が決めて出せるようにするの」
「なるほど。本人が自分の商品を提示するわけか」
「そうそう~」
今度は貴族の一人が口を開いた。
「では、購入した者は、そのデータを何に使ってもいいのか?」
「許可された範囲ならね~」
ニコラの返事は早かった。
「例えば、その人が『剣術の訓練に使っていい』って許可したなら、訓練には使える。でも、それを勝手に別のイベントで使っていいってことにはならないよ~」
「本人がイベントで使うことも許可していた場合は?」
「その場合は使えるよ~」
「つまり、許可された目的によって違う?」
「そういうこと~」
「本人が『自分を有名にしたいから、イベントでも使ってほしい』と望んでいるなら?」
「本人が許可してるなら問題ないよ~」
「逆に、許可していないイベントで使えば?」
「警告対象になるね~」
会場の空気が少し引き締まった。
「では、エキドナはどうやって、それを把握するのだ?」
商人が続けて尋ねた。
「カードを使ったら、本体に報告されるよ~」
「何を?」
「いつ使ったかとか、どのデータを使ったかとか、どんな目的で使ったかとか。細かいことを全部見張ってるわけじゃないけど、使用状況は本体からエキドナ側に報告されるの」
「そして?」
「エキドナで確認するよ~」
「もし、許可されていない使い方をしていたら?」
「まず警告。それでもやめなかったり、明らかに問題のある使い方だったら、そのデータを使えなくすることもあるよ~」
「カードそのものを消すのか?」
「カードは残るよ~。ただ、そのカードから幻影を出せなくなるの」
「違法行為の場合も?」
「そういう場合はデータを使用不能にしたり、必要なら関係するところに報告したりするよ~」
「つまり、カードを持っているから何をしてもいいわけではない、と」
「最初からそう説明してるよ~」
ニコラはあっさりと言った。
「ヒロバトを買ったからって、人間のデータまで好き勝手にできるわけじゃないからね~」
別の貴族が手を挙げる。
「人間のデータには、その本人の能力値も入っているのか?」
「入ってるよ~」
「では、その本人が鍛えれば、カードの幻影も勝手に強くなる?」
「それはならないよ~」
「なぜだ?」
「登録したときのデータだから~。ステータスも武器も、そのときのものになるの」
「では、後から強くなった場合は?」
「さっきのV1、V2と同じ~。新しいデータが欲しかったら、本人にもう一回お願いしてね~」
「なるほど」
「ただ、登録されたスキルを使っているうちに、そのスキル自体が成長することはあるよ~」
「……それはどういうことだ?」
「本人が持ってるスキルを使って戦うからね~。使うことで、そのスキルに成長が起こる場合はあるの」
「本人そのものが成長するわけではないが、登録されたスキルが成長する可能性はある、と」
「そうそう~」
今度は誰もすぐには手を挙げなかった。
会場には、それぞれ考え込むような空気が広がっている。
戦闘。
教育。
人間データの販売。
契約。
使用目的。
そして、その管理。
最初に想像していたものよりも、はるかに多くのことができる。
しかし同時に、何でも自由にできるわけではない。
いくつかの質問を重ねたことで、その仕組みが少しずつ見えてきた。
やがて、一人の男が小さく呟いた。
「……ふむ」
隣の者も頷く。
「なるほどね」
会場のあちこちで、同じような声が上がった。




