ヒロバト開発会議
### ヒロバト製作会議
「さて、と」
ゲンナイが机の上に並べられたヒロバトの試作品を見る。
「こっからは遊びの時間だな」
「遊び?」
セリナが首を傾げる。
「いや、さっきまで十分遊んでた気もするけど」
「そういう意味じゃねぇよ」
ゲンナイが笑う。
「今まで使った感想を出して、どこが面白くて、どこがつまらねぇのか考えるんだよ。まだアップデートできんだろ?」
「できるよ~」
ニコラが即答した。
「というか、今のはまだ試作品だからね~。実際に遊んでもらって分かったことも結構あるし」
「じゃあ、まずは悪かったところから言っていこうぜ」
マドカが言う。
「遠慮なしで」
「いいね~」
ニコラが紙を用意する。
「じゃあ、思ったことをどんどん言ってみて」
「それなら――」
ガレスが腕を組んだ。
「俺から一ついいか?」
「どうぞ」
「人間データの再現は面白い。実際に戦ってみても、動きは本人を知っている俺から見てもかなり近かった」
「へぇ」
マドカが興味深そうにする。
「でも、戦ってる間はずっと無言なんだよな」
「そうなんだよね~」
ニコラが頷く。
「そこは私も気になってた」
「モンスターなら別にいいんだけどよ」
ガレスは自分のカードを見る。
「人間が相手だと、なんつーか……人形と戦ってる感じがする」
「分かる」
マドカも頷いた。
「人間データなのに、ずっと無言ってつまんなくない?」
「確かに」
セリナがカードを手に取る。
「私としては、戦う前に何か言ってくれた方が嬉しいですね」
「ほう」
ゲンナイが興味を示す。
「何を言わせる?」
「例えば――」
マドカが少し考える。
「『あら、私に勝てると思ってるの?』とか」
「煽ってるじゃねぇか」
クライブが即座に突っ込んだ。
「いいじゃん。私のデータなんだし」
「お前なら言いそうだけどな」
「でしょう?」
マドカが笑う。
「そういうのだよ」
ガブリエルがぱっと顔を上げた。
「それ、面白いですわ!」
「やっぱり食いついた」
「だって、同じデータでも本人が何を言うのか分からないんですもの!」
ガブリエルは自分のカードを眺める。
「戦闘開始前に本人が一言。さらに勝ったときと負けたときにも専用のセリフがあったら、もっと楽しくなりません?」
「勝敗のセリフ?」
エレノアが考える。
「確かに、最後に何も言わず終わるより、その方が締まりは良さそうですね」
「例えばクライブなら――」
マドカがまたクライブを見る。
「『やれやれ、お前が相手か』」
「だから勝手に決めるなって」
「じゃあ自分で考えてよ」
「……考えておく」
「ほら」
「何が『ほら』だよ」
クライブが苦笑する。
セリナが楽しそうに笑った。
「じゃあ私なら、負けたときに『悔しいです!』って言わせたいです」
「セリナらしいな」
ガレスが笑う。
「じゃあ俺は勝ったときに『次も来い』だな」
「渋いね~」
ニコラが笑う。
「でも、そういうのを本人が決められるなら面白いかも」
「本人に決めてもらうんですの?」
ガブリエルが身を乗り出す。
「うん」
ニコラが頷く。
「データを登録するときに、戦闘開始、勝利、敗北の三つを設定する」
「声も本人が?」
「そう。本人に喋ってもらって登録する」
「なるほど」
エレノアが頷く。
「それなら、本人の許可なく勝手な言葉を喋らせることにもなりませんね」
「そこは大事だな」
クライブも頷く。
「戦闘データそのものと、本人が登録した音声は別物として扱うわけか」
「そうそう~」
ニコラが嬉しそうに説明する。
「戦闘中に本人の意識が入ってるわけじゃないからね。あくまでデータが戦って、決めておいた音声が流れるだけ」
「なら、無駄に喋らせなくてもいいな」
ガレスが言う。
「ずっと喋ってたら逆にうるせぇだろ」
「そうですね」
セリナも頷く。
「開始と勝敗だけなら、特別な感じも出ますし」
「いいんじゃない?」
マドカが頷く。
「それなら私も欲しい」
「お前、自分のデータなのにか?」
「だって、自分で変なセリフ入れられるんでしょ?」
「目的がそれかよ」
クライブが呆れる。
「あはは~」
ニコラが笑いながら紙に書き込んでいく。
「じゃあ、これはアップデート候補ね」
「他には?」
ゲンナイが促す。
「俺からもいいか?」
ヴァルトが口を開いた。
「どうぞ」
「実戦形式の訓練に使うなら、ただ相手を倒すだけでは足りない場合がある」
「というと?」
「例えば護衛だ。一定時間、対象を守る。あるいは特定の場所を守りながら戦う」
「それ面白い」
マドカがすぐに反応する。
「ダンジョンの試練みたいにできるじゃん」
「時間制限も欲しいな」
クロードが続ける。
「何分以内に倒せ、とか。逆に、何分生き残れ、とか」
「それなら冒険者の訓練にも使えるね~」
ニコラが書き足していく。
「学校でも使えそうです」
エレノアが言った。
「剣術の授業などで、実際の相手を用意しなくても模擬戦ができますから」
「ただの対戦ゲームじゃなくなるな」
ゲンナイが笑う。
「ゲームにも訓練にも使える。悪くねぇ」
「でも、あんまり難しくしすぎるのはどうかな~」
カトリーヌが口を挟む。
「遊ぶ側が最初から細かい条件を全部覚えないといけないと、気軽に遊べなくなるよ」
「じゃあ、普通の対戦は今まで通り」
マドカが言う。
「やりたい人だけ特殊ルールを選ぶとか?」
「それならいいね~」
「その程度なら、今の仕組みでも対応できそうです」
ニコラが頷く。
「じゃあ、候補に入れよう」
「あと、戦う前に相手がどういうタイプなのか分かると助かる」
ガレスがカードを見ながら言った。
「近距離なのか、遠距離なのか。それくらいは分かった方がいい」
「プロフィールみたいなもの?」
マドカが尋ねる。
「そうだな」
「それなら、簡単な分類だけでいいんじゃない?」
ニコラが考える。
「近距離型、遠距離型、魔法型、速度型……みたいな」
「それ、コレクションするときにも便利ですわね」
ガブリエルが食いつく。
「この人はどんな戦い方をするのか、カードを見るだけで分かりますもの」
「お前は本当にカード集める気満々だな」
グレタが呆れる。
「当然ですわ!」
ガブリエルは胸を張る。
「せっかくの人間データですもの!」
「ただな」
クライブが口を挟む。
「分類しすぎるのも問題じゃないか?」
「どういうこと?」
「例えば、俺なら剣が得意だが、罠も使えるし魔法も使える。単純に一つに分類すると、それだけで戦い方を決めつけることになる」
「それは確かに」
カトリーヌが頷く。
「じゃあ、あくまで目安として表示するくらいかな」
「それならいいと思う」
クライブが答える。
「戦う前に少し参考になる程度で十分だ」
「なるほど~」
ニコラがまた紙に書き込む。
「戦闘スタイルは簡易表示、と」
「そういやよ」
ゲンナイがカードを指で弾いた。
「データの強さはどうすんだ?」
「強さ?」
「本人が強くなったら、そのデータも強くなるんだろ?」
「更新するんだよね~」
ニコラが答える。
「本人がまたデータを提供してくれれば、その時点のデータを作れる」
「じゃあ、昔のデータは?」
セリナが尋ねる。
「消さない方がいいと思う」
ガブリエルが即答した。
「え?」
「初期のデータと、何年も修行した後のデータ。両方あったら面白いではありませんか」
「ああ」
マドカも頷く。
「それいいね」
「本人の成長も分かるしな」
ガレスが腕を組む。
「昔の自分と今の自分を戦わせることもできるわけか」
「それ、かなり面白そう」
マドカが目を輝かせる。
「私もやりたい」
「また自分で遊ぼうとしてる」
リゼットが笑う。
「だって気になるじゃん」
「まぁ、それはそうね」
リゼットも少し楽しそうだった。
「じゃあ、データは更新しても前のものを消さない」
ニコラがまとめる。
「ただ、これは容量とか管理の問題があるから、詳しいところは後で考えるね~」
「技術的には?」
ゲンナイが聞く。
「今すぐなら、そこまで難しくないよ」
「なら決まりだな」
「でも、データが増えすぎたら整理は必要です」
カトリーヌが付け加える。
「そこは後で考えればいいでしょう」
「そうだな」
ゲンナイが頷く。
「今から未来の心配ばっかしてもしょうがねぇ」
「他にはないか?」
グレタが腕を組む。
「俺は、データの扱いについては少し考えた方がいいと思うぞ」
その言葉に、少し空気が変わった。
「扱い?」
「人間のデータなんだろ?」
グレタが言う。
「だったら、誰でも勝手に使えるようにするのはまずいんじゃねぇか」
「それは……」
クライブが考える。
「確かに、戦闘以外の使い方を考える奴は出てくるだろうな」
「戦闘以外?」
セリナが首を傾げる。
「いや、変な意味じゃなくてな」
クライブが苦笑する。
「例えば、女性のデータを使って妙なことを考える奴とか」
「…………」
ガブリエルが真顔になった。
「それは許せませんわね」
「お前が言うと妙に怖いな」
マドカが呟く。
「でも、そういう問題は最初に考えておいた方がいいと思います」
エレノアも真面目に頷く。
「本人が許可した範囲で使う。そこは明確にした方がいいでしょう」
「うん」
ニコラも頷いた。
「そこは大事だね~」
「ただ、細かい規則を今ここで全部決める必要はないだろ」
リゼットが言う。
「まだ商品としてどういう形になるのかも固まっていないもの」
「そうですね」
エレノアが頷く。
「基本的な考え方だけ決めて、細部は後にしましょう」
「それでいい」
ゲンナイも頷いた。
「許可なく人間データを作らない。本人が何に使うかを決める。それくらいは必要だろ」
「うんうん」
ニコラが紙に書き込む。
「じゃあ、そこも忘れないようにしよう」
「……なんか」
マドカが机の上を見る。
「最初は『どこが悪いかな?』って話だったのに、どんどん増えてない?」
「増えてるね~」
ニコラが笑う。
「でも、面白くなってるよ」
「そうだな」
ゲンナイも笑った。
「それでいいんだよ」
ガブリエルがカードを手に取る。
「私としては、まだ欲しいものがありますわ」
「まだあるの?」
「ありますわ!」
「何?」
「データを集めたときに、本人のプロフィールも少し見たいですわ」
「プロフィール?」
「ええ。名前、ランク、得意な武器、戦闘スタイル。それから――」
ガブリエルが少し考える。
「好きなものとか」
「……ゲームのキャラ紹介みたいになってきたな」
クライブが呟く。
「でも、それは面白いかも~」
ニコラが乗る。
「戦闘に関係する情報だけじゃなくて、簡単なプロフィールを見られるようにする」
「いや」
グレタが止める。
「それ、本人が嫌がる情報まで載せるなよ?」
「あ」
ニコラが止まる。
「確かに」
「だから、本人が公開していいって言ったものだけだな」
クライブが言う。
「人間データなんだから、そこは慎重にした方がいい」
「そうしよう」
ニコラが頷く。
「名前だけ表示して、あとは本人が選ぶとか」
「それならいいですね」
エレノアが微笑む。
「自分で紹介文を決められるようにしても面白そうです」
「紹介文?」
「例えば『剣術なら任せろ』など、自分で一言書けるようにするとか」
「それいい!」
マドカが食いつく。
「じゃあ私、『世界最強の美少女』って書く!」
「却下」
リゼットが即答した。
「なんで!?」
「自称じゃない」
「いいじゃん!」
「駄目よ」
ガブリエルが笑い出す。
「お姉様らしいですわ!」
「ほら、ガブちゃんも賛成してる!」
「私は面白いので賛成ですわ!」
「ほら!」
「そこは賛成するのね……」
リゼットが苦笑する。
ニコラも笑いながら紙に書き込んだ。
「自己紹介欄……これも候補ね~」
「おいおい」
カトリーヌが少し困ったように言う。
「ニコラ、追加しすぎると本当に作業量が大変になりますよ?」
「大丈夫だよ~」
「その顔は大丈夫じゃない顔ですね」
「えへへ~」
「笑って誤魔化さないでください」
そのやり取りを見て、セリナが笑う。
「なんだか楽しそうですね」
「だろ?」
ゲンナイが嬉しそうに言う。
「これが会議ってもんだ」
「会議って、こんな感じなんですか?」
ガレスが首を傾げる。
「俺はもっと偉い奴が一方的に決めるもんだと思ってた」
「エキドナは違うよ」
マドカが笑う。
「嫌なら嫌って言えばいいし、面倒なら誰かに押しつけてもいい」
「それ、会議として大丈夫なのか?」
「たぶん」
「たぶんかよ」
クライブが笑った。
「でも、実際その方が話は早いんじゃない?」
セリナが言う。
「全員が本当は嫌なのに、誰も言わないまま決まるよりずっといいと思う」
「そうだな」
ガレスも頷いた。
「俺も嫌なもんは嫌って言うぞ」
「俺も」
クロードが短く答える。
「俺は面倒なのは嫌だ」
ヴァルトも続ける。
「俺は食事が良ければ大体いい」
「私は訓練になるなら協力します」
ミレイユが穏やかに言った。
「銀翼、なんか分かりやすいな」
マドカが笑う。
「でも、そういうのでいいんだよ」
「じゃあ、まだ言ってない人も何かある?」
ゲンナイが全員を見る。
「せっかくだ。思いついたことは全部出しちまえ」
「では」
エレノアが少し考えてから口を開く。
「私は、戦闘前に相手の情報を確認する時間が欲しいです」
「さっきのプロフィール?」
「それもですが、勝利条件なども含めてです」
「なるほど」
カトリーヌが頷く。
「それなら実装は難しくありません」
「じゃあ、それも」
ニコラが書き込む。
「戦闘開始前に、相手の基本情報と今回のルールを確認できるようにする」
「それなら初心者にも分かりやすいな」
ガレスが言う。
「俺は逆に、全部見せすぎない方がいいと思う」
クロードが口を挟んだ。
「相手の能力を全部見てから戦うと、探る楽しさがなくなる」
「あー、それは分かる」
マドカが頷く。
「じゃあ、見せる情報と隠す情報を分ける?」
「そうだね~」
ニコラが考える。
「基本プロフィールは見せる。でも細かい能力や戦い方までは見せない」
「それならいい」
クロードが頷いた。
「なるほど」
エレノアも納得する。
「事前情報はあるけれど、実際に戦わなければ分からない部分も残す、と」
「それが一番ゲームっぽいんじゃない?」
マドカが笑う。
「最初から全部答えが分かってたらつまんないし」
「よし」
ゲンナイが紙を覗き込む。
「だいぶ出たな」
「まだ全部決めたわけじゃないけどね~」
ニコラが言う。
「うん」
マドカも頷く。
「今日はこれでいいんじゃない?」
「え?」
ガブリエルが驚く。
「まだ何か思いついていませんの?」
「思いついても、全部入れたらニコラが死ぬよ」
「それは困りますわね」
「おい」
ニコラが苦笑する。
「私を勝手に殺さないでよ~」
「あはは~」
マドカが笑う。
「じゃあ、今日は出た案を整理して、できるところからアップデートしよう」
「うん」
ニコラが紙をまとめる。
「今の試作品より、ちゃんと遊びやすくできそう」
「技術的に無理なものは?」
ゲンナイが尋ねる。
「それは私たちで調べるよ~」
ニコラが答える。
「今すぐ無理でも、次のアップデートで入れられるかもしれないし」
「なら、それでいい」
ゲンナイは満足そうに頷いた。
「別に今日全部完成させる必要はねぇんだからな」
「そうそう」
マドカが立ち上がる。
「会議なんだから、次に面白くするための話ができればいいんだよ」
「じゃあ、改良版に期待ですね」
セリナが笑う。
「うん!」
マドカも笑った。
「次に遊ぶときには、ちゃんと前より面白くなってるよ!」
こうして。
ヒロバト製作会議は、ひとまず一区切りついた。
まだ細かな仕様は決まっていない。
けれど、最初の試作品から何を変えればいいのか。
どこをもっと面白くできるのか。
その方向だけは、少しずつ見えてきていた。




