ヒロバト説明会1
王城の大広間には、この国でも名の知れた者たちが集まっていた。
貴族、騎士、商人、教育関係者、冒険者。
そして、エキドナが新たに発表する商品を見るために、多くの者が席についている。
「本日はよく集まってくれた。我が国で今、もっとも話題になっている組織の一つを紹介しよう。エキドナだ」
国王の言葉に、会場から小さなどよめきが起こる。
「すでに新聞などで知っている者も多いだろう。今日は、そのエキドナが開発した新商品について説明してもらう」
国王が視線を向ける。
壇上へ上がったのは二人だった。
「大賢者リゼットよ。今回、エキドナの代表としてこの場に来ているわ。私達の組織から出す新商品、まあ楽しみにみなさいな」
「ニコラだよ~。ヒロバトを作った人~。今日は使い方とか説明するから、分からないことがあったら聞いてね~」
会場のあちこちから声が漏れた。
「やはり、あれが大賢者リゼット……」
「そして、あちらが稀代の発明家……」
ニコラはそんな声を気にする様子もなく、壇上に置かれた装置へ手を置いた。
「じゃあ、まずは戦闘について説明するね~」
何人かの騎士が身を乗り出す。
「ヒロバトでは、モンスターだけじゃなくて、人間のデータも使えるの~」
「人間のデータ……」
「そう~。剣士なら剣術、槍使いなら槍術、弓使いなら弓術。格闘技なんかも、その人が実際に使っている技術をデータにできるよ~」
「それは、本人の動きを記録して再生するようなものなのか?」
騎士の一人が尋ねた。
「それとはちょっと違うかな~」
ニコラは首を振る。
「例えば剣術のデータなら、その人が持っている剣術を使って戦うの~。相手が右から攻撃してきたら右に対応して、左から来たら左に対応する。決められた順番で同じ動きを繰り返すわけじゃないよ~」
「つまり……戦う相手によって動きが変わる?」
「そういうこと~」
会場の空気が少し変わった。
「では、幻影同士で戦わせれば?」
「普通に戦闘になるよ~。攻撃が当たればダメージになるし、規定のダメージを受ければ戦闘不能になる~」
「では、人間が相手の場合は?」
「幻影の攻撃が人間に当たっても、人間そのものに傷がついたりはしないよ~。でも、攻撃が当たったっていう判定はちゃんと出るの」
「なるほど。安全に戦闘訓練ができるということか」
「そうそう~」
ニコラが軽く頷いた。
「人間側が幻影を攻撃した場合は?」
「そっちは普通に幻影へダメージが入るよ~。だから、幻影が一方的に攻撃されるだけってわけでもないの」
「では、実際に見せてもらうことはできるか?」
「もちろん~」
ニコラが装置を操作する。
「せっかくだから、有名な人のデータを使ってみようか~」
その言葉と同時に、壇上に一人の女性が現れた。
「おお……!」
ざわめきが広がる。
そこに立っていたのは、第一王女エレノア。
もちろん本人ではない。
ヒロバトによって呼び出された幻影だった。
「エレノア殿下……?」
会場の視線が一斉に王族の席へ向かう。
エレノア本人は、少しだけ驚いたように幻影を見ていた。
「今回はこちらの方に相手をしてもらいます」
リゼットが隣にいる少女へ目を向ける。
「そしてこちらは、私の弟子よ」
「マドカです。よろしくお願いします」
少女の名前が告げられると、今度は別のざわめきが起こった。
「エキドナの……?」
「あの少女が?」
リゼットは特に説明を加えなかった。
この場にいる騎士や王族の多くは、マドカの実力を知っている。
だからこそ、誰も「なぜ子供を」とは言わなかった。
「それでは、始めるよ~」
ニコラの声とともに、二人が向かい合う。
幻影のエレノアが剣を構えた。
「あなたが相手ですか。全力を出しましょう」
会場から声が漏れる。
「しゃべった……」
「そこまで再現されるのか」
マドカも構えた。
「お願いします」
開始の合図とともに、エレノアが踏み込んだ。
速い。
鋭い斬撃がマドカへ迫る。
マドカは身体をわずかにずらして避け、そのまま距離を取った。
追撃。
マドカが受け流す。
剣と剣がぶつかった。
一度。
二度。
三度。
エレノアは間合いを変え、攻撃の角度を変える。
マドカもそれに合わせて動く。
「……速いな」
「エレノア殿下の剣を、あの少女が……」
再び剣が交差する。
そのまま数度。
十度。
さらに攻防が続く。
「まだ終わらないのか」
「もう何十回打ち合っている?」
エレノアの幻影は、一度として同じ攻撃を繰り返さない。
マドカもまた、その攻撃に合わせて動き続けていた。
そして――。
マドカが一歩踏み込んだ。
エレノアの剣をかわし、その懐へ入る。
一瞬だった。
マドカの攻撃が幻影を捉える。
エレノアの身体が大きく後ろへ弾かれた。
幻影は体勢を立て直そうとする。
しかし、そこで動きを止めた。
「私では荷が重すぎましたね」
その言葉と同時に、戦闘終了を示す表示が浮かび上がった。
会場が静まり返る。
そして、遅れて大きなどよめきが起こった。
「今のが……人間のデータ……」
「エレノア殿下の剣術を、あれだけ再現できるのか」
「それより、あの少女は……」
視線がマドカへ集まる。
ニコラはいつもの調子で説明を続けた。
「今の最後のセリフが、勝負ありの合図だよ~。開始するときと、戦闘が終わったときだけしゃべるの~」
「本人によってセリフが違うのか?」
「そうだよ~。その人が設定したセリフになるの。戦闘中はしゃべらないよ~」
「なるほど」
騎士の一人が腕を組む。
「では、魔法を使う者ならどうなる?」
「魔法も、その人が実際に使っているものなら再現できるよ~」
「では、魔法について説明させることは?」
「それは無理~」
即答だった。
「幻影は、その人が持っている技術を使って戦うためのものだからね~。魔法の理論を説明してとか、新しい魔法を教えてとか言われてもできないよ~」
「では、職人なら?」
「触れないから、何か作ってっていうのも無理~」
会場の何人かが納得したように頷いた。
「さすがに何でもできるわけではないか」
「そういうこと~」
ニコラはあっさり答える。
「でも、近接戦闘はやっぱりすごいよ~」
その言葉に、今度は誰も反論しなかった。
先ほどの戦いを見たばかりなのだから。
エレノアの剣技を再現した幻影。
それと何十度も打ち合い、最後には勝利した少女。
ヒロバトが何を再現できるのか。
その一端を、集まった者たちはすでに目の前で見ていた。




