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8/15 三話目
「では、ヴィオ、手を」
「ええ」
今日はフルダーナスとのお出かけの日。彼へのご褒美でもあるデート。
私はフリルのついた花柄のスカートなどを身に着けていて、普段お出かけの時の服装よりも可愛らしいものになっている。
こういう服装って、普段のお出かけではあまり着ないから何だか照れ臭かった。
それに髪型だって、後ろで一つに結んで雰囲気を変えている。そんな私を見た時に、フルダーナスは「可愛い」って言っていた。
そして私はフルダーナスにエスコートをされて、外に出る。
王都は時々歩いているけれども、フルダーナスと二人でお出かけとなるとまた違った感じがする。
それに私は用事がなければ王宮の外に出ることはない。というか王族である私がポンポン外に出たら護衛たちも大変だもの。
フルダーナスが居るから比較的自由に、好きなように動けるから楽しみではある。
普段は遠慮しているようなことだって出来たりするかな。それにデートだからこそ、普段とは雰囲気も違うだろうし。
うん、なんだか見慣れた王都なはずなのに新鮮な気持ちになる。
今日は国民達も基本的に休日な人の方が多い日だ。職種によっては働いている人もいるけれど。だからはぐれないように手は繋がれている。
それにこういう休日の人が多いからこそのイベントが行われたりもするの。
私はあんまりそういうイベントごとに参加したことはない。ずっと王都に居るのに、それもそれでこれまでもったいないことをしていたかも?
でもオーロに会いにいくまでは、ずっと閉じこもった世界で生きてきた。
そう言うイベントごとに参加することも特になかった。あまり興味がなかった。今はそう言うイベントにも興味があるのに不思議なことよね。
「やっぱり人が多いわね」
「そうだな。こういう時にはあまり外に出てないか?」
「ええ。だからこんなに沢山居る中で歩くのは初めてかもしれない」
私がそう答えると、フルダーナスは楽しそうに笑っている。
こういう些細なことでも、私の初めてをもらえることを喜んでいるのかもしれない。
「私もあまり人混みには出かけないな」
「そうなの?」
「人混みは苦手だ。周りから注目を受けるのもめんどくさい」
「確かにフルダーナスは目立ちそうだものね」
「今はヴィオが隣に居るからいいが、一人で歩くと女が寄ってくる」
「あー、なるほど?」
要するにフルダーナスと良い仲になろうと思って近づいてくるんだなというのが分かる。
綺麗な顔立ちをしているものね。今も私と一緒に居ても、目立っているし。
男性と手を繋いで歩くことも、こうして人混みの中を進むことも――初めてだから、やっぱり落ち着かない。
「今日は何処に行くの?」
「有名な演奏隊が来ているから、まずはそれを聞きにいくのはどうかと」
「まぁ、素敵ね」
デートの日程はフルダーナスが全て決めてくれている。私のことを楽しませようと一生懸命考えてくれたんだなと思うと、素直に嬉しかった。
だって自分のために、そう言う風に考えてくれるのってそれだけでこう……心が温かくなるでしょう。
今回はお忍びのデート。私が王族であることも、フルダーナスが隣国の王宮魔法師であることも――周りの誰も知らない。そんな状況でただお出かけをするのだ。
演奏隊か。
音楽を生業として暮らしている人達も凄いなとは思う。
「ヴィオは何か楽器は習っているか?」
「王女として一通りのことは。でもそこまで才能はないわ。他の兄妹たちの方がずっと得意だわ」
そもそもそういうものにあまり興味を抱けなかったからというのもあるかも。私は楽器を学ぶよりも魔法を学ぶ方がずっと好きだった。
でも音楽自体が嫌いなわけじゃない。歌を聞くのも好きだ。この国で国民の誰もが知っているような童謡も好き。
魅了の力を持つ私は、制御出来ないぐらい幼いうちは家族と近づくことはなかなか出来なかった。でも幼い頃、お母様が歌ってくれたな。私が眠れない時に、歌ってくれた子守歌も好きだった。
楽器を演奏するよりも、私は歌う方が好きかも。
でも歌って、魅了の力がのりやすかったりもするらしいからちょっと気をつけないといけないけれど。
なんというか感情が籠ったりすると、そういう力って影響しやすいらしい。
だから歌うことにも気をつけないと。今は制御が出来ているにしても、無意識にたれ流したら大惨事だ。
それに国民達にも、私の魅了の力について広まったりしたら困る。
……今はただの大人しくしている王女だって思われているだけだけど、魅了の力が尾ひれはひれついて広まったら面倒なことにはなる。
魅了の力って、基本的に良いものだとは認識されないから。
過去の歴史の中にも、魅了の力で好き勝手したような人達がいた。悪用しようと思えば、幾らでも悪用することが出来る。
……うん、私はなるべくこの力について知られたくないな。
それは今、一緒にお出かけしているフルダーナスにも。……そのうち言わなければいけなくなるかもしれないけれど、今は考えないようにしておこうと思った。




