57
その女性は美しい人だった。
美しい青色の髪と、黄色い瞳の私よりも少し年上であろう女性。所作もとても清廉されている。
この人の名前を私は知っていた。
グザックデーダ王国の公爵令嬢、フツィア。
外交面で隣国の主要な貴族の名前は覚えていたので知っている。……フルダーナスに対して、好意を抱いているということも把握している。
「ええ。そうよ。あなたは公爵家のフツィアね?」
「私のことをご存じだったのですね?」
その言葉には、社交界にはほとんど出ていなかったのにという揶揄の感情が込められている。
きっと私のことを気にしているのだろうな。フルダーナスが私に求婚しているから。
「もちろん。王女として友好国の貴族たちの情報はしっかり把握しておりますもの。ところでどういった御用で?」
「ヴィオミーリナ殿下が私の国のフルダーナスと親しくしているでしょう? ですから気になって。彼はあまり人に執着しない性格ですから、不思議に思ってしまったの」
これは自分の方がフルダーナスのことを知っているというのを私に示したいのだろう。
でも正直深く知っているかどうかは関係ないのになとは思う。だって人の感情って、そこで決まるわけじゃない。
どれだけその人のことを知っていても思いを返してくれないことだって当然あるだろう。
「あら、そうなのね。フルダーナスはよく私に会いに来るからもっと人と仲良くしているかと思っていたわ。今回、パーティーで彼が普段とは違う様子でびっくりしたぐらいなの」
私がそう言って笑ったら、フツィアは顔をしかめる。私が悲しむとでも思ったのかしら?
私はフルダーナスの知らない一面を知れたら楽しいだろうなとは思っている。ただだからといってこの程度のことで感情を露わにすることもない。
彼女は私のことを侮っているのだろうな。私がフツィアよりも年下で社交界の場にもほとんど出ていない王女だったからこそだろうとは思う。ただ他国の公爵令嬢に、王族が侮られっぱなしで良いわけがないもの。
普通に不敬だわ。
「ヴィオミーリナ殿下はフルダーナスのことをよくご存じではないようですわね」
「あら、そうかしら。彼の性格などは把握しているつもりよ。それにお出かけをしたりもしたもの」
私は敢えて挑発するようにそう言った。
お出かけとはいってもオーロが一緒だったわけだけど。それにしてもフルダーナスに好意を抱いているからといって私に絡んでなんなのかしら?
結局のところどうのこうの言ったところで、本人の気持ち次第なのに。
寧ろ人によってはこんなことをされたら嫌悪感が増すのではないかしら。私だったら親しい友人などにこういった近づき方をされたら、嫌だ。
「私だってフルダーナスとお出かけしたことぐらいあるわ」
「そうなのですね。どちらへ?」
「一緒に街を見て回ったわ」
などと言われたけれど、本当かしら? なんて思ったりもする。フルダーナス、こういった女性と個人的に仲良くしているようには思えないのよね。
とくに私に求婚するようになってから特に女性の影が見られないとも聞いている。そういうところはちゃんとしてそうなイメージ。
「あら、フツィア様、嘘はいけませんわ」
私がフツィアと話していると、そんな声がかかった。
そちらに視線を向けると、一人の女性が居る。にこやかに微笑むその人も、グザックデーダ王国の公爵令嬢である。
その女性はフツィアのことをじっと見つめている。
「護衛としてフルダーナス様がついてきてくださっただけでしょう? 個人的な用件でフルダーナス様とお出かけをしたわけでもないのですから、ヴィオミーリナ殿下に失礼な言動をしてしまったらいけませんわ」
「……私はこれで失礼しますわっ!」
フツィアは苛立ったようにそう言ってその場を去っていた。
なるほどね、護衛のためにフルダーナスがついてきたわけね。まぁ、私とのお出かけの時もある意味護衛ではあったけれど。ただプライベートと言えばプライベートなので別ね。
「ありがとう。助かったわ」
私がそう言って笑えば、その女性も笑ってくれた。
その後は特に大きな問題は起こらなかった。やっぱり王族に対しては何か思う所があってもああいうことを言ってくる人って少ないもの。
ただちらちらパーティー中に視線は向けられていたので、私とフルダーナスのことを気にしている人はいるんだろうな。
……そう言う視線を実感すると、もっと真剣に考えなければならないのかなとは思う。
とはいえ焦りは禁物なので、一旦落ち着こう。
別に今も真剣に考えていないわけじゃない。ただやっぱりそのうち飽きるのではないかって信じ切れていないのはそう。
本当に彼が、私と心から結婚したがっているかどうかもちゃんと確認しよう。
それが、ずっと続くものなのか。一時的なものなのか。私は今は恋愛なんて考えていないけれども、彼が本気ならばもっと向き合う必要はある。




