21層発見
「さて、二十一層の入口を探すと言っても……」
マドカは周囲を見回した。
「どうやって探すの?」
「それを今から調べるんですわ」
ガブリエルが呆れたように答える。
「二十層までは何度も確認しているんでしょう?」
「うん」
「でしたら、今まで見落としていた何かがあると考えるべきですわね」
「なるほど」
マドカは頷く。
「じゃあ、昔と今で違うところを探してみよう」
「昔と今?」
「グレタの時代と、ヒナタの時代」
マドカがグレタを見る。
「グレタの時代にはなかったけど、ヒナタの時代にはあったものとか」
「……そうだな」
グレタも周囲を見回した。
「俺が知っている二十層と、今の二十層では時間がかなり離れている。俺の時代の後にヒナタがここにいた時代があって、そのさらに後が今だ」
「そう考えると、結構な時間が経ってますね」
エレノアが言う。
「同じ二十層でも、その間に何か変化していても不思議ではありません」
「私の時代にも、今と違うところがありましたから」
ヒナタも周囲を見る。
「ただ、どこがいつ変わったのかまでは分かりません」
「そっか」
マドカは頷いた。
「じゃあ、まずは変なところ探しだね」
一行は二十層を歩き始めた。
古代の施設。
使われなくなった建物。
長い年月を経ても残っている壁や通路。
グレタが昔の記憶と照らし合わせながら確認していく。
「ここは変わってないな」
「こっちもですね」
「この辺りも、俺の時代からあった」
そんな確認を続けていると――
「……あれ?」
ヒナタが足を止めた。
「どうした?」
マドカが振り返る。
「これ……」
ヒナタが指差した先には、大きな穴があった。
縦に掘られたような穴で、その周囲には大量の木材や金属片が散らばっている。
「ゴミ捨て場だ~」
ニコラが覗き込む。
「私の時代では、ここにみんなゴミを捨ててましたよ」
「ゴミ捨て場?」
マドカも穴を覗き込む。
中には木材の切れ端、壊れた家具、鉄の破片、古い工具。
何に使われていたのか分からない金属部品や、壊れた魔道具らしきものまで、ぎっしりと詰まっていた。
「……すごい量だね」
「長い間使われていたようですね」
エレノアも覗き込む。
「グレタは?」
「……俺の時代には、こんなものはなかった」
「じゃあ、やっぱりその後にできたんだ」
マドカがヒナタを見る。
「ヒナタの時代には?」
「ありました」
「ここにみんな捨ててた?」
「はい」
ヒナタは頷く。
「私がいた頃には、普通にゴミ捨て場として使われていました」
「ふーん……」
マドカは穴を眺める。
「でもさ」
「何ですの?」
「なんで、ここに捨てたんだろ?」
「ゴミ捨て場だからじゃ~?」
ニコラが答える。
「いや、それは分かるんだけど」
マドカは首を傾げる。
「ここ、ダンジョンだよ?」
「……あ」
ニコラも少し考える。
「確かに~」
「木材とか鉄とかなら、燃やしたり魔法で処分したりできるんじゃない?」
「そう言われると、わざわざここまで運んで捨てる理由がありませんね」
グレタも穴を覗き込む。
「それに、この穴自体が妙だ」
「妙?」
「俺の時代にはなかった。ヒナタの時代にはあった。そして今も残っている」
グレタが穴の壁を見る。
「ただのゴミ捨て場にしては、随分と深いな」
「何メートルくらいあるんですの?」
「直径十五メートルくらいか?」
グレタが目測する。
「それくらい~」
ニコラも頷いた。
「ちょっと待って」
マドカが穴の中を見る。
「……これ、掃除したら何か分かるんじゃない?」
「掃除?」
「うん」
リゼットが前に出る。
「それなら任せて」
魔法が発動する。
穴の中に詰まっていた廃材が、次々と浮かび上がっていく。
木材。
鉄くず。
石材。
壊れた道具。
古い魔道具の部品。
長い年月の間に捨てられたものが、次々と地上へ運び出されていく。
「まだある~」
「本当に多いな……」
グレタが呆れる。
やがて、最後の廃材が持ち上げられた。
「終わったわよ」
リゼットが言う。
マドカは改めて穴を覗き込む。
「…………」
先ほどまでゴミで埋まっていた穴。
その底が、今ははっきりと見えている。
だが――
「……あれ?」
マドカが首を傾げた。
「これ……」
穴の底には、さらに下へ向かう空間があった。
ただの穴ではない。
明らかに、その先へ続いている。
「どう見ても、これ……」
マドカが言う。
「下へ向かう穴だよね?」
「……そうですわね」
ガブリエルも身を乗り出す。
「これ、どう見ても二十一層への入口ではありませんの?」
「だよね?」
マドカは頷く。
「そもそも、なんでここにゴミを捨てたんだろ?」
「過去の人々が、二十一層から何かが出てくるのを恐れて塞いだ、とかでしょうか?」
エレノアが考える。
「あるいは、入口を塞ぐためのバリケードにしていたのかもしれません」
「それで、ついでにゴミ捨て場になった?そしてヒナタの時代の人は穴の本当の意味を忘れてしまった」
「21への入り口すら忘れたとかそういう可能性もありますね」
ヒナタが答える。
「でも……分かりません」
「まあ、そうだよね」
マドカは穴を見る。
「実際に行ってみないと分かんないよね!」
「おい」
グレタが嫌な予感を覚える。
「待て、マドカ」
「よーし!」
「だから待て!」
マドカは穴の縁に立つ。
「行ってみよう!」
「マドカ!」
「危ないですわ!」
「マドカちゃん!」
「待てと言っている!」
「マドカ穴いきまーす!」
「穴じゃねぇ!」
次の瞬間。
マドカは穴へ飛び込んだ。
「うわあああああ!」
そのまま落下する。
「マドカーーー!」
上からリゼットの声が聞こえる。
「大丈夫だよーー!」
落ちている本人は、なぜか楽しそうだった。
ところが。
「……ん?」
途中から、落下の勢いが変わった。
身体が斜めに滑り始める。
「わっ」
さらに加速する。
「た、楽しい!」
どうやら穴の途中が、まるで巨大な滑り台のようになっていた。
「これ、ウォータースライダーみたい!」
マドカはそのまま勢いよく滑っていく。
そして――
ばしゃんっ!
「うわっ!」
水の中へ飛び込んだ。
「ぶはっ!」
マドカが顔を出す。
「…………」
周囲を見回す。
どこまでも続いているように見える水。
遠くには岩場や小さな島のような場所がいくつか見える。
「……これ」
マドカが呟く。
「海じゃん……」
上を見ても天井がよく分からない。
周囲は大量の水で満たされている。
「どうやって攻略するのさ!」
その声が響く。
「マドカー? 聞こえるー?」
上の穴からリゼットの声がする。
「聞こえるよー!」
マドカが叫び返す。
「怪我もないけど!」
「よかった!」
「違う意味でやばい!」
マドカは水面を見渡す。
「ここ、水しかないよ!」
「水?」
リゼットが驚く。
「海みたい!」
「海?」
ガブリエルも興味深そうにする。
「まさか、二十一層は海ですの?」
「たぶん!」
マドカが水をすくう。
「……ん?」
少し舐める。
「……しょっぱくない」
「淡水?」
「うん」
マドカが頷く。
「じゃあ海じゃないね」
「どういうことですの?」
「海なら塩水だから」
「なるほど」
ガブリエルも納得する。
「では、巨大な湖……?」
「分かんないけど、とにかく水がいっぱい!」
マドカは泳いで近くの岩場へ向かった。
「とりあえず、ここなら立てるね」
水面から少し出ている岩場。
それほど広くはないが、人が何人か立てる程度の大きさがある。
「マドカ、何かいる?」
エレノアが上から聞く。
「まだ分からない!」
マドカは水の中を覗く。
水は驚くほど透明だった。
深い場所まで見通せる。
「……結構深い」
巨大な魚の姿も見える。
普通の魚より遥かに大きいものもいる。
さらに遠くには、細長い生き物が水中を泳いでいた。
「……うなぎ?」
マドカが目を細める。
「うなぎって海にいるの?」
「知りませんわよ!」
ガブリエルが上から返す。
「こっちに聞かないでくださいまし!」
「そっか」
マドカは水中を覗く。
「でも、あれ食べられるかな?」
「食べる気ですの!?」
「だって魚いるし」
「そこではありませんわ!」
マドカは少し考える。
「私なら潜って魚取れるよ」
「潜る?」
「うん。私、泳ぐの得意だから」
マドカは水中へ潜る。
深く潜っていく。
水圧は感じるものの、問題なく泳げる。
しばらくして――
「取れた!」
5mほどの大きな魚を抱えて水面へ戻ってきた。
その頃には全員21層に降りてきていた。
「……本当に取ってきましたね」
エレノアが呆れる。
「食べられるかどうかは分かりませんけどね~」
ニコラが魚を見る。
「じゃあ、ちょっと調べてみます~」
「よーし!」
マドカは岩場へ上がる。
「みんなも潜れるようにしよう!」
「どうやって?」
「魔法道具とか?」
ニコラが考える。
「酸素を作るだけなら、簡単な道具は作れそう~」
「それならいいね」
マドカが頷く。
「でも、女の子たちはそのまま潜るわけにはいきませんわよね」
ガブリエルが言う。
「服が濡れますし、そもそも水中で動きにくいですわ」
「確かに」
フローラも頷く。
「じゃあ、まず着替えよう」
マドカは岩場の奥を見る。
「この辺なら、あっちから見えないよね」
「岩陰なら大丈夫でしょう」
エレノアが周囲を確認する。
それぞれ岩陰に隠れて、水中でも動きやすい服へ着替えることになった。
マドカもいつもの服を脱ぎ、水中で動きやすい格好に着替える。
「よし!」
着替えを終えたマドカが岩場へ戻る。
「これなら潜れる!」
「マドカは本当に楽しそうですわね……」
ガブリエルが呆れる。
「だって新しい階層だよ?」
「それはそうですけど」
「しかも魚がいる」
「結局そこですの?」
「もちろん!」
マドカは笑った。
「でも、全員で水の中を移動するのは大変そうだね」
「ヒナタなら、時間を止めている間は安全ですけど」
エレノアが言う。
「それでも泳ぐ必要はありますからね」
「そうなんだよね」
マドカが水面を見る。
「泳いで移動するしかない」
「なら、船が必要だな」
グレタが言った。
「船?」
「水の上を進む船ではなく、水の中を移動するものだ」
「それなら潜水艦だね」
「潜水艦?」
グレタが首を傾げる。
「海の中を沈んでも、浸水しない入れ物」
「……そんなものがあるのか?」
「私のいた世界にはあったよ」
「なるほど」
ニコラの目が輝く。
「水の中を移動できる入れ物ですか~」
「素材なら、ここの周辺でも集められそうだな」
グレタが周囲を見る。
「構造さえ分かれば作れるかもしれん」
「ニコラ、カトリーヌ、会議だ」
グレタが二人を見る。
「今ですか~?」
「今だ」
ニコラとカトリーヌは顔を見合わせた。
「まあ、考えるだけならいいけど」
「そうですね」
そんな三人を横目に、マドカは水面を見る。
「じゃあ、その間に魚取ってくる!」
「私はバーベキューの準備しますね」
エレノアが言う。
「じゃぁ、カマドでも作ろうかしら」
リゼットが岩場の一角を見つける。
「味見するわ!」
小さな妖精が元気よく手を挙げた。
「味見しかする気ないよね?」
「そんなことないわ! 食べるわ!」
「同じじゃん」
マドカは笑いながら水の中へ潜っていく。
しばらくして、先ほどのサイズの何匹もの魚を抱えて戻ってきた。
「取ってきた!」
「結構大きいですね」
エレノアが受け取る。
「これなら食べられるかもしれません」
「やった!」
マドカは嬉しそうにする。
その横では、リゼットが簡単な竈を作り、エレノアが魚を捌いていく。
ティニアはその横で、焼き上がるのを今か今かと待っていた。
「ん?」
そんな中だった。
マドカが水面の向こうを見る。
「……なんですあれ?」
水面が、少しだけ揺れた。
何かがこちらを見ている。
「なんかいる」
マドカが指を差す。
「どこですの?」
ガブリエルが振り返る。
「……あそこ」
岩陰から、ゆっくりと何かが顔を出した。
緑色。
大きな耳。
ぎょろりとした目。
「……なんかキモイですわ!」
ガブリエルが叫ぶ。
「ゴブリンですの!?」
その生き物は、こちらをじっと見つめていた。




