最終 クライブの試練そして新商品テスター
部屋へ入る。
銀翼の黎明が身構える。
これまでの試練を考えれば、最後も何かとんでもない仕掛けが待っているかもしれない。
すると、正面のスクリーンにクライブが映った。
『最後は俺だな』
「クライブか」
ガレスが少し安心したように息を吐く。
「まあ、今までが今までだからな。最後も何かあるんだろ?」
『あるぞ』
クライブがそう言った直後。
部屋の奥に大量のゴブリンが現れた。
「おお!」
ガレスたちが武器を構える。
ゴブリンは一匹一匹、ほとんど同じように見える。
数はかなり多い。
『こいつらを倒してくれ』
「それだけか?」
『ただし、一番弱い奴から順番に倒せ』
「……」
五人がゴブリンを見る。
「一番弱い奴?」
『そうだ』
ガレスが少し首を傾げる。
「見た目じゃ分からねぇぞ」
『よく見れば分かる』
「……そういうことか」
セリナが弓を構える。
ゴブリンたちは一斉に襲いかかってきた。
「まず、あいつだ!」
クロードが一匹を指差す。
「いや、こっちだ!」
ヴァルトが別のゴブリンを狙う。
「待て! そいつはまだだ!」
ガレスが叫ぶ。
五人は敵の動きを見ながら、一匹ずつ確実に仕留めていく。
弱い個体を倒せば、その分だけ敵の数が減る。
強い個体を先に倒そうとすれば、残った弱い個体が後ろから襲ってくる。
派手な仕掛けはない。
ただ、敵を観察して、倒す順番を考える。
それだけだった。
しばらくして、最後のゴブリンが倒れる。
『試練クリアだ』
「……終わった?」
『終わりだ』
「…………」
ガレスが周囲を見回す。
「……地味だな」
「うん」
セリナも頷く。
「今までで一番普通だったな」
クロードも苦笑する。
「でも、こういうのが一番大事なんだけどな」
クライブがスクリーン越しに言う。
「敵の数を減らすなら、弱い奴から確実に倒す。基本中の基本だ」
「それは分かる」
ガレスが頷く。
そして少し考えたあと、クライブを見る。
「……なあ」
『なんだ?』
「お前、なんでエキドナなんだ?」
『……は?』
「いや、だってよ」
ガレスが今までの試練を思い返す。
「マドカはパズル、リゼットは射撃、ニコラは実験、ヒナタは料理、ブリジットは本格戦闘、グレタは火力試験、ティニアは宝探し、カトリーヌは算数、アリシアは買い物だぞ?」
「それで最後がお前のゴブリン退治かよ」
『いや、俺のは冒険者として重要な……』
「俺たちもエキドナに入れてくれよ!」
「そうだ!」
「なんでお前らだけこんなのやってんだ!」
銀翼の黎明が一斉に騒ぎ始める。
クライブが頭を抱える。
『知らねぇよ!』
その様子を、見学室から見ていたエキドナの面々は笑っていた。
リゼットも楽しそうに笑っている。
「ふふ。クライブは便利だからスカウトしたのよ」
『おい、リゼット! 本人がいるところで言うな!』
「褒めてるのよ?」
『それ、褒め言葉なのか!?』
「もちろん」
『……まあ、いいけどよ』
クライブは諦めたようにため息を吐いた。
こうして、最後の試練も無事に終了した。
最後の部屋に入ると、そこには今までの試練とは少し違う装置が置かれていた。
『これは新商品の試作品です』
部屋の中央に置かれた大きな機械。
『ヒーローバトラー。近日発売予定の商品となります』
「ヒーローバトラー?」
ガレスが首を傾げる。
すると、機械の前に光が集まり、人の姿を作り始めた。
『本製品は、実在する人物の戦闘データを使用します』
「実在する人物……?」
『本人の許可を得た場合のみ、戦闘データをカード化することができます』
光が消える。
そこに現れたのは――リゼットだった。
「……え?」
ガレスたちが固まる。
『では、テストを開始します』
「おい待て!」
ガレスが叫ぶ。
『第一試験。リゼットの攻撃を全て回避してください』
「いきなり無茶言うな!!」
次の瞬間、幻影のリゼットが動いた。
「速っ!?」
セリナが驚きながら矢を放つ。
しかし幻影のリゼットはそれを軽々とかわし、距離を詰めてくる。
「くっ……!」
ガレスが剣で受ける。
――ドンッ。
攻撃を受けた場所に、べちゃっと塗料が付着した。
「なんだこれ!?」
『命中判定を分かりやすくするため、攻撃を受けた箇所に塗料が付着します。戦闘終了後、消滅します』
「先に言え!」
ガレスが叫ぶ。
その横を、幻影のリゼットが通り過ぎる。
「うわっ!」
セリナが慌てて飛び退いた。
それでも何度か攻撃を受け、五人の服にはどんどん色が付いていく。
「これ、訓練としてはかなり使えるな……」
クロードが呟く。
「だな。相手の動きも実際の人間を再現してる」
ヴァルトも感心している。
やがて試験終了。
塗料が消え、全員の服が元通りになる。
『第一試験、終了』
「……疲れた」
ガレスがその場に座り込んだ。
『では、今度はPT戦を開始します』
「え?」
五人が顔を上げる。
『対戦相手は――』
光が集まる。
そこに現れたのは、五人の姿だった。
マドカ。
リゼット。
ブリジット。
アリシア。
そしてエレノア。
『五対五です』
「…………」
銀翼の五人が沈黙する。
「いや」
ガレスがゆっくり口を開く。
「無理だろ!!」
『異議は認めません』
「異議しかねぇよ!!」
その声を聞いて、セリナが思わず笑った。
「ふふっ……頑張りましょう、ガレス」
「セリナ、お前も諦めるなよ!?」
「だって、相手がマドカたちなら……ちょっと楽しみじゃない?」
セリナはそう言って、少しだけ柔らかく笑う。
「マドカ、強いんだもの」
「え、そうかな?」
マドカが首を傾げる。
「うん。前に戦ったときも、すごかったよ」
セリナの声は、普段より少し優しかった。
「……そ、そう?」
「ふふ。だから今回は、こっちも頑張らないとね」
その隣でガレスが頭を抱える。
「なんでお前だけ普通に会話してんだよ……」
「だってマドカだし」
「理由になってねぇ!」
そして――
『戦闘を開始します』
五対五の戦闘が始まった。
結果は言うまでもなかった。
銀翼は全力で戦った。
だが、相手はエキドナの主力五人。
幻影とはいえ、本人たちの戦闘データを再現している。
しばらくして――
『戦闘終了』
「…………」
五人が床に転がっていた。
「……強すぎるだろ」
ガレスが呟く。
すると、部屋の奥にあった画面が点灯した。
そこに映ったのは、見知らぬ男だった。
「……誰だ?」
クロードが呟く。
男は銀翼の五人を見ながら、ニヤッと笑った。
「ご協力さんきゅーな」
「…………」
銀翼の五人は顔を見合わせる。
誰なのか分からない。
エキドナの連中は普通に知っているらしく、特に気にしていない。
「ゲンナイ、ありがとー」
マドカが手を振る。
「おう」
画面の男――ゲンナイが短く返す。
そして画面の向こうで何かを操作すると、床に魔法陣が浮かび上がった。
「じゃあ解散だ」
「……転移魔法陣?」
ヴァルトが驚く。
「なんか胡散臭ぇな……」
ガレスが小声で呟いた。
「聞こえてんぞ」
画面のゲンナイが即座に返す。
「聞こえてんのかよ!」
「まあな」
ゲンナイはそれだけ言うと、画面越しに手を振った。
「じゃあな」
銀翼の五人は、微妙な顔をしながら魔法陣へ入っていく。
最後にセリナがマドカへ手を振った。
「マドカ、またね」
「うん。またね、セリナ!」
その直後、五人の姿が光に包まれて消えた。
「……行ったね」
マドカが呟く。
「おう」
画面の中でゲンナイが笑う。
「これでテストは終わりだな」
「うん」
するとマドカが、何かを思い出したように手を叩いた。
「あ、そうだ」
銀翼が消えた部屋へ、再び五つのカードが現れる。
「これ、参加賞」
『ヒーローバトラー完成版』
そこには、それぞれの名前が書かれていた。
そして――。
「マドカのデータも入ってるからね」
少し離れた場所から、その言葉を聞いた銀翼の五人が振り返った。
「……マジかよ」
ガレスがカードを見る。
「マドカのデータ!?」
「レアじゃねぇか!」
セリナもカードを覗き込み、目を輝かせる。
「これ、マドカのデータなんだ……」
「うん」
「じゃあ、回避の練習にも使えるね」
「そうそう」
マドカが嬉しそうに頷く。
「マドカを隣に座らせるの!」
「え?」
「本人に動きの解説してもらいながらやったら、絶対面白いだろ!」
「そ、そんなに?」
マドカは少し驚きながら笑った。
こうして、ヒーローバトラーのテストは終了した。
そして銀翼の黎明には――
エキドナ特製の、妙に豪華な参加賞が残されたのだった。




