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落内円は落ちている  作者: 七風


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モンバト部 ダンジョンに挑む

「ま! ま! ま!」


 新聞を開いたガブリエルの顔が、みるみる険しくなっていく。


「なんですの、この書き方は!」


 紙面には、先日の取材でマドカが話した内容が載っていた。


『最近、注目している選手は?』


『ガブちゃんかなぁ』


『あの子は強くなるね』


『まだ私には勝てないけどね』


「もう! なんですの!」


 ガブリエルは新聞を机に叩きつけた。


「まだ勝てないとは何ですの! わたくし、そこまで弱くありませんわ!」


 しかし、怒りながらも別の記事に目が止まる。


『今後のモンバトは、機能データの追加によるアップデートを予定』


「……アップデート」


 ガブリエルの目が変わった。


「新しい機能……」


 記事を読み進める。


 まずはスロリアゴールから。


 そこから他の地域へ。


 物理的なものだから、広がるまでには時間がかかる。


「……」


 ガブリエルは腕を組む。


「今のカードを買い占めておいた方が……?」


 しかし、すぐに昨日のマドカとの会話を思い出した。


 まだ一年くらい先。


 国外にも出始めたばかり。


 色々な地域のカードが混ざってからの方が面白い。


「……なるほど」


 ガブリエルは一人で頷いた。


「今から買い占めても、あまり意味がありませんわね」


「ならば――」


 拳を握る。


「自分で集めればいいんですわ!」


 こうして翌日。


 モンバト部の五人は、学園の初級ダンジョンへやって来ていた。


「皆さん、今日は頑張りますわよ!」


「何を頑張るんです?」


 エミリアが首を傾げる。


「もちろんカード集めですわ!」


「……ああ」


 フローラが苦笑する。


「結局そこなんですね」


「当然でしょう!」


 ケヴィンも周囲を見渡す。


「まあ、初級なら危険も少ないしな」


「かわいい子がいるといいんですけど」


 シェリーも楽しそうに辺りを見る。


 そして――。


「ゴブリンですわ!」


「えいっ!」


 中級魔法。


 ゴブリンが吹き飛んだ。


「……」


 しばらく歩く。


「またゴブリンですわね」


「えいっ!」


 また吹き飛ぶ。


「……」


 さらに進む。


「またですの?」


 ガブリエルがため息をつく。


「弱すぎますわ~」


「初級ダンジョンなんだから仕方ないですよ」


 エミリアが苦笑する。


「分かっていますわ」


 ガブリエルは腕を組む。


「でも、これでは鍛錬にもなりませんし」


「カードを集めるにはいいんじゃない?」


 フローラが言った。


「……それもそうですわね」


 結局、その日は大量の低レアカードを持ち帰ることになった。


「これ、どうしましょう?」


 エミリアが山積みのカードを見る。


「いらないものも結構ありますわね」


 ガブリエルが考える。


「なら、売りましょう」


 ケヴィンが言う。


「欲しい人もいるだろ」


「そうですわね」


 ガブリエルも頷いた。


「売った分で、欲しいカードを買えばいいんですもの」


 少し考える。


「……それなら悪くありませんわ」


 どうやら、少しずつカードの扱い方を覚えているらしい。


 それから数日後。


「……暇ですわ」


 エキドナ本部。


 ガブリエルはソファに座って、マドカの横でだらだらしていた。


「ガブちゃん暇なの?」


「ええ」


「じゃあカード整理手伝ってよ」


「カードですの?」


「うん。十九層のカード、あまりまくってさ……」


「…………」


 ガブリエルの目が、マドカの手元へ吸い寄せられる。


「十九層……」


「うん」


 マドカはマジックバッグからカードを取り出す。


 一枚。


 二枚。


 三枚。


 十枚。


 二十枚。


 さらに出てくる。


「……」


 ガブリエルの顔が引きつった。


「こ、こんなに……?」


「うん。いっぱいあるよ」


「それを『いっぱい』で済ませますの!?」


「いらないのも結構あるんだよね」


 マドカは何でもないことのように言った。


「欲しいなら、持ってっていいよ」


「…………」


 ガブリエルの心が揺れる。


 十九層のカード。


 普通なら簡単には手に入らない。


 しかも、その中身は一枚一枚違う。


「……本当に?」


「うん」


「……」


 しかし、ただでもらうのは少し悔しい。


「その……交換という形なら――」


「別に交換じゃなくてもいいよ」


「……」


 ガブリエルはしばらく黙り込む。


「……では、整理をお手伝いしますわ」


「いいよ」


「よくありませんわ!」


「なんで?」


「そういうところですわ!」


 それでも目はカードから離れない。


 その時だった。


「そういえば……」


 ガブリエルが、ふと顔を上げる。


「十九層で、ダンジョンは終わりなんですの?」


「ん?」


 マドカは少し考えた。


「二十層はモンスターもいないし、終わりじゃない?」


「……え?」


「二十層は古代の無人施設だったよ」


「古代の……」


 ガブリエルは考え込む。


「普通、ダンジョンなら最後にラスボスがいるんじゃありませんの?」


「え」


 マドカが固まる。


「……ラスボス?」


「そうですわ」


「ダンジョンって、最後にボスがいるものなの?」


「だいたいがそうなんじゃありませんの?」


 ガブリエルは不思議そうに答える。


「階層主のようなユニークモンスターは、一度倒せばまた再生するというのも普通に知られておりますわよ?」


「へえ」


 マドカは少し考える。


「じゃあ、なんであそこにはいなかったんだろ」


「……」


 ガブリエルの目が細くなる。


「それですわ」


「ん?」


「十九層が最後なら、二十層は何のためにあるんですの?」


「古代の施設じゃない?」


「でも、ダンジョンでしょう?」


「うん」


「なら、最後の階層主は?」


「いなかったよ?」


「……」


 ガブリエルは腕を組んだ。


「少し……つまらないですわね」


「うん」


 マドカも頷く。


「なんか最後くらい、強いのがいてほしいよね」


「でしょう?」


 二人は顔を見合わせる。


「……そういえば」


 マドカが口を開く。


「グレタは、昔は二十層までだったって言ってたよ」


「……え?」


 ガブリエルの顔が変わった。


「昔は?」


「うん」


「今は?」


「知らない」


「…………」


 沈黙。


「マドカ」


「ん?」


「二十一層がある可能性は?」


「分からない」


「……」


「でも、ダンジョンって育つんでしょ?」


 ガブリエルの目が輝く。


「そうですわね」


「じゃあ……」


 マドカも少しだけ楽しそうに笑った。


「二十一層ができてるかもしれないね」


「……行ってみません?」


「行く?」


「はい」


 ガブリエルは立ち上がった。


「確かめるだけですわ」


「うん」


「別に、モンバトのカード目当てではありませんわよ?」


「そうなの?」


「……」


 ガブリエルは一瞬だけ目を逸らす。


「まあ、それも少しありますけれど!」


 その後――。


 グレタを捕まえた二人は、さっそく質問した。


「グレタさん!」


「あ?」


「最難関ダンジョンって、何層構造なんですの?」


「俺らの時代じゃ二十までだったが」


「やっぱり!」


 ガブリエルが身を乗り出す。


「でもな」


 グレタは面倒そうに続けた。


「ダンジョンって育つぞ?」


「育つ?」


「魔力が溜まれば広がることもある。階層が増えることだってある」


「…………」


 マドカとガブリエルが顔を見合わせた。


「ということは」


「二十一層があるかもしれない」


「そういうことだな」


「……!」


 ガブリエルの目が輝いた。


「マドカ!」


「うん」


「行きますわよ!」


「うん」


「ただし――」


 ガブリエルが振り返る。


「学生だけで行くのは駄目でしょうね」


「そりゃそうだよ」


「なら、皆さんにお願いしましょう」


 その日のうちに話は決まった。


 今度の休日。


 エキドナのメンバーと一緒に、モンバト部の五人で最難関ダンジョンへ向かう。


「二十層までは、もう何度も確認していますから問題ありません」


 エレノアも話を聞いて頷いた。


「二十一層が本当にあるのか、その入口を探すだけですね」


「そうですわ!」


「……探すだけ、ねぇ」


 リゼットが苦笑する。


「皆さん、分かっているかしら?」


「何が?」


 マドカが首を傾げた。


「最難関ダンジョンって、本来そんな気軽に遊びに行く場所じゃないのよ」


「でも二十層までは安全なんでしょ?」


「まあ、そうね」


「じゃあ大丈夫だよ」


 リゼットが頭を抱える。


「……まあ、あなたたちにとってはそうよね」


 そして迎えた休日。


 モンバト部の五人は、エキドナのメンバーと共に最難関ダンジョンへ入った。


 一層。


「ここは余裕ですわね」


 三層。


「まだまだですわ」


 五層。


「カードも結構集まりましたわ!」


 十層。


「ガブちゃん、最初より戦えるようになったね」


「当然ですわ!」


 十五層。


「エミリア、そこ!」


「はい!」


「フローラ、後ろ!」


「分かりました!」


 十八層。


「もうすぐですわね……」


 十九層。


「着きましたわ!」


 ガブリエルが周囲を見渡す。


 そこにいるモンスターは、これまでとは明らかに違っていた。


「……強い」


 エミリアが息を呑む。


 前方から、巨大な獣型モンスターがこちらへ向かってくる。


「来ます!」


 フローラが杖を構えた。


「まず私が止めます!」


 土の魔法が地面からせり上がり、モンスターの足元を狙う。


 しかし――。


「速い!」


 モンスターが土壁を飛び越えた。


「ケヴィン!」


「任せろ!」


 ケヴィンが前へ出る。


 迫ってきた爪を剣で受け、弾き返す。


「くっ……重い!」


 一撃を受け止めただけで、身体が後ろへ流される。


「援護します!」


 エミリアの魔法がモンスターの横から飛ぶ。


 その隙にフローラが別方向から攻撃を重ねる。


「今ですわ!」


 ガブリエルが魔法を放つ。


 五人の攻撃が重なり、ようやくモンスターが大きく体勢を崩した。


「そこ!」


 ケヴィンが踏み込み、最後の一撃を叩き込む。


 モンスターが倒れた。


「……はぁ」


 ケヴィンが息を吐く。


「今の、結構危なかったな」


「でも、倒せました」


 エミリアが笑った。


 ガブリエルはというと――。


「……」


 倒れたモンスターを見つめていた。


「カードにできます?」


「できるよ」


 マドカが答える。


 少しして、データがカードへ変換される。


「……!」


 ガブリエルが受け取った瞬間、目を輝かせた。


「このレア度……!」


 カードを裏返す。


「スキルが二つ!」


 さらに記載された魔法を確認する。


「しかも、この魔法……!」


 顔がみるみる嬉しそうになっていく。


「すごいですわ! 十九層、最高ですわ!」


「そこまで喜ぶか?」


 ケヴィンが苦笑する。


「だって見てくださいまし!」


 ガブリエルはカードを大切そうに両手で持った。


「ちゃんと自分たちで倒して手に入れたデータですのよ!」


「まあ、それはそうだな」


「しかも、この構成……悪くありませんわ!」


 ガブリエルは本気で嬉しそうだった。


 しばらくカードを眺めていたが、ふとケヴィンが口を開く。


「でも、まだまだ安定して狩れるわけじゃないよな」


「……」


 ガブリエルがカードから顔を上げる。


「確かに」


 エミリアが考える。


「では、こうしてみましょう」


「どうしますの?」


「役割をもっとはっきりさせるんです」


 エミリアは先ほどの戦いを振り返る。


「フローラさんが足止め。ケヴィンさんが前衛。私とガブリエル様が攻撃。そしてシェリーさんは――」


「かわいい子を探します」


「そこは戦ってください!」


 思わず全員が笑った。


 それでも、五人はその後も何度も戦った。


 敵の動きを覚え。


 魔法を使う順番を変え。


 互いの弱点を補いながら、少しずつ戦い方を整えていく。


 もちろん、毎回うまくいくわけではない。


 苦戦することもある。


 それでも――。


「今の、さっきより上手くいきましたわ!」


「ええ。連携が良くなっています」


「次はもっと早く倒せそうだな」


「うん」


 ガブリエルは笑っていた。


 最初は、カードが欲しくて来ただけだった。


 けれど今では――。


「……もう一回、行きません?」


「また?」


「はい!」


 その目は、カードだけを追っている時とは少し違っていた。


 モンバトのために始めたレベル上げ。


 それがいつの間にか、純粋に強くなることそのものも楽しくなってきたのである。


 ――十九層での狩りは、まだしばらく続きそうだった。

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