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9/4 二話目
身体の中が熱くなる。
体内を巡る魔力が沸騰しているような感覚。
……魅了の力の、制御がきかない!!
やばい。
頭がくらくらしている。ぐわんぐわんと、揺れている。魅了の力は、魔力と直結しているらしいというのは王宮魔法師の調べで分かっている。
魔力量が多い方だから、余計に魅了の力がのりやすい。
「ああ、なんて、素晴らしい!!」
男はそういって私を興奮した様子で見つめている。なんて恐ろしい瞳だろうか! ……あれ、私の魅了を少なからず受けているわよね?
本人が魅了の力を何らかの方法で用いているので、耐性をつけるための道具は身に着けているだろう。
私の魅了の力を利用しようとしているのに、その力によって身動きが取れないなんて状況は望んでいないだろうから。
――でも、私の魅了は男の想定以上に強いものなのかもしれない。
ふらりっと近づいてくる。……欲情の視線。捕まったら確実に問題だ。手籠めにされてしまう可能性が高かった。
ぞっとした。
「それほど強い魅了を隠し持っているとは。なんと、もったいないことか。その力を使えば幾らでも人々を掌握することが出来るだろう。傾国の姫となるのにふさわしい。我が手を取っていただき、妻にでもなってもらおうか。それにしてもなんと、愛らしい……! これほどまでに素晴らしい姫君を手中におさめることが出来るなんて、はぁはぁ」
息が荒い。
気持ち悪いわね。
自分が魅了の力に侵されていることなど、自覚していないかもしれない。
……フルダーナスの顔が、頭をちらつく。彼は私が知らないところで傷ついたら悲しむだろう。
「……とまり、なさい」
このまま頭が働いていないからといってこのまま瞳を閉じてしまえば、大変なことになる。
それにこの場に居るのは男だけじゃない。騎士や侍女達だって、魅了に侵された結果どういった行動を起こすかも分からない。
同性だからといって安心はできない。私だって制御が出来ない状況なのだ。
私の言葉を聞いて、男が固まった。
「なんと、素晴らしい……!!」
自分の身体の動きが止まったことに驚きながらも、男は嬉しそうにしている。どうして魅了の力を受けてこうも嬉しそうにしているのだろうか。
「意識を失いなさい……!!」
なんとか声を振り絞って、男にそう指示を出す。頭が痛い。どう動くべきだろうか。それも分からない。
でも……、此処から脱出して、どこかで対処をしなければならない。
吹きかけられた何かの効果が解けるまでは逃げなきゃならない。魅了の力も無限に使えるわけでもない。
今の魔力が暴走している状態で魅了を使いすぎない方がいい。どういった結果につながるかも分からない。
精神を壊してしまう可能性もある。
だけど、そうも言っていられないことは分かっている。なぜなら、近くにいる騎士や侍女達の様子がおかしい。
私に魅了されているわけだけど、だからこそ襲われる可能性は逆にある。だって目が、据わっている。
私付きの侍女に関しては魅了の力が暴走する恐れがあるからと、対策はしているはずだ。それでもこれだけ影響を受けているのだもの。
「……皆、とまり、なさい。ここで、待つ」
同行されてもそれはそれで困る。だっていつ襲い掛かられるかも分からない。
それに今は、先ほどのソシエア王国の使者も居る。いつ目を覚ますか分からない。
……どこに行けばいい?
パーティー会場に戻ったところで、魅了を振りまくだけになってしまうだろうか。
リュン兄様たちにまで魅了をかけて取り返しのつかないことになってしまったら……。
今すぐにでも眠ってしまいたい。
くらくらして、立っていられない。頭の痛みに耐えられない。身体の熱さに正気で居られない。
「はぁ、はぁ……」
ふらふらしている中で、思い浮かんだのはフルダーナスのことだった。
……弱っている時にフルダーナスのことが浮かぶなんて、私にとってフルダーナスが特別になっている証なのかもしれない。
会いたいな、とそう思った。
フルダーナスだって、魅了の影響を受けるかもしれない。
「……フルダーナス!!」
それでも声を振り絞ってその名を呼んでしまった。
「ヴィオ!!」
遠くから、フルダーナスの声が聞こえてきた。私のことを必死に探してくれているみたいだった。
「フルダー……ナス!!」
また、私は彼の名を呼んだ。
そうしたら、扉が開いた。膝をついている私に近づいて、慌てた様子で近づく。
「ヴィオ!! 何があった? それにその状況は……?」
「……私の、魅了、暴走してて。あなたも、影響、受けるかも……」
私に魅了の力があるかどうかも知らない彼に向って、ただ端的にそれだけ伝えた。
「いや、大丈夫だ。俺にはそういう力は効かないから」
「ほん、とう?」
「ああ」
「……なら、良かった」
フルダーナスの瞳は、理性的だ。魅了の力が効いていないのは確かなことだろう。
「ヴィオ、休んでいい。俺がなんとかしておくから」
「……うん、ごめん、なさい。ありが、とう」
限界だった。そんな私にフルダーナスは手をかざして何かをした。フルダーナスの魔力? その魔力の影響で、少し魅了の力が治まっているのが分かる。
それを実感して、私は安心してそのまま瞳を閉じた。




