インタビュー2
翌日。
再び、王都からやってきた新聞記者の女性がエキドナ本部を訪れていた。
「昨日だけでも、かなり面白いお話を聞かせていただきました!」
記者は昨日の取材メモを抱え、今日もやる気満々だった。
「でも、まだまだ気になることがあるんです。今日はもう少し、皆さんのことを教えていただいても?」
「もちろん構いませんよ」
エレノアが笑う。
「では、今日は私からですね」
「はい。よろしくお願いします!」
記者はさっそくエレノアへ向き直った。
「エレノア殿下は、どういうきっかけでエキドナの皆さんと活動するようになったのでしょう?」
「初めは、リゼット様が活動を再開された際の案内役としてのお付き合いだったでしょうか。当時と言っても、まだ半年ほど前のことですが」
「思っていたより、ずっと最近なんですね」
「ええ」
エレノアは頷いた。
「その後、ダンジョンが出現しまして。ブリジットと私で、攻略メンバーとして参加したことがきっかけですね」
「そこで実際に攻略された、と」
「はい。無事に攻略できました」
「それから今では、王家とエキドナの橋渡しのような役割も?」
「そうですね」
エレノアは少し笑う。
「エキドナの皆さんは、それぞれ自分のやりたいことがありますから。王家との連絡や、外との話をまとめる人がいた方が何かと都合がいいでしょう?」
「第一王女殿下ご自身が、その役割を?」
「ええ。ですが、それだけではありません」
エレノアは楽しそうに続けた。
「純粋に、この方たちと一緒にいるのが楽しいんです」
「楽しい?」
「ええ。毎日のように何か新しいことが起きますから」
記者も思わず笑う。
「それは……確かに、これまでのお話を聞いていると納得します」
エレノアも笑った。
「皆さん、思いついたらすぐに始めますからね」
「では、王家としてもエキドナを支援されているのでしょうか?」
「金銭的な支援などは、一切ありませんね」
「一切?」
「ええ。エキドナには、必要な資産を自分たちで生み出せる力がありますから」
エレノアは、いくつか例を挙げる。
「モンバト。グレタの武器や防具。ヒナタのポーションや薬剤。人工モンスターの貸し出しによる使用料。その他にも、魔道具など様々なものがあります」
「なるほど……」
記者の筆が進む。
「では、王家がエキドナを養っている、というような関係ではないのですね」
「まったく違います」
エレノアは笑った。
「必要な時に相談することはありますが、基本的には自分たちで活動しています」
「むしろ、王家が助けてもらうこともある?」
「ええ。そういうこともあります」
エレノアは楽しそうに答えた。
「皆さん、本当に色々なことをできますから」
「では、スロリアゴールについても伺いたいのですが」
「どうぞ」
「エレノア殿下も開拓に参加されたのですよね?」
「はい。きっかけは、もともと王都にエキドナの拠点があったことですね」
「王都に拠点を?」
「ニコラの屋敷を使っていたのですが、人数が増えて、だんだん手狭になってしまって」
エレノアは苦笑した。
「それで、引っ越そうという話になったのです」
「その時に土地を探された?」
「そうです。ダンジョン攻略で陛下とも顔を合わせていましたから、その時に相談したんですよ」
「そこで、マドカさんが何と?」
「『どこか広くて安い土地はない? そこ全部買うので売ってください』と」
「……全部?」
「ええ」
エレノアは笑った。
「本人は大真面目でした」
「それで、スロリアゴールに?」
「そういうことです」
「かなり広い土地だったのでは?」
「広いですよ」
エレノアは少しだけ考えてから言う。
「皆さんが想像されるような、町の一角を買ったという話ではありません」
「といいますと?」
「スロリアゴール全域です」
記者の手が止まった。
「……全域?」
「はい。現在の町だけではなく、周囲の広大な未開拓地も含めて、スロリアゴールという土地そのものを一括で買い取ったのです」
「そんな規模を……」
「もともと、何度か開拓が試みられたものの、うまくいかずに諦められていた土地でしたから」
「そこをエキドナが買った」
「ええ」
「王家が貸している土地、ではないのですね?」
「違います」
エレノアははっきりと答えた。
「スロリアゴール全域は、エキドナが王国から買い取った土地です。王家が貸している土地ではありません」
「なるほど……」
記者は何度も頷いた。
「では、町自体もエキドナが一から?」
「いいえ」
エレノアは首を振る。
「元々そこで開拓をしていた私たちと、現地の民の皆さんが協力して、スロリアゴールを作り上げたんです」
「今の町からは想像できないですね」
「最初は本当に何もないに近い状態でしたよ」
エレノアは当時を思い出すように笑った。
「この町の元となる外壁や、住めるようにした住居、道の舗装などはリゼット様の魔法によるところが大きいですね」
「リゼット様の魔法で?」
「はい。もちろん、それだけで町ができるわけではありません。住民の皆さんにも協力していただいて、少しずつ村から町へ変わっていきました」
「その頃は、商業ギルドも冒険者ギルドも?」
「ありませんでした」
「……そこからですか」
「ええ。皆さんが得意な分野を教えたり、一緒に開拓したりしながら進めていました」
「生活はどうされていたのでしょう?」
「自給自足です」
「それは大変そうですね」
「大変でしたよ」
エレノアは苦笑した。
「どうしても必要なものは、王都まで往復して買い揃えたりもしていました」
「今のスロリアゴールからは、なかなか想像できません」
「そうですね。でも、面白い経験でした」
「現在はエキドナが町を運営しているのでしょうか?」
「いいえ。今は町長を含めた住民の皆さんに、町の管理を任せています」
「エキドナは?」
「必要な時に手を出す、という形ですね」
「なるほど」
記者は少し考える。
「そう聞くと、ある意味では自治国のようにも感じますね」
「そう見えるかもしれませんね」
エレノアは微笑む。
「もちろん、王国の領土ですし、独立するつもりなどありませんよ」
「そこは安心しました」
二人で笑った。
「では、次はブリジットさんにも少しお聞きしていいでしょうか?」
「はい」
ブリジットがエレノアの隣へ座る。
「エレノア殿下を支えてこられたのが、護衛騎士のブリジットさんなのですね」
「私はエレノア様の護衛ですから」
「エキドナに参加されてからは、どのような活動を?」
「様々な経験ができますし、力試しもできますからね」
ブリジットは少し嬉しそうに答えた。
「私は戦闘関係が好きですから」
「戦うことがお好きなんですね?」
「ええ」
即答だった。
「エキドナの皆さんと行動していると、普段では経験できない相手とも戦えます。自分の実力を試すには、とても良い環境ですよ」
「普段はやはり、エレノア殿下の護衛が中心でしょうか?」
「はい。それと、秘書のような仕事もしていますね」
「秘書……?」
近くで聞いていたマドカが、ぷっと吹き出した。
「秘書って……」
「マドカ、笑っちゃ駄目よ」
リゼットも笑いながら注意する。
「だって同じ部屋で……」
「だから笑っちゃ駄目だって」
エレノアまで笑っていた。
ブリジットは少し困ったような顔をする。
「実際、エレノア様の予定の管理や書類の整理、連絡などもしていますから」
「なるほど。護衛だけではないのですね」
「はい」
「本当に助けてもらっています」
エレノアが微笑む。
「ただ……」
「?」
「体を動かしている時の方が、明らかに楽しそうなんですよ」
「……」
ブリジットが少しだけ視線を逸らした。
「……否定はしません」
記者は笑いながら頷いた。
「では、ヒナタさんにも」
「はい」
ヒナタが席につく。
「ヒナタさんは、エキドナの天才薬師として活躍されている一方、農業関係でもご活躍されているそうですね」
「そうですね」
「そういう知識は、もともとお持ちだったのでしょうか?」
「そうですね……」
ヒナタは少し考えた。
「私はグレタさんと同じで、過去から未来へ来た、という経歴があるんです」
「過去から未来へ……」
「はい。ただ、あまり詳しいことは覚えていません」
ヒナタは困ったように笑う。
「自分が何をしていたのかとか、どんな生活をしていたのかとか……そういうことは、かなり曖昧なんです」
「でも、薬の知識は残っている?」
「はい。そこが不思議なんですよね」
ヒナタは首を傾げた。
「薬のことは、教えてもらった記憶がなくても、なんとなく分かるんです」
「なんとなく?」
「これはこうした方がいいとか、この薬草ならこう使った方がいいとか」
少し笑う。
「野菜や果物の育て方もそうですね。理由を説明するのは難しいんですけど、見ていると『こっちの方がいい』って分かるんです」
「なるほど……」
記者は興味深そうに書き留める。
「その知識を、今の生活で使われているのですね」
「はい」
「それで、エキドナの皆さんとも?」
「そうですね。皆さんに拾っていただいて、そのまま一緒に暮らすようになりました」
「では、農業についても?」
「まずは実験からです」
ヒナタは楽しそうに話す。
「実験用の農地を作って、同じ種でも育て方を変えてみたり、土の配合を変えてみたり。植物モンスターが育つ土を参考にしたこともあります」
「植物モンスターの土まで……」
「はい。問題がなければ実際に種を植えて、また育てて……を繰り返して、今の味を頑張って作りました!」
「薬の方も、かなり工夫されているそうですね」
「薬は、まずリゼットさんに鑑定してもらいます。出来上がったものが安全なら、それから味を整えるんです」
「味まで?」
「苦いのが嫌な人って多いですから」
ヒナタは笑った。
「ハチミツを入れたり、果物の果汁を入れたり、飲みやすくなるように色々工夫しています」
「それは嬉しいですね」
「喜んでもらえたら、うれしいです!」
「回復魔法もお得意だとか?」
「はい」
ヒナタは頷く。
「マドカちゃんたちとも、よくダンジョンに行っていますよ」
「では、戦闘にも?」
「そうですね。私はヒーラー役なのかな」
「回復魔法を?」
「それと結界です。そういう魔法に適性があったみたいで」
「モンスターとの戦闘もされる?」
「もちろんです」
ヒナタはにこっと笑った。
「ここら辺のモンスター程度なら、薬草採取のついでに倒してますね!」
「……ついでに?」
「えへへ」
記者は少しだけ遠い目になった。
「それでは、アリシアさんにもお願いできますか?」
「はい」
アリシアが席につく。
「アリシアさんは、スロリアゴールでも若手で有名な冒険者として活動されていますよね」
「はい」
「エキドナでは、どんなことを?」
「初めは、マドカさんとリゼットさんにパーティーへ誘ってもらったのがきっかけです」
「最初からお二人と一緒に?」
「はい。同期のような関係でした」
アリシアは少し笑った。
「ただ、実力には大きな差がありましたね」
「それでも?」
「最初は何をやっても失敗ばかりでした」
少し照れくさそうに笑う。
「そこで冒険者としての基礎から、色々と教えてもらったんです」
「今では一緒にダンジョンへ?」
「はい。頑張って、今では一緒に挑めるようになりました」
「それはすごい成長ですね」
「ありがとうございます」
アリシアは嬉しそうに頷いた。
「普段のエキドナでは、他にも何か仕事を?」
「一緒に暮らしている子供たちのお世話もしています」
「子供たち?」
「冒険者見習いのような子たちですね。色々教えたり、一緒に修行したりしています」
「エキドナには、そういう役割もあるのですね」
「はい」
「それ以外にも?」
「皆さんの連絡役もしていますね」
アリシアは少し考えてから続けた。
「町の方との交渉や、面談を希望される方とのスケジュール調整。それから、エキドナの皆さんへの連絡なども」
「なるほど。冒険者として戦うだけではなく、皆さんを支える仕事もされているんですね」
「皆さん、それぞれ好きなことをしていますから」
アリシアは苦笑した。
「予定を合わせたり、話をまとめたりする人も必要なんです」
「それをアリシアさんが?」
「そうですね」
「大変ではありませんか?」
「まあ、それなりに」
アリシアは笑った。
「でも、皆さんが安心して好きなことをできるなら、それでいいと思っています」
「では、最後にティニアさん!」
「このティニア様に任せなさい!」
ティニアが胸を張った。
「ティニアさんは、あまり見かけない妖精種ですよね。エキドナに入られたきっかけは?」
「そうね!」
ティニアは目を輝かせる。
「あれは語るも涙の物語ね!」
記者が身を乗り出した。
「あの日、私は植物モンスターと果敢に戦っていたの!」
「ほう……」
「恐れることなく立ち向かっていたわ!」
「はい」
「そして、いよいよトドメを刺そうとした、その時――」
ティニアが劇的に間を取る。
「そこへ颯爽と歩いてきたのが、マドカよ!」
「ウソいわない」
マドカが即座に突っ込んだ。
「ティニア、モンスターにつかまってたよ」
「ち、違うわよ!」
「つかまってた」
「ちょっと拘束されていただけ!」
「それをつかまってたって言うんだよ」
記者が吹き出した。
「では、マドカさんに助けてもらったのですか?」
「そう!」
ティニアが答える。
「そこから私たちの素晴らしい友情が――」
「もう」
マドカが笑う。
「正直に言えば?」
「もう! 正直に言えばいいんでしょ!」
ティニアが頬を膨らませた。
「モンバトよ!」
「モンバト?」
「そう! モンバト!」
ティニアは胸を張る。
「私をレアモンスターと認識しちゃったのね!」
「……」
記者が目を瞬かせる。
「ほら! 私ってかわいいでしょ!?」
「ええ、まあ……」
「そこでマドカが私を見て、『私と契約して魔法少女になってよ!』って言ったわけ!」
「契約?」
「そうよ! 契約よ! 契約!」
ティニアは満足そうに笑った。
「それが私とマドカの出会いなの!」
「大体合ってるよ」
マドカが頷く。
「ほら!」
「でも最初につかまってた」
「そこはいいの!」
記者は笑いながらメモを取る。
「ティニアさんは、町の子供たちにも人気だそうですね?」
「ふふ、そうでしょう!?」
ティニアが得意げに胸を張る。
「私は誰にでも優しいからね! みんな私のことが大好きなのよ!」
「好かれちゃうんだわー」
両手を広げる。
「困っちゃうわー」
「……調子に乗らないの」
リゼットが笑う。
「でも本当に人気なんですよね?」
「そうなのよ!」
ティニアはすぐに胸を張り直した。
「それだけじゃないわ!」
「ほかにも?」
「私のグッズ!」
「グッズまであるんですか?」
「もちろん!」
ティニアが身を乗り出す。
「私のかわいい姿が描かれた商品が、町で売られてるの!」
「どのくらい売れているのでしょう?」
「先月だけで、ぬいぐるみが三百個以上!」
「三百……」
「それから絵が描かれた缶みたいなのが二百個くらい!」
「缶……」
「あと、私の絵が入ったお菓子も五百個くらい!」
「かなり売れていますね……」
「でしょう!?」
ティニアは満面の笑みを浮かべる。
「私の人気ってすごいのよ!」
「ちなみに、その売上はティニアさんにも?」
「もちろんよ!」
ティニアが胸を張る。
「売上の一割は私の取り分なんだから!」
「一割!?」
「そう!」
「その収入は、何に使っているんですか?」
「モンバト!」
即答だった。
「……」
記者が一瞬黙る。
「モンバトのカードを買うのよ!」
「なるほど……」
リゼットがくすくす笑う。
「ティニアらしいでしょう?」
「もちろん!」
ティニアは満足そうに頷いた。
こうして、長い取材がようやく終わった。
「本日は本当にありがとうございました!」
記者が立ち上がる。
「こちらこそ」
エレノアが見送る。
「とても楽しいお話をたくさん聞かせていただきました!」
「そう?」
マドカが首を傾げる。
「ええ!」
記者は大量のメモを抱え、目を輝かせていた。
「モンバトチャンピオン、大賢者、モンバト開発者、古代から現代へやってきたドワーフ、第一王女、護衛騎士、若手の美人冒険者、天才薬師、人気の妖精……」
「まだいるよ?」
マドカが言う。
「……」
記者は一瞬遠い目をした。
「まだいらっしゃるんですね……」
「うん」
「これは……」
記者は嬉しそうに笑った。
「絶対に売れます!」
そう言って、取材資料を抱えたまま帰っていった。
扉が閉まる。
「……ふぅ」
リゼットが息を吐く。
「疲れたわね」
「結構長かったですね」
エレノアも苦笑した。
そして、ふとヒナタを見る。
「……ヒナタのことは、正直には話せなかったわね」
「ええ」
リゼットが頷いた。
「王家の過ちですから」
「なんだか、だましてしまうみたいですけどね」
ヒナタが困ったように笑う。
「仕方ありませんよ」
エレノアが静かに言った。
「すべてを世間に公表する必要はありません」
「そうね」
リゼットも微笑む。
「ヒナタが今こうして元気に暮らしている。それで十分よ」
「ありがとうございます」
ヒナタも小さく笑った。
一方、その頃。
王都へ向かう馬車の中。
そして、ふと記者の手が止まった。
「……待って」
これまで聞いた話を、一つずつ思い返す。
モンバト。
武器や防具。
ポーションや薬剤。
人工モンスター。
魔道具。
そして、先日のドラゴン討伐。
「まさか……」
記者は、もう一度メモを読み返した。
「この方たち……」
エキドナは、ただ強いだけではない。
モンスターを自分たちで狩る。
素材も自分たちで集める。
モンバトのデータも、自らダンジョンへ行って手に入れる。
武器や防具はグレタが作る。
薬やポーションはヒナタが作る。
魔道具はニコラが作る。
つまり――。
「……ほとんど、全部自分たちで用意してる?」
記者の顔が引きつった。
普通なら、強くなるためには金がかかる。
武器を買う。
防具を買う。
薬を買う。
モンスターの情報を買う。
素材を買う。
それを、エキドナは必要としない。
自分たちで狩り、自分たちで集め、自分たちで作る。
しかも、その狩場が――。
「……最難関ダンジョンで遊んでるのよね?」
記者は遠い目をした。
「強いだけじゃない……」
そして、最後の一文を書き加える。
――エキドナが恐ろしいのは、その武力だけではない。
彼らは、自らの力を高めるために必要なもののほとんどすべてを、自分たち自身で生み出すことができる。
「……これ、相当ヤバい集団じゃない」
記者は、改めて原稿を見つめた。
「絶対に売れるわ」




