スフィンクスへ
23階のジャングル。
巨大な樹を見つけた一行は、その周囲を守っていたモンスターを倒した。
どうやら、あの樹の先が24階への入口らしい。
入口そのものはすぐに見つかった。
だが、その日はそこで探索を切り上げることになった。
そして翌日。
エキドナの拠点では、ニコラが珍しく考え込んでいた。
「…………」
「ニコラ?」
マドカが声をかける。
「どうしたの?」
「ん~?」
ニコラが顔を上げる。
「ダンジョンのヒラガって……なんだろーって」
「ヒラガ?」
「うん~」
ニコラは少し考えながら続ける。
「何千年前のダンジョンなのに、なんで私の家が関わってるんだろー?」
「ああ……」
マドカも思い出す。
22階の古代遺跡。
そして、スフィンクスが口にした名前。
ゲンナイ・ヒラガ。
「たしかに、気になるね」
「そうなんですよ」
エレノアも話に入ってくる。
「ですが、それを言うなら王家も同じです」
「王家?」
「ええ。私たちの王家も、あのダンジョンと無関係ではありません」
エレノアが少し考える。
「ニコラの一族と私たちの王家。どちらも、あの古いダンジョンに何らかの繋がりがある」
「じゃあ、調べてみてもいいかもしれないね~」
「そうですね」
それから二人で、ダンジョンに残っている文献や、王家に残された記録について調べることになった。
けれど――。
数日後。
「……結局、なんも分かりませんでしたね~」
ニコラが机の上に広げた資料を見る。
「そうですね」
エレノアも頷く。
「ダンジョンに残っている記録だけでは、ゲンナイという人物が何者だったのかまでは分かりませんでした」
「実家の方も聞いてみたけど、昔すぎて詳しいことは残ってないみたい~」
「王家の記録にも、名前そのものは残っていますが……」
エレノアが資料を閉じる。
「人物像については、ほとんど記録がありません」
「うーん」
ニコラは少し考える。
「だったら、本人に聞くしかないのかな~」
「本人?」
「スフィンクス」
「ああ……」
エレノアが思い出す。
「そういえば、あのスフィンクスはゲンナイに作られたと言っていましたね」
「うん~」
ニコラが頷く。
「作った本人について詳しく知らなくても、何か覚えてるかもしれないし~」
「聞いてみる価値はありそうですね」
こうして。
エキドナの一行は、もう一度スフィンクスのところへ向かうことになった。
そして――。
砂漠の探索を終え、エキドナの一行はスフィンクスの前へ戻ってきていた。
「結局、ここに来た理由ってなんだったんだろうね~」
ニコラが首を傾げる。
「いろいろ分かったことはありますけど、ゲンナイという人物については何も分かっていませんね」
エレノアが言う。
「そうなんだよね~」
ニコラはスフィンクスを見る。
「スフィンクスなら何か知ってるかな~?」
「聞いてみましょうか」
エレノアも頷いた。
「あなた、ゲンナイ・ヒラガについて何か知っていますか?」
スフィンクスはしばらく黙っていた。
「ゲンナイ……」
そして、ゆっくりと口を開く。
「わしの創造主じゃ」
「……え?」
ニコラが目を丸くする。
「ゲンナイ・ヒラガが、あなたを作ったんですの?」
ガブリエルが食いつく。
「そうじゃ」
「では、ゲンナイとはどのような人物だったのです?」
「知らぬ」
「知らないんですの!?」
ガブリエルが思わず声を上げる。
「わしは物じゃぞ。物に話しかける奴がおるか?」
「……まぁ、そうだね~」
ニコラが納得する。
「スフィンクスに話しかけてたのはゲンナイだけ、ってことか~」
「そうじゃ」
「他には何か覚えてない?」
「下へ行くと言っておった」
「下……」
全員が顔を見合わせる。
「それだけですか?」
エレノアが尋ねる。
「それだけじゃ」
「……やっぱり、ぜんぜん分かんないじゃん~」
ニコラが肩を落とした。
「結局、名前と、下に行ったってことしか分かりませんわね」
ガブリエルも少し不満そうだ。
「まぁ、これ以上ここで聞いても仕方ないか」
マドカが言う。
「ニコラも、ヒラガ家のことは家に帰ってから調べればいいんじゃない?」
「そうだね~。実家にも聞いてみるよ~」
そのときだった。
「……ん?」
スフィンクスが突然、顔を上げた。
「どうしたの?」
マドカが尋ねる。
「呼ばれたようじゃ」
「誰に?」
「…………」
スフィンクスが答えるより先に。
景色が歪んだ。
「え?」
次の瞬間――。
視界が真っ白になった。
「うわっ!?」
マドカが声を上げる。
そして。
「…………ここ、どこ?」
気がつくと、そこは今までいた砂漠ではなかった。
広い部屋だった。
壁には古い装置が並び、中央には大きな机が置かれている。
「皆さん、無事ですか?」
エレノアが周囲を見る。
「私は大丈夫です」
「こっちも~」
「問題ない」
「私もですわ」
全員が無事なのを確認する。
「転移……?」
リゼットが周囲を見回す。
「かなり特殊な魔法ね」
そのとき。
「よう」
部屋の奥から声がした。
全員の視線が一斉にそちらへ向く。
そこには、一人の男がいた。
「…………誰?」
マドカが首を傾げる。
「俺か?」
男は気軽に笑う。
「俺はゲンナイ・ヒラガ」
「…………」
空気が止まった。
「ゲンナイ……?」
ニコラが呟く。
男は机に腰掛けたまま、楽しそうに一行を見る。
「なんだよ」
そして、ニヤリと笑った。
「俺のこと、知りてーのか?」
こうして。
エキドナと、ゲンナイ・ヒラガの初めての会話が始まった。




