王からの招待状
ある日のこと。
「陛下、少しお願いがあります」
王城の執務室。
エレノアが一枚の書類を差し出した。
「なんだ?」
「エキドナから、ヒロバトの商品説明会を開いてほしいと要請がありました」
「……商品説明会?」
「はい」
エレノアは書類を確認しながら続ける。
「新商品として正式に紹介するそうです。会場の手配と、各方面への招待状をお願いしたいとのことです」
「なるほど」
王は書類を受け取る。
「では、余が説明会を開くのか?」
「ええ、そうですが何か?」
「…………」
王がエレノアを見る。
エレノアは何でもない顔をしている。
「エキドナの商品を紹介するための説明会ですから。王家の名義で招待状を出した方が、参加する側も安心でしょう?」
「それは分かるが……」
王は書類に目を落とす。
「ずいぶんと話が決まっているな」
「はい。会場もこちらで候補を決めてあります」
「招待する者も?」
「もちろんです」
「余に相談する必要はなかったのか?」
「最終的な許可は必要ですから、こうしてお願いに来ました」
「……つまり、余がやるのは許可を出して招待状を送ることだけか?」
「そうなりますね」
「…………」
王はしばらく黙っていた。
そして、ふっと笑う。
「まあいい。エキドナの頼みなら構わん」
「ありがとうございます」
「それで、ヒロバトというのはどんなものなんだ?」
「陛下、ご存じでしょう?」
「…………」
「以前、試していましたよね?」
「ああ」
王が少しだけ視線を逸らす。
「そうだったな」
「説明会まで、まだ時間がありますから」
「ならば、もう一度くらい試しておくか」
「……またですか」
「確認だ」
「何を確認するんです?」
「商品の出来具合だ」
「この前も同じことを言っていましたよ」
「前回は前回だ」
王は楽しそうに笑った。
「今回はもう少し詳しく確認する」
「……まあ、止めませんけど」
「そうか。なら、あとで持ってきてくれ」
「エキドナに頼めば、たぶん喜んで貸してくれると思います」
「それなら話は早いな」
こうして。
エキドナからの要請は、王家の正式な商品説明会として進められることになった。
そして――。
説明会が開かれるより前に、王はまたヒロバトを試すことになった。
当然ながら、詳しい内容はまだ公表されない。
ただ。
王が自分で試した。
その事実だけが、少しずつ広がっていった。
◇
数日後。
王都各地へ、一斉に手紙が届けられた。
上級貴族。
研究者。
教育関係者。
上位冒険者。
著名人。
騎士団の団長級。
冒険者ギルド。
商業ギルド。
そして、新聞や情報誌を扱う記者たち。
それぞれの元へ、一通ずつ。
王家の紋章が入った、正式な招待状だった。
そこには、簡潔な案内が記されている。
――エキドナによる新商品説明会。
――新型魔道具「ヒロバト」の紹介。
――日時、会場。
――参加自由。
招待状を受け取った者たちは、それぞれに違った反応を見せることになる。
上級貴族は、エキドナという名前に眉を上げた。
研究者は、ヒロバトという聞き慣れない名前に興味を示した。
教育関係者は、戦闘データという言葉に可能性を感じた。
冒険者たちは、訓練や対戦に使えるのではないかと考えた。
騎士団では、実戦訓練への応用を考える者もいた。
冒険者ギルドでは新人教育への利用を考え、商業ギルドでは商品としての価値や販売方法に目を向ける。
そして記者たちは――。
「エキドナの新商品ですって?」
「また?」
「またよ」
「今度は何?」
「ヒロバトとかいう魔道具らしい」
「聞いたことないわね」
「だから行くんでしょう」
記者にとって、知らない商品ほど気になる。
「しかも王家経由の正式な招待状よ」
「それだけで記事になるじゃない」
「いや、記事にするのはまだ早いわよ」
「分かってる。まず見てから」
「そうそう。エキドナ相手に名前だけで記事を書いたら、後で何が出てくるか分からないもの」
「……それは本当にそう」
二人は顔を見合わせる。
そして、招待状をもう一度確認した。
「商品を紹介するのは、エキドナ本人?」
「そう書いてある」
「…………」
「どうしたの?」
「いや」
記者は少し考える。
「これ、結構面白いことになるんじゃない?」
◇
こうして。
王国中の様々な立場の人間へ、招待状が届いた。
誰かに強制されたわけではない。
参加するかどうかは、それぞれの自由。
ただ。
招待状を受け取った多くの人間が、同じことを考えていた。
――エキドナが紹介する新商品。
それはいったい、どんなものなのか。
研究者は技術を見る。
教育者は教材としての可能性を見る。
冒険者は訓練と遊びを見る。
騎士は実戦への応用を考える。
商人は商品としての価値を見る。
記者は世間を驚かせる何かがあるのではないかと考える。
そして貴族たちは。
自分たちの生活に、それがどんな影響を与えるのかを考えていた。
同じ招待状。
同じ商品。
それでも、見る場所はまるで違う。
そんな中。
「…………」
誰もいない場所で。
一人の人物が招待状を眺めていた。
ヒロバト。
エキドナの新商品。
それが何なのか。
まだ、詳しいことは分からない。
けれど。
その人物は、招待状を眺めながら小さく笑った。
「へぇ……」
そして。
「おもしろそうじゃない」
その声だけが、静かに残った。




