インタビューその1
「新聞の記事の取材が来てますね」
アリシアが、一枚の書類を手にしていた。
「ふーん」
マドカは興味なさそうに覗き込む。
「取材?」
「ええ。先日のドラゴン討伐、それからエキドナの活動について詳しく聞きたいそうです」
「いい機会じゃない」
リゼットが笑った。
「最近、エキドナに無茶な依頼をする変な方も増えているでしょう?」
「……そうですね」
エレノアが苦笑する。
「私たちの立場を、きちんと知ってもらうには良い機会かもしれません」
「そうそう」
リゼットが頷いた。
「私たちが何をしていて、何をしていないのか。町の方にも、外から来る方にも、少しは分かってもらった方がいいわね」
「では、取材はお受けする方向で?」
「ええ。構わないわ」
そんな話をしている一方で――。
王都からやってきた新聞記者の女性は、エキドナ本部の前で静かに深呼吸していた。
「……絶対に凄い記事にする」
今回の取材相手は、最近になって急速に名前が知られるようになった謎の組織、エキドナ。
先日のドラゴン討伐。
五百年前から王国の相談役を務めた大賢者。
今や誰もが知るモンバトの開発者。
この国では珍しいドワーフ。
第一王女との関係。
調べれば調べるほど、気になることばかりだった。
「これは……とんでもない記事になりそうだわ!」
記者は目を輝かせた。
こうして――。
エキドナへの取材が始まった。
「本日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ」
リゼットが穏やかに微笑む。
「何でも聞いてちょうだい」
記者はさっそく筆を走らせた。
「まずはマドカさんからお願いします」
「うん」
「マドカさんは、モンバトのチャンピオンとして非常に有名ですが、最近、注目している選手はいらっしゃいますか?」
「うーん……ガブちゃんかなぁ?」
「ガブちゃん、というのは?」
「第二だね」
「……第二?」
記者が首を傾げる。
「第二王女のガブリエル殿下、ということでしょうか?」
「そうそう」
マドカはあっさり頷いた。
「最近かなり上手くなってきたし、あの子は強くなるね」
「まあ……第二王女殿下を、そのように評価されるのですね」
「うん。まだ私には勝てないけどね」
「……」
記者の筆が一瞬止まる。
第二王女を相手に、まるで将来有望な後輩でも評価するような口調だった。
「ちなみに、ガブリエル殿下とは普段から対戦を?」
「よくやるよ」
「勝率は?」
「私の方が多いかな」
マドカは悪びれもせず答えた。
「でも、最近は結構いい勝負になるよ」
記者は苦笑しながらも、しっかりと書き留める。
「では、今後のライバル候補として?」
「ライバル?」
マドカは少し考えた。
「うーん。今はまだ違うかな」
そして、にこっと笑う。
「でも、そのうちライバルになるかもね」
記者は心の中で思った。
――この少女、本当に第二王女殿下を相手に何様なのだろう。
「では、少し違う質問を」
記者がページをめくる。
「料理のアイディアも出しているとうかがいましたが?」
「ああ、それね」
マドカは頷いた。
「ヒナタとよく台所で試作してるんだ」
「ヒナタさんと?」
「うん。ヒナタは野菜とか果物に詳しいし、どんなものが使えるか色々教えてくれるんだよ」
「なるほど」
「だからレシピなんかも作りやすいんだよね」
「マドカさんだけでなく、ヒナタさんの知識も大きいのですね」
「うん。私だけじゃ分からないことも多いからね」
マドカは笑った。
「一緒に作って、美味しかったら採用って感じ」
記者はさらに質問を続ける。
「では、リゼット様とは普段どのような生活を?」
「んー……」
マドカは少し考えた。
「別に隠してるわけじゃないんだけど、お姉ちゃんに私が餓死しそうになった時に助けてもらったの」
記者の手が止まる。
「私、孤児だからさ」
「……」
「あ。でも、同情とかはいらないよ」
「はい……」
「すっごいきつい修行させられたし」
マドカは少し笑う。
「でも、いつも大事にしてくれたんだ」
少し考えてから、マドカは言った。
「お母さん……?」
首を傾げる。
「みたいなお姉ちゃんかな」
記者は、その言葉を静かに書き留めた。
「なるほど……」
「でも、リゼットは怖いよ」
「怖い?」
「修行の時はすっごい厳しいから」
「……なるほど」
記者は、少しだけ笑った。
「では、次はリゼット様にお願いします」
「ええ」
リゼットが席を変わる。
「リゼット様は、長い間消息が分からなかったと聞いております。どうして今になって、再び表舞台に出てこられたのでしょう?」
「んー……」
リゼットは少し考える。
「マドカが冒険者に憧れていただけよ」
「……それが理由ですか?」
「ええ」
あまりにもあっさりした答えに、記者が目を瞬かせた。
「それで私も一緒に外へ出てきた、というだけね」
「では、マドカさんのために?」
「そういうことになるわね」
リゼットは楽しそうに笑う。
「もっとも、もう飽きたみたいだけど」
「……飽きた?」
「冒険者そのものにね」
くすくすと笑う。
「本当に困った子なのよ」
「ですが、今もエキドナで活動されていますよね」
「ええ。冒険者を辞めたわけではないもの」
リゼットは少しだけ嬉しそうに目を細めた。
「結局、あの子が面白そうだと思ったところへ、私も付き合っているだけなのよ」
「リゼット様が表舞台へ復帰されてから、最初の大きな功績についてもお聞きしたいのですが」
「ああ、あれね」
リゼットは少しだけ思い出すように目を細める。
「いきなり出てきた、かなり難しいダンジョンの攻略かしら」
「いきなり出てきた、というのは?」
「ええ。かなり異常なダンジョンだったわ」
「どのようなダンジョンだったのでしょう?」
「今のエキドナのメンバー、それに銀翼のパーティーと一緒に攻略したの」
「銀翼まで……」
「ええ」
リゼットは頷く。
「あそこはね。過去、何千年単位で封印されていたんじゃないか、と私たちは推測しているわ」
「何千年……」
「長い間、外界から切り離されていたせいでしょうね」
リゼットは静かに続ける。
「内部のモンスターが、ダンジョンに長い年月をかけて溜め込まれた魔力を吸い込んでいたのよ」
「魔力を……?」
「ええ。普通ではありえないほどね」
「つまり、外にいるモンスターとは強さが違う?」
「数倍は違ったと思っていいわ」
記者が目を見開く。
「では、同じ種類のモンスターであっても、外のものとは別物だと?」
「そうね」
「新人冒険者には危険な……」
「立ち入り禁止にするくらいでちょうどいい場所だったわ」
さらりと言う。
「……それほどの場所を攻略されたのですか?」
「ええ」
リゼットは微笑んだ。
「マドカやエキドナのみんなと、銀翼のみんなでね」
「復帰後最初の功績としては、あまりにも大きいですね」
「そう?」
リゼットは首を傾げた。
「マドカが行きたがったから、行っただけなのだけれど」
記者は一度筆を止める。
「では、マドカさんとの出会いについても少しお聞きしてよろしいでしょうか?」
「ええ」
リゼットは頷いた。
「ただ、その話は本人の方からも聞いているでしょう?」
「はい。餓死しそうになったところを助けていただいた、と」
「ええ。大体その通りね」
リゼットは穏やかに笑う。
「でも、あの子を拾ったからといって、特別扱いしたわけではないわ」
「修行が厳しかったそうですね」
「当然でしょう?」
リゼットは何でもないことのように言った。
「生きていく力が必要なんだもの。甘やかして、何もできない子にするつもりはなかったわ」
「……」
「まあ、結果として今のあの子になったわけだけれど」
少しだけ遠くを見る。
「大切よ」
リゼットが静かに言った。
「私にとっては、あの子が何者なのかなんて関係ないの」
「……」
「大賢者でも、冒険者でも、モンバトのチャンピオンでもね」
穏やかな笑みを浮かべる。
「私が大事にしているのは、あの子がマドカだから。それだけよ」
記者の手が止まった。
しばらくして、静かに一文字ずつ書き込む。
「……では、これからのエキドナは、どのような活動をされていくのでしょう?」
「そうね……」
リゼットは少し考える。
「一応、私がエキドナの代表という形を取らせてもらっているのだけれど、実際にはみんなで相談して、やりたいことを決めているのよ」
「皆さん、それぞれ目的が違うのですか?」
「ええ。例えばマドカなら、ゲームや文化をもっと広めたいでしょうし」
「グレタさんはいかがでしょう?」
「グレタなら、鍛冶を極めて、もっと高いところを目指したいでしょうね」
「ニコラさんは?」
「ニコラは……」
少し考える。
「面白い物が作れれば、なんでもいいんじゃないかしら」
記者が思わず笑う。
「他のメンバーにも、それぞれ得意な分野があるわ。だから私は、それのお手伝いをしたり、必要な時に手を貸したりしながら……まあ、あとはみんなで好きなことをしているだけね」
「それでエキドナという組織が成り立っているのですか?」
「ええ」
リゼットは頷く。
「そのあたりを、うまいことまとめてくれているのがエレノアよ」
「第一王女殿下ですね」
「そう。王家との連絡もお願いしているし、外との話をまとめるのも上手だから」
「では、エキドナとして、何か明確な目的があるわけでは?」
リゼットは少し考えてから答えた。
「みんながやりたいことを、みんなで支えることよ」
「……」
「そして、そこで生まれたものを、この世界へ広めていく」
そう言って、リゼットは笑った。
「まあ、私たち自身が楽しめることが一番だけれどね」
「では、今後も様々な分野で活動を?」
「そうね」
リゼットは穏やかに答えた。
「これからも色々するわ」
次に呼ばれたのは、ニコラだった。
「ニコラさんは、モンバトの開発者として、とても有名ですね」
「そうなの~?」
「ええ。今ではモンバトを知らない人の方が少ないと思います。何か開発のきっかけがあったのでしょうか?」
「そうだね~」
ニコラは少し考えるように首を傾げた。
「まあ、私はこう……適当でしょ~?」
「適当……ですか?」
「作るのは好きなんだけど、作ったものを広めるってのは、あんまりしなかったんだよね~」
「では、モンバトも?」
「うん。最初は自分が遊ぶものくらいにしか考えてなかったかな~」
そこで、ニコラは少し笑う。
「そこでマドカがね~」
「マドカさんが?」
「『これを広めないともったいないよ』って、仲間に入れてくれて~」
「なるほど……」
「それから、色んなアイディアをもらったなぁ~」
ニコラは懐かしそうに言った。
「私は、それを形にしただけ~」
「モンバト自体も、ニコラさんが?」
「魔道具として仕上げたのは私だね~」
「では、マドカさんが色々と注文を?」
「そうそう~」
ニコラは苦笑する。
「マドカの注文がうるさくて~」
「どのような?」
「カードを置いたら、すぐモンスターが出てきてほしい~とか」
「なるほど」
「自分で細かく動かすんじゃなくて、モンスターに指示を出したら、あとは勝手に戦ってほしい~とか」
「それが今のモンバトに?」
「うん~」
「他にも?」
「カードを見たら、どこに住んでるモンスターなのか、生息地くらいは分かった方がいいとか~。レアなのかどうかも分かるようにしてって~」
「かなり分かりやすさを重視されたんですね」
「うん~。文字をいっぱい書いても、読めない人もいるからね~」
ニコラは指を折る。
「だから生息地、そのモンスターのレア度と強さくらいで分かりやすく楽しめるように気を付けたかな~~」
「では、スキルや魔法は?」
「それは書いてあるよ~」
「なぜでしょう?」
「分からないデータを買ったら困るでしょ~?」
「……確かに」
「同じモンスターでも、カードは一枚一枚違うからね~」
ニコラは説明を続ける。
「同じ種類のモンスターでも、持ってるスキルや魔法は違うんだよ~」
「同じモンスターでも、個体によって違う?」
「そうそう~」
「では、同じドラゴンから複数枚のカードを作った場合も?」
「別々になるよ~」
「スキルや魔法も?」
「うん~。基本になるそのモンスター固有のものはあるけど、そこに別のスキルや魔法が付くこともあるから~」
「つまり、強いモンスターに珍しいスキルや魔法が付いているカードは……」
「人気になるね~」
ニコラはあっさり言う。
「だから、強いモンスターだから絶対に当たりってわけじゃないんだよ~」
「厳選、ということでしょうか」
「そうそう~」
「かなり奥が深いのですね」
「うん~。そこまで考えて遊んでくれる人がいるなら、作った甲斐があるかな~」
「では、これから先のモンバトは、どのような展開を考えていらっしゃるのでしょう?」
「んー……」
ニコラは少し考える。
「まだ構想中なんだけどね~」
「何か新しい機能なども?」
「うん~。新しい機能を追加したい時は、モンバトの本体に追加で機能データを加える感じかな~」
「追加の機能データを?」
「そうそう~。まあ、アップデートだね~」
「本体を買い直す必要はないのですか?」
「ないよ~」
「それは画期的ですね」
「そうかな~?」
ニコラは首を傾げる。
「ただ、どうしても物理的な物だからね~」
「と、いいますと?」
「まずはスロリアゴールから発売されるはず~」
「スロリアゴールから?」
「うん~。新しい機能を入れたものを作って、それが他の地域へ運ばれていく感じ~」
「なるほど。地域によって実装される時期に差が出るわけですね」
「そうなるね~」
「それでも、モンバトは進化していく、と」
「まあ、そういうことかな~」
ニコラは笑った。
「あと、同じモンスターのカードを重ねて、進化させるのも面白いかな~とは思ってるよ」
「カードを重ねて?」
「うん~。あんまり強くないカードでも、進化に使えるなら無駄にならないでしょ~?」
「それは楽しそうですね」
「マドカもたぶん喜ぶと思う~」
記者は笑いながら頷いた。
「では、これからの発明で、ある程度目途が立っているものはありますか?」
「そうだね~」
ニコラは少し考える。
「これも人工モンスターの応用なんだけど~」
「人工モンスターの?」
「うん。小さい小鳥や、ヒヨコみたいな子に連絡する機能をつけるとかかなぁ~」
「連絡……ですか?」
「親が子供に持たせると、そのヒヨコから様子が見えたり、簡単な言葉を伝えられたりするの」
記者の表情が変わる。
「それは、遠く離れた場所とも連絡が取れるということですか?」
「うん~」
「では、別の町から別の町へ手紙を送る、といった手段が不要になる発明なのでは?」
「まあ~」
ニコラは首を傾げる。
「そこまで便利なものでもないよ~」
「と、いいますと?」
「明日には荷物つきます~」
ニコラが声を真似る。
「りょうかーい」
「……」
記者が固まる。
「それだけですか?」
「うん~。今のところは、その程度の短い言葉を送れるくらい~」
「いや……」
記者は思わず苦笑した。
「十分すごいのでは……?」
「そうかなぁ~?」
ニコラは不思議そうに首を傾げた。
記者は、その反応を見て思った。
――どうやらこの組織では、世界を変える発明を「ちょっと便利なもの」程度に考える人間が普通らしい。
そして最後に。
「人工モンスターについても、お聞きしていいでしょうか?」
「うん~?」
「人工モンスターには、危険性はないのでしょうか?」
「んー……」
ニコラは少し考える。
「所持者次第じゃないかなぁ~」
「所持者、ですか?」
「うん~。今現在、貸し出しをしてるのは王家くらいなんだよね~」
「では、誰でも扱えるものではない?」
「まだそういう段階じゃないかな~」
ニコラはあっさり答える。
「王家でチェックして、許可が出たら貸し出すくらいでいいんじゃない?」
「なるほど」
「だって、今のところ設定してるのって、そんなに難しいことじゃないし~」
「といいますと?」
「『マスターの指示通りに動いてね~』ってくらい」
ニコラは笑った。
「だから、危険かどうかは使う人次第だと思うよ~」
記者はしばらく黙っていた。
強力な人工モンスターについて聞いたはずなのに、話している本人はどうにも深刻そうではない。
「……それでは、次はグレタさんにお願いします」
「おう」
グレタが椅子へ座る。
「グレタさんはドワーフでいらっしゃいますよね?」
「ああ」
「これまで一体どこにいらっしゃったのでしょう?」
「ん?」
グレタは少し考える。
「お前らが最難関ダンジョンって言ってるところだな」
「……最難関ダンジョンに?」
「ああ」
グレタは何でもないことのように頷く。
「俺は昔、自分を封印して未来へ飛んだんだ」
「未来へ……飛んだ?」
「正確には、時間を越えたって方が近いか」
グレタは少し考えてから続ける。
「古代にはな、身体の時間を止めたまま眠らせるための装置があったんだ」
「身体の時間を……?」
「そうだ。眠っている間は歳を取らない。だから長い時間が過ぎても、そのまま目を覚ませる」
「それは……実質的に未来へ移動したのと同じですね」
「ああ。だから俺は、それを使った」
「どうしてそんなことを?」
「未来を見たかったからな」
あまりにも簡単な答えだった。
「そして、その装置の中で……?」
「ああ。ずっと寝てた」
「何千年も?」
「たぶんな」
記者は絶句する。
「それほどの長期間を……」
「まあ、寝てたからな」
「……」
記者は気を取り直す。
「その最難関ダンジョンには、グレタさんがいた時代のものが残っていたのでしょうか?」
「ああ」
「何があったのですか?」
「昔は、色んな種族が暮らしてた町もあったぞ」
「町……?」
「ああ。人間だけじゃねぇ」
グレタは少しだけ考える。
「ドワーフもいたし、エルフもいた。獣人もいたな。他にも色々だ」
「では、あの場所は昔からダンジョンだったわけでは?」
「俺が知ってる時代にも、普通の町だった場所があった」
「……」
「まあ、今となっちゃ廃墟だがな」
記者は急いで書き留めた。
最難関ダンジョンの奥には、かつて多種族が暮らしていた町があった。
それだけでも、歴史を揺るがしかねない話だった。
「では、グレタさんは、そこでエキドナの皆さんに起こされたのですね?」
「ああ」
「目覚めてからは?」
「鍛冶だな」
「それだけですか?」
「それで十分だろ」
グレタは腕を組む。
「今は好きに鍛冶ができる。悪くない」
「では、これからの武器や防具についてですが、今後さらに大幅な強化ができると考えてよろしいのでしょうか?」
「まあな」
グレタは即答した。
「今出回ってる装備は、まだ弱い」
「まだ弱い……?」
「俺からすりゃな」
あっさりと言う。
「これからもっといいものを作るつもりだ」
「では、町の武器店などにも新しい装備を?」
「……そこは弟子のところへ行け」
「え?」
「ある程度は仕込んだ」
グレタは面倒そうに続ける。
「今の仕事をするだけなら、弟子たちで十分だ。町で使う武器や防具なら、あいつらに頼め」
「では、グレタさんご自身は?」
「俺は新しいものを考えて作るだけだ」
「新しいもの……」
「ああ」
グレタは腕を組む。
「今までにないものを作る。それが俺の仕事だ」
「では、注文を受けて個別に武器を作るようなことは?」
「面倒なのは持ってくんな」
「……」
記者の筆が止まる。
「ええと……」
グレタは真顔のままだった。
「弟子の店でできることまで、俺のところへ持ってこられても困る」
「なるほど……」
「俺には俺のやることがある」
どうやら、本気で怒っているらしい。
記者は慌てて頷いた。
「……皆さん、グレタさんのお弟子さんのところへ行ってくださいね!」
「そうしろ」
グレタは満足そうに頷いた。
「その方が俺も助かる」
記者は記事の最後に、小さく書き添えた。
――グレタ氏への直接依頼は、ほどほどにした方がよさそうだ。
こうして、この日の取材は一度終わった。
記者は大量のメモを前に、深々と息を吐く。
「……一つの組織を取材しただけなのに、どうしてこんなに情報量が多いのよ……」
そして、机の上に並ぶ名前を見つめる。
マドカ。
リゼット。
ニコラ。
グレタ。
まだ取材していない人物もいる。
「……これ、二回で終わる?」
そう呟いた記者は、少し嬉しそうに笑った。
「いや……終わらせるものですか」
新聞社へ戻った彼女は、すぐに原稿を書き始めた。




