2 発見
木々の隙間から覗く太陽は、頂点に達しようとしていた。泉を荒らしたときは、朝ぐらいの時間だっただろう。
数時間ほど進んできた彼は、3つほどの命の塊が群れて動くのを見つけた。
群れで行動する動物か、あるいは人間か。
興味を持った彼は、そこへ一直線に向かった。
「なんだ?あれは」
いつの間にか流暢に言葉を話せるようになっていた彼は(当然、その声はおぞましい地獄の声であった)、目にしたものを見て疑問を口にした。
緑色の肌をした、子供ほどの背丈の人型の生き物が、ギャアギャアと喚きながら歩いていたのである。
みすぼらしい腰布と、多少太い枝を折りとっただけであろう、武器ともいえない棍棒もどきを身につけている。
まさか、ゴブリンだとでもいうのか?
いや、そうか。ここは地球じゃないんだな?
自分のような怪物がいる時点で、あるいは超常的な力が身についた時点で彼もうすうす察してはいたが、どうやらここは前世でもよく想像されたような、空想や神話を想起させる世界らしかった。
警戒すらもせず、けたたましく鳴き声をあげながら歩くゴブリンたち。
さほど脅威は感じられない。彼は目の前へ出て、ゴブリンたちへ接触してみることにした。
「止まれ。お前ら、ゴブリンとかいうやつか?」
見れば見るほど小さい。
というよりは、彼が大きすぎた。その巨体は優に3m近くあり、見下ろす形になるのは当たり前であった。
「ギャアギャア!!!!!」
「ギ!!ギィィ!!」
ゴブリンは多少怯えているのか、武器を構えて叫んでいる。これは鳴き声なのだろうか。とても言葉が通じるとは思えない。と考えながら、彼は顎を撫でた。
震える3匹のうち1匹が、勇敢にも前へ飛び出し、彼の膝へ棍棒もどきを打ち付けた。
無論、彼はびくともしない。いかほどの痛痒すら感じなかった。しかし不快感を露わにした彼は、鋭利な右手を振るって、そのゴブリンを一撫でした。
次の瞬間には、顔と胸と腹を大きく切り裂かれ、即死したゴブリンが転がった。
残りの2匹はますます怯えたのか、腰を抜かして後ろへ這いずっている。漏らしたのか、あるいは元からか、この小鬼たちは、酷く臭う。
食えるか。こんな汚い生き物。
全く脅威でもなく、喰らうにも値しないそれらへの興味を完全に失った彼は、さっさと背を向けて歩き出した。
しかし、それはそれとして考えるべきことがあった。
やつら、大した知性もなさそうだったが、腰布を巻いていたな。布を織れるのか?
いや、まさか。やつらにそんなことは出来ないだろう。だとすれば…
小鬼でも武器を持って数が揃えば、多少は人間を脅かすだろう。あのゴブリンたちはそうやって、人間から略奪したものを身につけていたのだろうか。
とすれば、この森はそれなりに人間の生存圏に近いのかもしれない。
森を出るならば、人里を探すのは都合のいい方法だった。そして彼は、つい先程思いついたことを試すことにした。
上手くいけば、森の中であってもより広範囲を調べることができるだろう。
それは強靭な脚に力を漲らせ、ただ垂直に跳ぶ。それだけのことだ。しかし人外の彼の跳躍力は、彼自身の体を空へと打ち上げた。
どっ、と地面を蹴りつけた音が置き去りになり、次の瞬間には、開けた視界が目の前に広がる。青々と茂った森が絨毯のようだった。
このまま飛べれば楽なんだが。
そう思っても、重力によって体は落ちていく。どうやら彼の”魔法”では、空を飛ぶことは出来ないようだ。
そうして2、3度跳んで辺りを調べているうちに、彼は建物のようなものを見つけた。
それは灰色の、石造りの建物のように見える。
あれは砦か要塞か?
まぁ、建物には変わりない。
いずれにせよ、他の手がかりを持たない彼は、その建物を目指すことにした。




