94
「ヴィオミーリナ殿下、ごきげんよう。ご無事で何よりですわ」
「それにしてもまさかヴィオミーリナ殿下にあのような力がるとは思ってもおりませんでした」
家族達からはもっと休んでもらって構わないと言われていた。寧ろ、休んでほしいとも。
だけれども私は、周りに甘えることは嫌だった。
それにいつまでも私がいつまでも表に出なかったら、私に不幸があったのではないかなどと勘繰る人だって出てくる。
それにしてもこうして話している間も、視線が以前と異なることが分かる。
魅了の力を持つ私に対して恐れを感じているのが分かる。これまでのことを思えば、魅了の力を私が意図的に使ったりしていないことぐらい分かるだろうに、それでも魅了について知ってしまったからこそこういう視線を向けられてしまっている。
……今、この時も、魅了を使われてしまっているのではないかとそう思っているのかもしれない。
「産まれた時からこの力とは付き合っておりますの。今では使い勝手の良いものですわよ?」
私は堂々とそう言い放った。
此処で怯む態度を見せるわけにはいかない。隙を見せてしまったら、私の望まぬ形で魅了の力のことを広められてしまうかもしれない。
私はこれまで大々的に何かを魅了したりすることはしてこなかった。でも魅了の力も使い方次第では、良い使い方は出来るはずだ。
……そう言う使い方をこれからしていくことも検討していかないと。
お父様達は私の評判が下がらないように政策をしてくれるだろう。ただ印象操作を上手くしないと、私のことを危険視する人たちはどうしても出てしまうと思う。
だから私は危険ではないというのを周りに示していかなければならない。
「本当に制御出来ているのですか? 私は最初からあの“白炎の魔法師”がヴィオミーリナ殿下に懸想していることを不思議に思っていたのですよ」
「無意識に魅了の力を使ってしまっていたのでは? “白炎の魔法師”様のことを解放してさしあげるべきですわ」
善意の皮を被った、本音を隠した言葉。
フルダーナスが私に近づいていることを面白くないと思っている人はいくらでもいる。
それにフルダーナス自身が今、こちらに居ないからこそそういった言葉を口にして私を揺さぶろうとしているのかもしれない。
「あら、フルダーナスには魅了は効かないわよ? 私が魅了しようとしたところでどうにもできないわ」
まさかフルダーナスが私如きの魅了に惑わされるとでも思っているのかしら? という意味を込めて笑いかける。
そう、フルダーナスには魅了は効かない。この前、私が魔力を制御出来なくなっていた時だって平然としていた。
でも幾ら魅了の力が効かないとはいえ、魅了の力について恐れる人は恐れるだろう。
効かないことと気にしないことは違う。
だけどフルダーナスは、それでも私に対して恐れなどを抱かない。……でもどうだろう、次に会った時にはまた態度が変わっている可能性はある。そのことは少しだけ心配だけど、侍女達の話を聞く限りフルダーナスは相変わらず私を大切には思ってくれているはず……。
「そうですか。……しかし“白炎の魔法師”様からのお気持ちにヴィオミーリナ殿下はお答えする気はないのでしょう? いつまでもお返事をせずにいるのは不誠実かと思いますわ」
「それはあなたには関係のないことですわ。私と、フルダーナスの問題ですもの」
私はそう言ってにっこりと笑った。
私はフルダーナスのことを好きだと自覚した。だからフルダーナスが帰ってきたら、気持ちを伝えるつもりではある。
だけどその情報も特に周りに伝える必要などもないのだ。
私の大事な気持ちは、先にフルダーナスに伝えたい。そもそもこういう感情は本人に伝えるべきことであって、周りからどうのこうの言われることではない。
それに私が本音を口にしたら、それこそどんなふうに周りに広まるかも定かではないものね。
フルダーナス自身がこちらに居ない状況で、私がフルダーナスのことを口にしていたら悪い風に広まっていきそうな予感もしていた。
だから軽く受け流していく。
そうやって私はフルダーナスが帰ってくるまでの間、貴族達に対して元気な姿を見せ続けたのであった。
私のことを気に食わないとか、魅了の力に対する恐れなどで私に対して良くない感情を抱いている貴族が居ることを私は知っている。
とはいえ、そう言う人たちがいるからといって何も行動を起こさないという選択肢は取りたくなかった。
だって私はフルダーナスに気持ちを返そうと決めているのだ。彼の傍に並べ立てる自分になれるように。
そのためにも、ただ守られている立場では居たくないなとそうも思っていた。
……それにかっこいい私を見せられたら、フルダーナスも褒めてくれるかもしれないし。
なんてそんなことを考えて私は一生懸命だった。
――ただしやっぱりフルダーナスという本人が居ない状況なので、様々な噂を周りは囁いていた。




