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なぜ、此処に彼が?
私はそう思いながら、怪訝な目でフルダーナスを見てしまった。
「君の研究場所に興味があったから。きちんと許可は得ています。それにしても……その恰好も可愛いですね」
「……そう。可愛いって、ただの研究職員としての動きやすい恰好でしかないじゃない。ドレス姿などと違ってみすぼらしいでしょう?」
フルダーナスは幾らでも美しい女性を見慣れているはずだ。それなのにこんな格好の私を見て、躊躇なくこんなことを言ってくるなんて……。
なんとも、調子が狂ってしまう。
初対面の時は私は王女として、着飾っていた。その姿を見て、何か思う所があって打算的な気持ちで私に求婚なんてしていると思ったけれど……。王女らしい王女を求めているなら、私の今のような姿を見たら失望しそうだなとは思ったけれどそんなことはないみたい。
「初めまして。“白炎の魔法師”様。私はオウロイア・アスールファと申します。ヴィオミーリナ殿下とは共に魔法についての研究をしております。よろしくお願いします」
オーロはフルダーナスに向かって挨拶をする。
「ああ。知っているよ。ヴィオミーリナ殿下の友人であるオウロイア嬢だろう? 優秀だと聞いている。よろしく頼む」
にっこりと笑ってフルダーナスはそう言った。
オウロイアに対する視線に悪感情は一切ないように見えた。私と仲良くなりたいと思っているのは本当なのか、交友関係も把握しているらしい。
オウロイアの身分は下位貴族の令嬢だ。人によっては私の友人であるとはいえ離縁されたオーロのことを見下す人間というのはいるのだ。
彼がそういう人間でなかったことは少しほっとした。幾ら魔法の腕が素晴らしくても、私の友人を蔑ろにする人とは話もしたくないもの。
「私のことをご存じだったのですね。“白炎の魔法師”様は素晴らしい魔法の使い手だと聞いております。ぜひ、ご教授いただければと」
オーロはそう言いながら、フルダーナスのことを見る。
これはあれね、オーロってばフルダーナスのことをとても警戒しているのだわ。私に近づく彼がどういう人間か見極めようとしている。
オーロは私のことを大切に思ってくれているんだなとなんだか嬉しかった。
「フルダーナス、私とオーロはこれから仕事をするわ。グザックデーダ王国へと公開出来る情報だけあなたには見せるわ。それと人をつけるから、勝手なことはしないように」
「もちろんです」
フルダーナスは嫌な顔一つせずに頷いた。
停戦したとはいえ、友好国家になったとしてもそのあたりの区切りはきちんとしなければならない。
私が仕事をしている間、基本的にフルダーナスは邪魔をしてこなかった。声をかけられる時はかけてくるけれどその程度だ。それ以外は他の職員の説明を聞いたり、魔法に関する本を読んだりなどをしていた。
「ねぇ、ヴィオ。あの方、本当にヴィオに興味があるのね」
「そうかしら?」
オーロはフルダーナスに対して悪い印象はないようだった。もちろん、警戒は怠っていないみたいだけど。
「ええ。だってお忙しい中、ヴィオに興味を持ってここまで来たのでしょう? ……まぁ、事前に連絡がなかったのはあれだけど」
「そうね。私に会いに来るのだけが目的じゃなくて、我が国の魔法技術にも興味はあるのだと思う」
フルダーナスは効率的に動くタイプなのだろうな。なんでも同時進行でこなして、頭が働く。
そういうところは魔法師向きだ。
魔法を使う者は、同時に様々なことを思考出来る方が有利だ。これも才能なのかしら。少しだけ羨ましくなる。
まぁ、ないものねだりをしても仕方ない。私だって彼に負けないわ!
なんだか同じ魔法を嗜む者として、フルダーナスに対抗心を感じてしまうわ。負けたくないって思う。
私は王族で実戦経験はないし、英雄として名を馳せている彼に比べると全然だ。でももっとこのフルケーヘン王国のために頑張るの。
魔法をもっと使えるようになりたい。それに結果を出し続けもしたい。
そう考えるとやっぱり、今は結婚は考えられないなというのが本音だ。それよりも今は、仕事が楽しいから。
「お疲れ様です。休憩をしたらいかがですか?」
しばらく紙と向き合っていると、そう声をかけられる。
フルダーナスがわざわざ飲み物を持ってきてくれたらしい。私の分だけじゃなくて、オーロの分もだ。
……この人はオーロのことも蔑ろにはしないんだな。私の気を引きたいと思っているのはそうなんだろうけれども、そのために他に酷い扱いをしたりはしないのだ。
あと、私のやることに口出しをしてくるわけでもない。
そのことは心地よかった。
私にばかり話しかけてくる人とか、交友関係に口出しする人とかそれなりに居るもの。




