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「ヴィオミーリナ殿下、また会えて光栄です」
「あなた、嬉しそうね?」
私に会いに来たフルダーナスは、笑顔だった。見るからに嬉しそうで、そのことを怪訝に思う。
まさか、私に会えたことがそんなに嬉しいと思っている? でもなんだかそれって自惚れな気もする。
だってフルダーナスは、私に簡単に会える立場なのに。英雄なのだから、私に会うぐらいで喜ぶなんて変な感じがする。
「会ってもらえないかと思ったので。この前は早急に行動しすぎたとこれでも反省しているんですよ。ヴィオミーリナ殿下にはもっとゆっくり近づいた方が良かったかもと」
「……あなたねぇ。そういう恥ずかしいことをさらりっというのをやめなさいよ」
「照れていますね? 本心ですよ」
にこにこしながら、そんなことを言われて私は戸惑う。なんというか、本当に調子が良い!
反省はしているらしいけれど、私に求婚紛いのことをしたことは後悔していない様子だった。
「今日は両国の交友のために来たのでしょう? 私のところに来ていていいの?」
私はフルダーナスと会うということもあって、今はドレス姿である。ちなみにお父様達が心配して、侍女や護衛たちは穏やかな表情で見守っているけれど内心はそうじゃないんだろうな。
彼らもプロだから、こういう時に表情に出ないように心がけているのだろう。
逆にこのような場できちんと出来ない人って、侍女や騎士としては相応しくないもの。
「問題ないですよ。交友のためというのは建前ですから。私が此処に来たのは、あなたに会いにですよ?」
……一応、フルダーナスは両国の友好の証としての、魔法師たちと交友するために来ているはずなのに。
こんなに自由でいいのかしら?
それだけフルダーナスはグザックデーダ王国で、発言力のある立場なんだろうな。というか、あの時の外交官の何とも言えない表情をみるにかなり好き勝手出来そう?
「そう。あまり周りを困らせたら駄目よ?」
「私はそれが許されるぐらいには国に貢献しているので、ヴィオミーリナ殿下が心配するようなことはありませんよ」
はっきりとそう言われる。丁寧な口調なのだけれども、いっていることが不遜だわ。少しだけ偉そうなのだけど、全く嫌味などもない。フルダーナスってそう言う性格なんだなと思う。
グザックデーダ王国内でも反感を持つ人は居るだろうけれども……それよりも憧れの目で見られることの方がずっと多そう。
「そう、ならいいわ。でも私もやらなければならないことがあるから、あなたとずっと話しているわけにもいかないわ」
これは本当のこと。私は王宮で仕事をしているのだもの。こうして友好関係になったグザックデーダ王国の英雄であるフルダーナスと交流を持つのは大事なことだけど、そればかりをしているわけにもいかないわ。
こうしてドレスを着て、王族として過ごすのも結構疲れるし。
私、いつも動きやすい服装だもの。ドレスよりもそっちの方が慣れているし。
そういうわけでいつまでもフルダーナスに構っているわけにもいかない。魔法研究も続けたいし、オーロとももっと過ごしたい。
フルダーナスが居るからと今までの暮らしが出来ないのもちょっと嫌だ。
「そうですか……」
そう言いながらフルダーナスは、少しだけがっかりした様子で、少し罪悪感はわく。
多分、私に誘ってほしくてあえてこういう駆け引きをしているんだろうな……。そういうところ、ちゃっかりしてそう。
「ええ。ですから、その間は自由にしてくださいませ」
「分かりました。ただ、会いには行きますので」
「……そうね。事前に連絡をしてもらえたら、検討はするわ」
こんな風にしゅんとした表情を作られると、職場に誘おうかしら? と思わなくもなかった。いや、でも流石にそれはそれで気を張って疲れそうだし、
それにしてもなんというか、調子が狂うわ。
本気なのか、本気じゃないのかもよく分からない。
私と会って嬉しそうにしていたのは本当のことなのだろうけれど……。フルダーナスと魔法の話はしたいなとは思っているのよね。
その時間は取るとして……あとはそうね、フルケーヘン王国の魔法師相手にフルダーナスがどう立ち回るかは見てみたいかも。
私はそんなことを考えるのだった。
……フルダーナスがこちらにやってきていることで、少しだけ私の周りは騒がしくなりそうだ。
私はそんな予感がした。
フルダーナスに対して、悪感情はない。話していて楽しいけれど、今はそれだけだ。でもそういう断り方をはっきりしても、フルダーナスはすぐに諦めなさそうな予感はするんだよね。
そうなると、どうしようかしら?




