↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落内円は落ちている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
109/490

ゲンナイ・ヒラガ

### 第六十六話 ゲンナイ・ヒラガ


「まず、あなたは何者なんですの?」


 ガブリエルが尋ねる。


「俺か?」


 男は少し考えるように顎に手を当てた。


「異世界転移者だ」


「…………」


「マジかー」


 マドカが思わず声を漏らす。


「そういえば、平賀源内っていたかも」


「ああ」


 男はあっさり頷いた。


「それは同姓同名なだけの日本人だ」


「え?」


「俺は平成生まれだぜ?」


「え、マジか」


「マドカと一緒ね」


 リゼットが笑う。


「この子も前世は地球人らしいわよ?」


「お」


 男がマドカを見る。


「同郷かよ!」


「まぁ、その話はあとで」


 マドカは話を進める。


「それより、ここってなんなの?」


「あ?」


 男は少し首を傾げた。


「このダンジョンのことか?」


「うん。今まで私たちが知ってたダンジョンと、なんか色々違うし」


「そうだな」


 男は近くの机に腰掛ける。


「俺がこの世界に来たのは、もうずっと昔の話だ」


「どのくらい昔なんですの?」


「正確には覚えてねぇな」


 男は苦笑する。


「ただ、俺がこのダンジョンにいた期間だけでも、七百年くらいはあったと思う」


「七百年……」


 エレノアが目を丸くする。


「そんなに長く?」


「ああ」


 男は頷いた。


「俺は異世界に来たとき、いわゆるチートみたいな力をいくつか貰ってな」


「その一つが不老?」


「そういうことだ」


 男は自分の顔を指差す。


「年を取らなくなった」


「それで世界中を旅していたんですの?」


「最初はな」


 エルフ。


 ドワーフ。


 獣人。


 今ではほとんど見かけなくなった種族とも、当時は普通に出会っていたという。


「昔はいっぱいいたぞ?」


「今では中々見かけない種族よね」


 リゼットが言う。


「そうなのか?」


 男は不思議そうにする。


「まぁ、俺がいた頃は普通にいたからな」


 そんな旅の途中で、男は人間が他種族を奴隷にしていることを知った。


「マジかよ。めんどくせぇな」


 それが男の感想だった。


「それで、迫害されてる連中に言ったんだよ」


 このダンジョンを攻略して、もっと下へ逃げよう。


 そこなら、人間から離れて暮らせる。


 そうして、様々な種族がダンジョンの中へ集まっていった。


「あなたは、ここの代表者だったと?」


 エレノアが尋ねる。


「まぁ、最初はな」


 男は笑う。


「せっかく色んな種族が集まってるんだ。おもしれーもん作れるだろ?」


「分かる~」


 ニコラが頷く。


「だろ?」


 男も嬉しそうに頷く。


「お前もそういうタイプか」


「そうかな~?」


「そうだよ」


 マドカが苦笑する。


「二人とも発明の話になると楽しそうだし」


「そりゃそうだろ」


 男は笑った。


「俺はゲンナイ・ヒラガ。発明家だ」


 それからゲンナイは、ダンジョンの環境を整えていった。


「最初の百年くらいは、ほとんどそれだな」


 二十階には、なぜかモンスターが発生しなかった。


 だから、そこをみんなの拠点にした。


 二十一階には巨大な湖があり、水の中で暮らす種族には住みやすい環境だった。


 二十二階は砂漠。


 そこには砂漠で暮らす獣人たちが集まった。


「それぞれ、住みやすい場所に住ませたわけですね」


「そういうこと」


 ゲンナイは頷く。


「元々あった環境を利用しただけだ。全部俺が作ったわけじゃねぇよ」


 さらに、二十一階と二十二階の間には、水を管理するための設備も整えた。


「二十一階の水が増えすぎると、二十二階にも影響が出るからな」


「なるほど……」


「だから、排水できるようにした」


 それぞれの階層で暮らす者たちが、できるだけ生活しやすいように。


 そうして地下の生活は、少しずつ大きくなっていった。


 弟子や子供たちも増え、それぞれが好きなように物を作っていった。


「俺が作ったもんを参考にして、勝手に色々やってたな」


「じゃあ、ニコラの先祖も……」


 マドカがニコラを見る。


「たぶんね~」


「まぁ、似てるけどな」


 ゲンナイがニコラを見る。


「お前、俺と同じ匂いがするぞ」


「そうかな~?」


 ニコラは楽しそうに笑った。


 そんな風にして、地下の町は大きくなっていった。


 人間も増えた。


 行き場のない者たちも受け入れた。


 やがて、全体を管理する人間が必要になった。


「そこで、スリーピアの王に?」


 エレノアが尋ねる。


「そう」


 ゲンナイは頷く。


「他の種族には、それぞれ代表がいた。でも、ダンジョン全体の面倒を見るなんて誰もやりたがらなかったからな」


「それで、あなたは管理から離れたんですの?」


「そういうこと」


 ゲンナイは肩をすくめる。


「俺は発明してる方が楽しかったからな」


「……それで、スリーピアに任せたんですね」


「ああ」


 ゲンナイは頷く。


「俺はそのまま、また発明を続けた」


 地上へ戻るのが面倒になれば、転移魔法陣を作った。


「今の国家間転移魔法陣の元になったものですか?」


 エレノアが尋ねる。


「たぶんな」


 ゲンナイは軽く答える。


「俺がいちいち一階まで戻るのが面倒だったから作っただけだけどな」


「…………」


 現代では伝説になっている技術を、そんな理由で作っていたらしい。


「その後も、誰かが『国家間の転移魔法陣が完成しました』とか報告に来てたな」


「あなた、ちゃんと報告は受けてたんですね」


「一応な」


 ただ、ゲンナイ自身はほとんど家から出なかった。


 必要な素材も、食事も、誰かが届けてくれた。


「もう後の世代の仕事だろ?」


 そう言って、ゲンナイは発明を続けていた。


「では、その後のスリーピアについては?」


 エレノアが尋ねる。


「知らん」


「……ご存じないのですか?」


「ああ」


 ゲンナイはあっさり答える。


「俺、外に戻ってないからな」


「では、地上で何が起きていたのかも?」


「途中からは全然知らん」


 ゲンナイは肩をすくめる。


「俺が下に潜ってる間に、上で何があったかなんて分からんだろ?」


「なるほど……」


 エレノアは納得したように頷く。


「では、あなたが知っているのは、あなたが実際に見ていた時代までということですね」


「そういうことだ」


 ゲンナイは笑う。


「だから、お前らの知ってる歴史と俺の知ってる歴史が違ってても、別におかしくない」


「……それでも、今の私たちが知らないことを、あなたは知っているのですね」


「まぁな」


 ゲンナイは少しだけ遠くを見る。


「俺がここにいた頃の話なら、いくらでもしてやるよ」


 そう言ってから、ゲンナイはふと思い出したように続ける。


「ただ、俺も途中からはずっと下にいたからな」


「ずっと?」


「そう」


 ゲンナイは笑う。


「ある時から、地上のことなんて気にしなくなった」


「どうしてですの?」


「下に行くのが面白かったからだよ」


 あまりにも簡単な答えだった。


「一人で?」


「ああ」


「危なくなかったんですか?」


「そりゃ危ないさ」


 ゲンナイは笑う。


「でも、一人の方が楽だったんだよ。誰かを連れてると、その分気を遣うだろ?」


「……ゲンナイらしいね~」


 ニコラが笑う。


「だろ?」


 ゲンナイも笑った。


「それで、どんどん下に行った」


 地上に戻ることもなく。


 誰かを連れていくこともなく。


 ただ、自分の興味のままに。


 ゲンナイはダンジョンの奥へ進んでいった。


「そのまま、ダンジョンマスターになったんですか?」


 エレノアが尋ねる。


「いや」


 ゲンナイは首を振る。


「その頃の俺は、まだただの冒険者みたいなもんだった」


「では、どうして?」


「まぁ、その話は後だ」


 ゲンナイは笑う。


「その前に、俺がダンジョンマスターになって初めて知ったことがある」


「初めて知ったこと?」


「ああ」


 ゲンナイは少し考えるように目を細める。


「二十階に、ずっと妙な女がいるってな」


「…………」


 マドカたちが顔を見合わせる。


「妙な女?」


 ガブリエルが首を傾げる。


「誰のことですの?」


「さあな」


 ゲンナイは肩をすくめる。


「俺も最初は、二十階にそんな奴がいるなんて知らなかったからな」


 そして、ゲンナイはヒナタを見る。


「……お前のことだよ」


「私ですか?」


 ヒナタが首を傾げる。


「そう」


 ゲンナイはじっとヒナタを見る。


「二十階で、ずっと同じ姿の女がいる」


「…………」


「それを知ったのは、俺がダンジョンマスターになってからだ」


 ヒナタは少し困ったように笑った。


「そうだったんですね」


「ああ」


 ゲンナイは頷く。


「それで、気になった」


「何がですか?」


「お前、何なんだ?」


 ヒナタが少し目を丸くする。


「私ですか?」


「ああ」


 ゲンナイは不思議そうにヒナタを見る。


「ずっと同じ姿なんだろ?」


「…………」


「不老なのか?」


 ヒナタは少し考えてから、静かに答えた。


「……私にも、最初はよく分からなかったんですよ」


 長い昔話が、ここから始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。