お前らのダンジョン
「それで、ゲンナイさん」
リゼットが尋ねる。
「これから、このダンジョンはどうするんです?」
「どうするって?」
「今までのお話を聞く限り、ゲンナイさんはダンジョンマスターになってから、特に手を加えていないんですよね?」
「ああ。俺は基本的に見てるだけだ」
「では、今のダンジョンは……」
「三十階までだな」
「三十階?」
マドカが聞き返す。
「ああ。前任の奴が作ったのがそこまでだ。俺は引き継いでから何もいじってねぇ」
「じゃあ、三十階が最後なんだ」
「そういうこと」
マドカは少し考えた。
「じゃあ、私たちが三十階までクリアしたら?」
「…………」
ゲンナイが黙った。
「その先はないんだよね?」
「ああ」
「じゃあ、クリアしたら帰ることになるのかな」
「…………帰んのか?」
「え?」
マドカがゲンナイを見る。
「いや、だから……三十階クリアしたら、お前らもう来ねぇのか?」
「うーん……」
マドカは少し考える。
「クリアしたら、もうないんでしょ?」
「…………」
「だから、別のところに行くんじゃないかな」
「…………帰んのかよ?」
今度の声は、さっきより小さかった。
「……ゲンナイ?」
「いや」
ゲンナイは視線を逸らす。
「別に、帰るなって言ってるわけじゃねぇぞ」
「…………」
マドカは隣にいるリゼットを見る。
リゼットも、ニコラを見る。
ニコラも、エレノアを見る。
なんとなく全員の視線が合った。
「……ねえ」
マドカが小声で言う。
「この人、帰らせたくないんじゃない?」
「私も、そう思う~」
ニコラも小声で返す。
「たぶん、そうでしょうね」
リゼットが苦笑する。
「何だよ」
ゲンナイが怪訝そうに見る。
「お前ら、何こそこそしてんだ?」
「なんでもないよ」
マドカは笑った。
「じゃあさ」
「なんだ?」
「続き、作ればいいんじゃない?」
「…………」
ゲンナイの目が少しだけ輝いた。
だが、すぐにそっぽを向く。
「俺が作れねぇと思ってんのか?」
「いや、そんなこと言ってないけど」
「なら作れるぞ」
ゲンナイは腕を組む。
「やろうと思えば、いくらでも作れる。もっと下にだって伸ばせるし、今ある階層だって好きに変えられる」
「でも、今まで作ってなかったんでしょ?」
「必要なかったからな」
「ふーん」
マドカがニヤニヤする。
「じゃあ、作ってみる?」
「……お前らがやるならな」
「私たちが?」
「そうだ」
ゲンナイは少し身を乗り出した。
「俺が作るだけじゃ面白くねぇだろ。お前らが冒険者なんだから、お前らが面白いと思うもんを考えてみろよ」
「なるほど~」
ニコラが頷く。
「みんなで新しい階層を作るんだね」
「そういうことだ」
ゲンナイは得意げに笑う。
「ただし、つまらねぇもん持ってきたら却下だからな」
「厳しいね~」
「当然だろ」
「じゃあ、どんなのならいいの?」
「俺が面白いと思った奴だ」
「基準がゲンナイさんなんですね」
エレノアが苦笑する。
「当たり前だろ。ダンジョンマスターは俺なんだからな」
そう言ったところで、マドカがふと尋ねる。
「じゃあ、ゲンナイが作ったらどんな階層になるの?」
「あ?」
「私たちより面白いんでしょ?」
「……そりゃそうだろ」
「地獄みたいな階層とか?」
「作れるぞ」
「本当に?」
「ああ。お前らが一歩も進めねぇような階層にすることだってできる」
「それ、面白いのかな~」
ニコラが首を傾げる。
「クリアできなきゃ意味ないよね」
「…………」
ゲンナイが少し黙った。
「じゃあ、どんなのなら面白いんだ?」
「それを今から考えるんじゃない?」
「…………なるほどな」
ゲンナイは少し考える。
「じゃあ、お前らで考えてみろ」
「うん」
マドカが頷いた。
「やってみよう」
「よし」
ゲンナイは満足そうに笑った。
「だったら、次はお前らのダンジョンだ」
その言葉に、エキドナの面々が顔を見合わせる。
マドカは小さく笑った。
「……なんか嬉しそうじゃない?」
「うるせぇ!」
ゲンナイが即座に怒鳴る。
「俺は別に、そんなつもりじゃねぇぞ!」
「はいはい」
「本当だぞ!」
「分かったって」
「…………」
ゲンナイはそっぽを向く。
けれど、その口元は少しだけ緩んでいた。
それを見たリゼットが、また小さく笑う。
「ふふ」
「……なんだよ」
「別に?」
こうしてエキドナは、ゲンナイの提案に乗ることになった。
新しい階層を作る。
どんなものにするのか。
どうすれば冒険者が楽しめるのか。
それをみんなで考える。
それはダンジョンマスターと冒険者という関係から始まった、奇妙な共同作業だった。
そしてゲンナイ自身も、まだ気づいていなかった。
自分が欲しかったのは、新しい階層そのものではない。
ただ、久しぶりにできた話し相手と、もう少し一緒にいたかっただけなのだ。




