95
9/8二話目
魅了の力を持つ。
その事実だけでこうも周りの態度が変わったり、様々なことを噂されてしまうのかと私は驚いてしまった。
そう、それだけ想像力がたくましいのだ。
私自身がどれだけ否定したとしても、私が魅了の力によってフルダーナスを縛っているのではないかとそう思われてしまっている。
お父様達の方でも私が魅了の力をそのように使った事実はないと周知しているにも関わらずそんなことを言ってくる者達は存在している。
それこそ私がお父様達に可愛がられているのも、魅了の力によるものではないかとか、そんなことさえも言われているのだ。
「全く、ヴィオが魅了を好き勝手に使っていると噂されているなんて失礼だわ!!」
「仕方ないわよ。それだけ私が魅了持ちなことが衝撃だったんでしょ」
私ももやもやした感情は持っているけれど、それよりもオーロや周りの侍女達が怒ってくれているので、私自身は落ち着いている。
産まれながらの魅了持ちは珍しい。それこそちょっとした魅了ならともかく私のように人の意思を捻じ曲げてしまうような強い魅了を持つ人って早々居ないのだ。
「ヴィオはもっと怒っていいと思うわ! だってあなたのことをよく知るはずの方々だって距離を置いたりしているじゃない」
「それも仕方ないわ。……本人達だって私にそんな態度をしたいわけじゃないと思うわよ。ただどうしても魅了持ちであることが頭をよぎって、これまでのような態度が出来ないだけだと思うの」
そう、私が働いている魔法研究所の一員達だって私にどう接していけばいいか悩んでいる様子だった。
彼らは私のことをよく知っているはずだけれども、そんな人たちだって私が魅了持ちだと知るとどう接したら良いか分からなくなっているのだ。
ショックをそこまで受けていないのは、そう言う態度も仕方がないなと覚悟をしていたから。
私付きの侍女達は、私の魅了についての説明を受けているけれど……私の魅了について知らされてもなかった王宮勤めの人間は私を見て顔色を変えたりしていた。
そんな態度も仕方がないとは思う。ただすぐさま彼らのことは報告されたのか、私の目の届かないところに移動させられていたようだけど。
だから私の周りにいるのは、私が魅了持ちだと知っても態度を変えなかった者達だけである。
「ヴィオって、そのあたり達観しているわよね……」
「だって魅了の力とは生まれながらの付き合いだもの。その力について知った人が態度を変えるなんて当たり前のことだわ」
ただあれよね、これまで普通に接してきた人たちが私が魅了持ちであるという一点のみで態度を変えるのは不思議なものだわ。
これまでも魅了の力は私の中にあって、いつでも使える状況だった。ただ私は基本的に意図して魅了を使うことはこれまで一切なかった。
――私がどういう人間か知っていればこれまでそんな力を使われていないことも分かるだろうに。そしてこれからも使おうとしないことも。
それなのにやっぱり魅了という力を前にすると、その力を使われてしまうのではないかと心配してしまうらしい。
昔から私と付き合いのある者達に関して言えば、その内、慣れて以前と変わらない態度に戻るのではないかとは思うけれど。
ただ私の魅了の力に対してずっと怯えてしまう方もきっといるだろう。
それも仕方がないことだと私は割り切っている。
それに身内やオーロ達が魅了の力も含めた私のことを受け入れてくれているのだから、それで十分だ。私はすべての人にこの力が受けいれられるとは思っていない。だって魅了ってそう言う力だから。
オーロと恋人になったルンジャーも私の魅了のことを知っても、特に態度は変わらなかった。
思う所はあるかもしれないけれど、その態度を表に出したりなんかしなかった。
そのことに関してはとてもほっとした。
だってルンジャーともこれからも仲良くしていきたいもの。
それにしても幾らお父様達が火消しを行っていても、魅了の力に纏わる悪い噂がいまだに残り続けているのってそれだけ私のことを蹴落としたいと思っている人が少なからずいるってことよね。
フルケーヘン王国の王家に対する不満を持っている貴族も居るわけで、彼等からしてみれば私が魅了持ちであることは蹴落とす要素の一つになり得る。
私の産まれもつ力によって、お父様達に迷惑をかけてしまっていることだけはやっぱり申し訳ない気持ちになる。
とはいえ、私が魅了を持ってうまれたことはどうしようもない事実だ。それでいて私がこの力を使えば、ありとあらゆる人々を魅了することが出来るのも本当のこと。
今の苦労は、私がこれまで魅了の力と向き合ってこなかったからこそのものでもあるのよね。
だから仕方がないことだわ。
私がこれからフルダーナスと一緒に生きていくのならば幾らでも魅了の力持ちだということは掘り起こされることだとは思う。
――だからこの力を持つ私自身のことを、国民達にも受け入れてもらいたい。
そう思っているので、表に立つことを私はやめない。色んな視線を向けられるし、怯えられたりもするけれど……それでも、これが私だから。




