92
周りに広まらないようにしていた。それは、世間の目が怖かったから。
思えば私があまり表に出ないようにしていたのも、注目を浴びて、魅了について広まるのが嫌だったからという恐れもあった。
――ただオーロやフルダーナスと一緒にいると、もっと広い世界に飛び出したいとそういう気持ちにはなった。
だからいずれ何かのきっかけがあれば私が魅了持ちであることは広まるだろうとは覚悟はしていた。
なので、思ったよりは驚きはない。
きっとあることないこと噂はされているだろうな。魅了というのは、それだけ目立つ能力だから。
もしかしたら周りの視線も変わっていくかもしれない。
でも、変わらないものはある。なら、私は大丈夫。
「そう。色んな噂が流れていそうね?」
「……そうですね。ヴィオミーリナ殿下のことの悪評は少なからず広まっております。ただ火消しは行われているので心配はないかと」
「あら、そうなのね」
「どちらかというとフルダーナス様と親しくしていることに対するやっかみから広められているもののようです」
「あー、なるほどね?」
それから聞いた話によると、私は魅了の力を使ってフルダーナスを操っているだとか、そうじゃなければ私のような小娘がフルダーナスに相手にされるはずがないだとか、私が幼い頃から魅了の力を使って我儘ばかり叶えていたとか。
――そんな風に言われているらしい。
覚悟はしていたことであり、私がフルダーナスと仲良くしていることや最近表立って動いていることを気に食わないと思っている人が居ることを知っている。
そもそも全員に好かれるような人というのはいない。
私の評判が下がれば下がるほど得する人だっているだろう。
それこそ、魅了持ちであり、悪評のある私を娶って利用しようと企む人とかもいそうだ。
魅了の力はそれだけ利用価値がある。
……侍女に聞いた話によると、お父様に向かって「魅了の力を持つ娘など扱いが難しいことでしょう。私が娶らせていただきましょう」などと口にして、それはもう怒りを露わにしていたんだとか。
私って、家族に恵まれている。
そもそも魅了の力を忌避するような家族だったら、私の暮らしは大変だっただろうな。でも私は魅了持ちでも家族に愛されて生きている。
「フルダーナス様も、それはもうお怒りになっております。フルダーナス様と懇意になりたい女性たちがヴィオミーリナ殿下の悪口を言いながら近づいてこられたので、徹底的に報復をしたそうです」
「……何をやっているのかしら?」
そんなことをしたら益々、私の魅了によって操られているとかそう言う風に思われてしまうのではないか? などと思ったり。
フルダーナスが悪く言われてしまったりしないのかと、それが心配になる。
……それにこれからも私に求婚するというのならば、それだけでもフルダーナスだって色んなことを言われてしまうことになるだろうに。
やっぱり私が魅了持ちだったとしても、彼は私の味方で居ようとしてくれているのだ。
そのことを実感すると、胸の奥がじんっと温かくなる。
嬉しい。ぽかぽかした気持ちでいっぱいだ。
それこそ私自身のことを受け入れてくれているのだとそう分かるから。
「……フルダーナス、グザックデーダ王国の人達に怒られたりしていない?」
「どうしてそうお思いで?」
「……だって、彼はあの国にとっての英雄でしょう。影響力もあるフルダーナスが魅了持ちの私なんかの味方をして、求婚して……どう思われているのかしらって」
私はフルダーナスが私の味方をしてくれていることは嬉しいことだった。
だけれどもフルダーナスはあくまで他国の人間だ。向こうの王族がどう思っているのかとか、そういうことも気になった。
「大丈夫ですよ。グザックデーダ王国の国王陛下は、寧ろフルダーナス様がヴィオミーリナ殿下に対して本気であることを面白がっているとのことです」
「そう」
ほっとしてしまったのは、フルダーナスと離れるのが嫌だという感情を少なからず抱いてしまったから。
すっかり私にとってはフルダーナスが傍に居てくれることが当たり前になっていた。
あんな事件が起きた後に、フルダーナスと二度と会えないなんてことになったら私は悲しくなっただろう。
……私の魅了に臆して、その後、私の元へやってこなくなったら寂しかったと思う。
……やっぱり私にとってフルダーナスが特別になっているというのを実感して、恥ずかしくなった。
「……ねぇ、私、危険な目に遭った時、フルダーナスに助けてほしいって思ったの。お父様達や、オーロとか、他の者達じゃなくて、彼のことが思い浮かんでしまったの」
自分の心を整理するためにも、侍女にそんなことを漏らしてしまった。
侍女は驚いた顔をした後、優しい表情で私を見ていた。
「まぁ、そうなのですね。それだけヴィオミーリナ殿下にとってフルダーナス様は、大切な存在になっておられるのですね」
「ええ。……大切なの。元から、魅了の力について知られたら離れていくかなと心配していたりしたの。だから、フルダーナスが私が魅了持ちであることを知っても、気にしていないことが嬉しかった」
侍女は私の独白を黙って聞いてくれている。
「フルダーナスが私を嫌わなくて嬉しいって、離れて行かないんだって、嬉しかったの……。求婚の返事を待たせている状態なのに、私って、凄く自分勝手だわ」
フルダーナスが私の味方として存在してくれていることが嬉しいだなんて、自分勝手だ。
愛を乞われて、それに応えもせずに、過ごしていた。
「……私、フルダーナスのこと、好きなのかも」
自分でそう言っていて、恥ずかしくなって顔が赤くなる。
嬉しくて、一緒に居たくて、駆けつけてきたことのことを思い出すとドキドキした。
だから、私、フルダーナスのことを好きなんだと思う。




