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私はその日、緊張していた。
なぜかと言えば、私とフルダーナスの共著が本日出版をされるのだ。
ヴィオミーリナ・フルケーヘン。
私の名はこれまでただ王族としてしか周りには知られていない。でもこの本が出たら、私のことを魔法師として認識してくれる人も増えるんだろうか。
“フルケーヘンの魔女”と称されていることは一部しか知らないし、私は基本的に表に立つこともなかったから驚く人も多いかもしれない。
フルダーナスに頼りっきりだって思われないように一生懸命魔法書を書いたけれどどうだろうか。
「ヴィオ、そんなに緊張しているの?」
「……だって、仕方がないじゃない。初めて本を出すのだもの」
ドキドキしながら私はオーロに答える。
それに全く興味がないものを王女として出すものじゃなくて、私自身が興味のある魔法に関する本だ。
それを自分で出版できるなんて考えたことはなかった。
これまでの私は縮こまった狭い世界でずっと生きていて、フルダーナスと一緒じゃなければ魔法書を出すことなんかなかっただろうな。
きっと一人で黙々と魔法の研究をしているだけで、人に関わることなどほとんどなかっただろう。
「素晴らしいものに仕上がっているとフルダーナスさんが言っていたわ。あの方がそれだけ言うのだから、何も心配する必要はないわよ」
「……フルダーナスは、自信満々過ぎるわよね?」
魔法書を出すなんて、もっと緊張してもおかしくないことなのに全く緊張した様子のないフルダーナスには少し面白くない。私と同じぐらい緊張したらいいのに!
私はフルダーナスの名声に傷をつけたりしないしないか心配になる。でもフルダーナスは、そんなことになっても気にしないんだろうな。
年上の余裕というか、なんというか……。
オーロもそうだけど、何事も私よりも冷静だったりするのよね。
「自信を持つことは悪いことではないわ。それに最善を尽くしたのならきっと大丈夫よ。それに魔法書は誰でも読むようなものじゃなくて専門書なのだから一人に届いたらそれでいいと思うのよね」
「それは確かにそう……」
一般的な人達が見るようなものじゃない。そもそも魔法書と知らずに手に取った人がもし魔力を暴発でもさせたら大変なことになってしまう。だからこそ、魔法書の扱いって慎重にはされている。
特に私とフルダーナスの共著の本って、実践的なものも多いから卸し先は気を付けている。
「それにしても不思議なものね。私、ヴィオが魔法書を出すことになるとは想像していなかったわ。それこそ離縁された後は、そのままヴィオと会うことなく生きていくつもりだったし、こうして魔法書の話をあなたと出来ることも驚きだわ」
「私も、オーロやフルダーナスに会わなかったら魔法書を書くなんてことはきっとなかったからびっくりよ」
表に出ることも、なるべくしたくなかった。魅了の力のこともあるけれど、私は元々人と接することをそこまで好んでいないから。
でもそんな私がこうして自分から目立つ行動をしているのだから、本当に自分でも驚いている。
「反応を見てからになるけれども、また魔法書は書きたいなと思うの。一人でも出したいし、オーロと一緒にも出したい。私の名が魔法師として広まったら楽しいもの」
目立って面倒なことになったりするのは嫌だし、私の魅了の力について知られて大変なことになっても嫌。
でもそれよりも私の名がもっと広まったら嬉しいなと思った。王女としてではなく、魔法師として。
そう言う風になれたらって思ってしまった。
「本屋にも見に行くのでしょう?」
「ええ。だって自分の名が書かれた本があるなんて楽しいじゃない」
本屋では私とフルダーナスの名で盛大に宣伝されている。騎士達に確認してもらったけれど、それなりに話題にはなっているらしい。
うん、嬉しい。
それこそ私の魔法師としての腕を買ったものではなくて、私とフルダーナスの名に惹かれて興味本位で購入する魔法師ばかりかもしれない。それでもどんなきっかけで購入してもらったものだったとしても、買って良かったと言ってもらえるものだといいな。
私の王女としての名と、フルダーナスの隣国の王宮魔法師としての名は有名だ。それだけネームバリューがあるからそれなりに売れるかな。
……そうは言われているけれど、中身が納得が出来るものじゃなければ次に出したとしても買ってもらえなくなる。
やっぱり私はドキドキしてしまう。
「あ、そうだ。私、ヴィオに報告したいことがあるの」
急にオーロにそんなことを言われて、なんだろう? とオーロへと視線を向ける。
そしたら驚くべきことを言われた。
「私、ルンジャーに告白されたから、ためしで付き合ってみることにしたの」
「え?」
思わず私は驚いて声をあげてしまった。




