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「ヴィオミーリナ殿下」
ある日のこと、またフルダーナスがフルケーヘンの王宮に来ていた。
私が廊下を歩いていると真正面から歩いてきた。私の姿を見るなり、笑みを浮かべて近づいてくる。
すっかりわが物顔で王宮内を歩いていて大丈夫かしら? とは思う。ただ友好国家になったとはいえ、他国の人間であるフルダーナスは王宮で基本的に単独行動をしているわけじゃない。
ただ彼の実力ならば王宮内のことはすぐに魔法などで把握したりしてしまっているだろうけれど。だってそれだけの実力者だ。そもそもフルダーナスが本気でこの王宮で何かをしようとしたら止められる人は早々居ないだろう。
――彼はそれだけの実力を持つ。
私は実際に戦場でのフルダーナスは知らないけれど、互いの魔法で小競り合いの中で語り合ってきた。
きっとフルダーナスはフルケーヘン王国と敵対しようとはしないだろう。それはあくまで現状の話だ。
今は友好国家になったとしてもその先は分からないのだから、彼への対策は研究し続ける必要がある。
幸いにもフルダーナスは私に好意を向けてくれていて、こうして近づいてくるのだから観察をし続けよう。折角だからその分、フルダーナスへの対策の魔法を練ることにしよう。
「あら、また来ていたの?」
「ヴィオミーリナ殿下に会いたかったので。お会い出来て嬉しいです」
「フルダーナスが会いに来てくれるのは嫌な気はしないけれど、あなたも忙しいでしょう? そう何度もこちらに来ると仕事が滞ったりするのではないかしら」
そう口にしたのは、フルダーナスはこんなにも他国に何度も顔を出していて問題ないのだろうかと少し心配に思ったからだ。
私に会いに来るあまりに仕事を放棄したなんてことになったら困るしね。
フルダーナスは私の言葉を聞いて、嬉しそうな顔をした。
「心配してくださっているのですか? 大丈夫ですよ。やらなければならない仕事は全て片付けておりますから。それにこの仕事が終わったらヴィオミーリナ殿下の姿を拝見することが出来るかと思うと楽しみではかどるのです」
「そう……。まぁ、それならよかったわ。あなたが自分の意思で私に会いに来てくれることは知っているけれど、無茶はしては駄目よ。寧ろ私が原因であなたの日常に支障をきたされたら迷惑だから」
本当に真正面から気持ちを伝えてくるわね。聞いていて恥ずかしくなるわ。
……それにしても私に会えるかと思うと、仕事がはかどるのね。
それってあれかしら、仕事の後に美味しいデザートが待っているから早く終わらせようみたいなそんなご褒美が待っている気分? 私ってフルダーナスにとってはご褒美みたいな認識なのだろうか。
まぁ、私と話しているだけで元気になれるならそれは良かったわねとしか言えないけれど。
「もちろんです。ヴィオミーリナ殿下にご迷惑をかけるようなことはしません。ご心配いただきありがとうございます。ヴィオミーリナ殿下が私のことを気に掛けてくださっているかと思うと嬉しいですよ」
「……気に掛けているわけではないわよ? ただ私が原因で倒れられても嫌なだけよ」
「それでも嬉しいですから。ところで、これからお時間はありますか?」
フルダーナスはそう言いながらどこか嬉し気だ。
私と話しているだけで嬉しいといった態度に、やっぱりむず痒い気持ちにはなった。
「これから用事があるわ」
「ご同行を許可していただけないでしょうか?」
「何の用事かも聞いていないのに、ついてきたがるの?」
私は不思議に思いながらフルダーナスに問いかける。用事があるしかいってないのに、それがどんな用事なのか知らないのに、それでも良いのだろうかと。
「はい。だってどのような用事でも、ヴィオミーリナ殿下がいらっしゃるのでしたら、それだけで私にとって至福の時間になること間違いありませんから」
「そう……」
私は何とも言えない気持ちで頷きながら、どうするか考える。
これからのお出かけはお忍びで王都をオーロをぶらつくつもりだっただけなのだ。
それにフルダーナスを連れて行くのはどうなんだろう? 折角私に会いにきてくれているのに、放っておくのも少し可哀想な気もしていた。
「……フルダーナス、私はオーロとこれからお忍びで遊びに行くの。だからついてくるなら護衛としてついてきなさい。あなたが居たら、お忍びも動きやすいわ。ただ私やオーロの身分を隠した上で動くからそれは頭にとどめておきなさい」
私がそう言ったらフルダーナスは驚いた顔をした。だけど次の瞬間には笑みを深める。
「おおせのままに、お姫様」
そして恭しく頭を下げると、そう口にするのだった。
独断でフルダーナスを連れて行くことを提案してしまった。オーロにもちゃんと説明しておかないと。
でも彼が居たらそれはそれで楽しそうだし、実際にお忍びで動きやすいのよね。




