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落内円は落ちている  作者: 七風


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サハギン

 水の中からこちらを見ていたのは、ゴブリンによく似た生き物だった。


 ただし、よく見ると肌には魚のような鱗があり、顔つきもどこか魚に近い。


「なんかキモイですわ! ゴブリンですの?」


「いや、ゴブリンにしては変じゃない?」


 マドカが首を傾げる。


「そもそも、普通のゴブリンって喋るの?」


 その言葉に反応するように、生き物が口を開いた。


「オ……オマエラ……ナニモノ……」


「喋った!」


 マドカが驚く。


「ゴブリンじゃないみたいですね~」


 ニコラも興味深そうに眺める。


「サハギン……かな~?」


 エレノアが呟く。


「私も、そういう種類の名前なら聞いたことがありますね」


 ガブリエルも少し警戒しながら見つめている。


 サハギンは、そんな一行を不思議そうに見回していた。


「オマエラ ナンデ イロチガウ?」


「色?」


「オレ オマエラ ミタイノ ミタコトナイ。ドコカラキタ?」


「えーっと、キミとは種類が違うんだよ~。私達は上から来たの」


「ウエカラ?」


 サハギンが目を丸くする。


「ウエ イキテイケナイ。オレタチ ミズダイジ」


「乾いたらきつそうですもんね」


 マドカが納得する。


 話してみると、どうやらこの階層にはサハギンたちが暮らしているらしい。


 ただ、この場所にいるのはこの一匹だけではないようだった。


「ソノ サカナ オレノ ナカマ」


 サハギンが、マドカたちが捕まえた魚を見る。


「ヨク クワレル。コワイ」


「仲間なのに食べられるの?」


 マドカが聞く。


「オレタチモ サカナ クウ」


「ああ……」


 マドカは納得した。


 同じ水中で暮らす生き物だから仲間と言っているだけで、食べる食べないの話とは別らしい。


「オマエラ ソレ クウ?」


「うん。今から食べるけど」


「イイナァ……」


 サハギンが魚を見る。


「ソノサカナ トルノ イノチガケ」


「え?」


「オレタチ アレ トル ムズカシイ」


「そうなんだ」


 マドカは少し考える。


 自分たちは普通に捕まえてしまったが、この階層の生き物にとっては命懸けの獲物らしい。


「ところで、下に行く道ってないの?」


 マドカが尋ねる。


「シタ?」


「うん。私たちは、このダンジョンがどこまで続いてるのか調べてるんだ」


「シタ……」


 サハギンが少し考える。


「アレカ」


 そう言って、海底の奥を指差した。


「アレハ トジテル。ダレモイカナイヨウニ」


「閉じてる?」


「アケルト ココノミズ ナクナル。コワイ。ソレ ダメ」


「水がなくなるの?」


 マドカが目を丸くする。


「ココカラシタ マエニモ アケタナカマガイタ」


 サハギンは少し怯えたように続けた。


「モドッテコナイ。コワイ。ナニガイルノカモ ワカラナイ」


「なるほど……」


 リゼットが考える。


「つまり、その先に何かいる可能性が高いわね」


「番人とかでしょうか?」


 エレノアが尋ねる。


「バンニン?」


 サハギンは頷いた。


「バンニン オレトオナジスガタノナカマ クウ。チョットジャマ」


「……それは確かに、ちょっとどころじゃない気がしますわ」


 ガブリエルが引きつった笑みを浮かべる。


「アノサカナ ノ モットモットオオキイ」


「魚?」


「オレラモ クワレル」


 その言葉を聞いて、マドカたちは顔を見合わせた。


「それって、どのくらい?」


 マドカが聞く。


「……デカイ」


 サハギンは両手を広げる。


「アノサカナヨリ ズットデカイ」


「へぇ……」


 マドカが少し楽しそうな顔をする。


「じゃあ、ちょっと見てみようか」


「本気ですの?」


「だって気になるじゃん」


 ガブリエルもすぐに頷いた。


「私も見てみたいですわ!」


 こうして、一行はサハギンに教えてもらった海底へ向かうことになった。


 もっとも、全員が泳いで行くわけにはいかない。


 そこで一行が使ったのは、先ほど作った簡易潜水箱だった。


 箱の中にはニコラとカトリーヌが用意した魔道具が取り付けられ、後方の魔道具から風を送り出すことで水中を進めるようになっている。


「これ、本当に大丈夫なの?」


 マドカが箱の中を見回す。


「たぶん大丈夫~」


「たぶん!?」


「壊れたら泳げばいいじゃない~」


「それはそうだけどさ……」


 リゼットが外から重力魔法を調整する。


「じゃあ、行きましょうか」


 潜水箱はゆっくりと海の中へ沈んでいった。


 しばらく進むと、海底が見えてくる。


 巨大な岩。


 海底に生える植物。


 そして、遠くを泳いでいく巨大な魚。


「本当に海みたいですね」


 エレノアが窓から外を見る。


「でも海じゃないんだよね~」


 ニコラが言う。


「塩辛くないから、たぶん普通の海水じゃないと思う~」


 海底を進んでいくと、やがて巨大な構造物が見えてきた。


「あれかな?」


 マドカが指差す。


 海底の壁に、大きな開口部がある。


 その前には、厚い板のようなものが設置されていた。


「これが下に行くための設備ですの?」


 ガブリエルが尋ねる。


「たぶんね」


 マドカたちは潜水箱を近づけ、周囲を調べ始めた。


 設備の横には、開閉用らしきボタンがある。


「押してみる?」


「少しだけなら大丈夫でしょう」


 リゼットが周囲を確認する。


 マドカがボタンを押す。


 すると、重い音が響き、板が少しだけ動いた。


 その瞬間、水が勢いよく下へ流れ始めた。


「わっ!」


 潜水箱が少し揺れる。


「これ、下に水を流すための設備じゃないかな~」


 ニコラが言う。


「閉じてても少しずつ水が流れてたし、排水用なんだと思う~」


「排水設備……」


 マドカが納得する。


 すると、開いた隙間の向こう側にも、同じような操作装置があることに気づいた。


「あっちにもボタンがあるよ」


「向こう側からも開けられるということですわね」


 ガブリエルが嬉しそうに言う。


「じゃあ、帰りも戻ってこられる?」


「戻ること自体はできそうだけど、下から上へ泳ぐことになるから、水流はきつそうだね」


「それなら問題ありませんわね!」


 ガブリエルは即答した。


「行きましょう!」


「判断が早いなぁ……」


 マドカが苦笑する。


 そのとき、海底の奥から巨大な影が現れた。


「……あれ?」


 影がこちらへ近づいてくる。


 巨大な口。


 鋭い歯。


 そして、一行を丸ごと飲み込めそうなほどの巨体。


「でっか……」


 マドカが呟く。


「サハギンが言っていた番人でしょうか」


 エレノアが身構える。


「たぶんね」


 巨大なサメが、一行へ向かって突っ込んできた。


「来た!」


 マドカが箱の外へ飛び出す。


「マドカ!」


「大丈夫!」


 マドカは水の中を自由に泳ぎながら、サメの攻撃をかわしていく。


 巨大な顎が閉じる。


 その直前――


 時間が止まった。


 巨大なサメも、水中を舞う水泡も、すべてが静止する。


「……よし」


 マドカはサメの身体を見上げる。


 そして、時間が動き出す。


 次の瞬間には、巨大なサメが海底へ沈んでいった。


「終わったよー」


 マドカが戻ってくる。


「お疲れ様です」


 エレノアが声をかける。


「それにしても、すごい大きさでしたね」


「メガロドンかな~?」


 ニコラが倒れたサメを眺める。


「名前まで分かるの?」


「昔の世界の知識だよ」


 マドカが答える。


「たぶん、メガロドンってやつ」


「メガロドン……」


 ガブリエルの目が輝く。


「……データ化」


「はいはい」


 マドカが苦笑する。


「でも先に、これをどうするかだね」


「私の収納に入れておきましょう」


 リゼットがメガロドンを収納する。


「それで、どうする?」


 マドカが海底の設備を見る。


「この先に進むんだよね」


「そうですわ!」


 ガブリエルが即答する。


「なら、開けてみましょう!」


「まあ、そうなるよね」


 マドカたちは潜水箱へ戻った。


「この潜水箱、ここは通れそう?」


 マドカが排水口を見る。


「無理そうですね~」


 ニコラが答える。


「じゃあ、泳ぐしかないか」


「そうですね」


 マドカが潜水箱から出る。


「ちょっと濡れるけど、行ってくるよ」


 リゼットたちも続いて海底へ向かった。


 そして改めて排水設備を確認する。


「じゃあ、開けるよ」


 マドカがボタンを押す。


 大きな音とともに設備が開き、水が一気に下へ流れていく。


「うわっ!」


 その流れに身体を持っていかれる。


「これ……」


 マドカが笑う。


「ウォータースライダーみたい!」


 全員が水流に乗って、一気に下へ流されていった。


「た、楽しいですわー!」


 ガブリエルまで楽しそうな声を上げる。


 長い水路を滑るように進み、やがて水の流れが弱くなる。


「そろそろ着くよ!」


 マドカが声を上げた。


 次の瞬間、一行は大量の水とともに外へ飛び出した。


「ぷはっ!」


 マドカが水面から顔を出す。


「着いたー!」


「着きましたわー!」


 ガブリエルも嬉しそうに叫ぶ。


 しかし。


「……あれ?」


 マドカが周囲を見回す。


 目の前に広がっていたのは、海でも岩場でもない。


 一面の砂だった。


「砂漠……?」


 エレノアが呟く。


「二十二層は砂漠なんですか……」


 ニコラも驚いている。


「砂漠か……」


 マドカも呆れたように呟いた。


 その横で、ガブリエルがリゼットを見る。


「それより!」


「はいはい」


 リゼットが収納からメガロドンを取り出す。


「データ化ですわ!」


 全員でメガロドンをデータ化する。


 しばらくして、一枚のカードが完成した。


「メガロドン……」


 ガブリエルがカードを手にする。


「レア度、高いですわね……!」


 そして――


「ひゃふううううですわー!」


「おいおい、ガブ」


 マドカが呆れた顔で言う。


「周り見ろ」


「え?」


 マドカが周囲を指差す。


「砂漠だ……」


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