↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺獄の王  作者: 笑う閑古鳥
序章
PR
9/12

8 払拭

 炎が、氷が、雷が、水が暴れ回り、周囲を巻き込んで土煙を作り出した。



  チッ。痛いな。ちゃんと痛いじゃねぇか…!



 彼の体は無傷に見えた。

 しかし魔法を浴びたせいか、全身から痛みの信号が発せられている。それもすぐに収まったが、代わりに違和感を感じた。



  これは……魔力か?俺の魔力が減ったぞ。



 傷付けば血液が流れるように、彼の身体は僅かだが魔力を失っているようだった。

 しかし痛みに苛立ちを覚えた彼には、今、原理の追求をする暇はなかった。


 大袈裟に振るった腕で土煙を払う。

 再び目の前に廃砦を捉えた。


「勉強になったから、一撃だけで済ませてやる」


 右腕を腰だめに構え、腰を落として踏み込んだ彼は、一気に少女まで詰め寄った。そしてその腕を振り上げるようにして少女へ放つ。


 驚愕と恐怖に目を見開いた彼女が庇うように突き出した左手を、彼の爪は容易く引き裂いた。そのまま頭まで引き裂くかと思った爪は、彼女の首輪に阻まれ、それを壊して頬を掠めるに留まった。


「────!!!!あ、ゔあ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!!!?」


 吹き飛んだ少女が、血溜まりを作り絶叫する。



  あーあ。一撃で楽にしてやるつもりだったんだが…



 そうするつもりは無かったが、苦しめる結果になってしまった。どちらにせよ、致命傷といっていい。

 一撃のみと言った手前とどめを刺すのも面倒になり、彼は少女を放置して、次の標的にすべく門を見定めた。


 門の上では男が一人、変わらず叫んでいる。

 あの魔法使いの少女を頼りとしているのか、必死だった。


 彼は跳び上がり、門の上へ着地した。


「ひっ…!?」


 男が怯える。こんなに簡単に上がってこられれば、無理もない。


「先に攻撃してきたのはお前らだ。落とし前をつけてくれるか?」

「*********!!」


 男から感じられる魔力は、驚くほど小さい。

 先程の少女と比べると、雲泥の差だった。

 上から眺めると、門の内側には広場があった。

 彼は男を掴みあげると、広場へ投げ捨てる。


「*******!!」


 男は苦痛の悲鳴をあげ、既に集まっていた仲間たちに取り囲まれた。感じる気配全てでは無いが、この砦にいる人間のほとんどがこの広場に集まっている。


「試し打ちだ。”燃えろ”」


 彼は先程少女が放った魔法のうち、炎の矢のような魔法だけは、僅かだが設計図を見ていた。

 彼はなるべく再現したつもりだったが、出てきたのは矢ではなく炎の塊である。

 それが幾つか飛んでいき、それぞれが眼下の男たちを燃やした。


「ぎゃああああ!?」

「*****!!!ぐあああ!!」


 助けてくれ、とでも言っているのだろうか。燃えた男たちは、苦痛の悲鳴か助けを呼ぶ悲鳴をあげながら暴れ回っている。


「矢でもなく、玉にすらならないか。もっとよく見ておけばよかった。まぁ、十分か」


 彼は自分の魔法が起こした惨劇を眺めながら、悠然と門から続く階段を降っていく。

 広場に降りると、炎を浴びなかった男たちが武器を持って彼を遠巻きに囲んだ。

 みな一様に足が竦んでいる。


「そうだな。まずは……」


 彼は槍を持った男に狙いを定めて駆け出した。


「お前からだ!!」


 男は槍を構えたまま、突き出すこともできず引き裂かれた。それを見た瞬間、他の男たちは恐慌状態に陥り、散り散りに逃げ出す。

 彼は笑い声を上げながら、それらを追い回した。


 砦に逃げ場はなかった。男たちは次々に引き裂かれて死んでいく。

 彼の目を盗んで門を開けていた男たちも居たが、開いた門から逃げ出す前に殺された。

 すっかり広場に命の気配が無くなったのが分かると、彼は砦の内部へと進んで行った。


 幸いなことにどこも大きく造られており、彼は窮屈な思いをせずにすんだ。

 途中で見つけた者たちも、次々に手にかけていく。

 そして、残った1人が潜んでいる部屋までやってきた。


 やたらと装飾の多い扉を開けると、そこは砦に不釣り合いな豪奢な部屋だった。

 他の男たちより身なりの良い、いかにもまとめ役といった男が1人、狼狽えている。


「*****!!******!?」


 何か叫んでいるが、彼には伝わらない。

 しかしその悪人面は、彼に以前の世界での記憶を思い起こさせた。



  俺を騙したアイツも、お前みたいな顔をしてたな。



 彼の勘は、この男が悪党だと告げている。

 かつて彼を陥れたもの達と同類だと告げている。

 そして彼はこの不快感を払拭する方法を思いついた。


「くくく……俺から全てを奪ったクズ共から、逆に全てを奪ったら……どんなにいい気持ちだろうな?」


 この男は本人ではないが、どうせ元の世界で復讐することは今叶わない。ならばこの男でもいいだろう。

 そう思った彼は、男を捕まえると、部屋の隅に投げつけ、さらにその上に重い机を投げた。


「******!?」


 男は助けを呼んでいるようだが、残念ながら助けは来ない。机に潰され、身動きもとれないようだ。


「まずはこの椅子を貰うぞ。無駄にデカくて、俺には丁度よさそうだ」


 彼は椅子に腰掛ける。人間用のものであるから、どんなに大きくても腰掛ける位置は低かった。

 しかし、この世界に来てから初めて座った椅子は、彼に不思議な安らぎを与えた。



  ああ、思えば目が覚めてから今まで動きっぱなしだ。

  こんな姿になって、それでもいい気分だったが……俺は疲れてたのか……

 


 そうして彼は、微睡みの中に沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。