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「ヴィオミーリナ殿下、伯爵家の現状を報告いたします」
そう言って前伯爵夫妻が頭を下げている。オーロの元夫の両親は、ちゃんと伯爵家について確認してきたようだった。思ったよりも早かった。
憔悴している様子を見るに、それだけ酷い有様だったのだろう。……まぁ、あの伯爵に任せてしまったこの二人の自業自得ともいえるけれど。
この報告の場にはオーロも控えている。
オーロにとって伯爵家での日々は辛いものだろうに、気丈にもこの場で話を聞くことにしたらしい。
私はそのオーロの強さが、眩しく思う。
オーロのことをよく知らない人は、やられっぱなしあったオーロのことを気弱だとか勘違いをするかもしれない。
でもそうではないのだ。
「どうぞ」
私がそう言うと伯爵家の状況を話し始めた。
伯爵家は酷い状況だったらしい。というか、王族の参加する社交の場から弾かれたことで、伯爵もその妻となった者も荒れていたらしい。
伯爵からしてみると、オーロと離縁してこれから輝かしい未来を歩めると思っていたんだろうな。私の友人を犠牲にしておいて、のうのうと幸せになろうなんて全く以って許せないけれど。
伯爵の愛しい幼なじみに関しても真実の愛の邪魔者であったオーロが居なくなって、これからバラ色の人生とか思ってそうだし。想像したら腹が立つわね。
その二人は理由も分からず王族の居る社交の場に行けなくなり、折角オーロの悪評を流しているのに風向きが悪くなっていて苛立ってはいるらしかった。
何だか、オーロを苦しめた連中がそういう目に遭っているのは良い気味だわ。
使用人達も彼らが荒れていることで、苦労しているんだとか。伯爵たちは機嫌の良い時には、周りにも優しくしていたらしい。しかし今は余裕がなさすぎて、使用人達にも態度がひどくなっていると前伯爵夫妻は言っていた。
そのせいで反発も大きくなっていたようだ。……使用人達は自分達の窮地を前伯爵夫妻に訴えていたらしい。
いやいや、自分達は正当な伯爵夫人であるオーロを虐げていたというにもかかわらず自分たちが少し不機嫌にあたられたからって簡単に人に助けを求めているのもなんというか、自分勝手で私は嫌な気持ちになったわ。
「伯爵邸の使用人の中には私共が当主だったころから仕えている者達も居たのだが……すっかり周りに感化された結果、オウロイアに酷い態度をしていたようです。それも自分の行いを間違った行為だと思っていなかったようで、私達にも報告をしてきました。伯爵邸の使用人達はヴィオミーリナ殿下とオウロイアが親しくしていることは正しく把握はしていないようです」
「……それどころか息子たちの、オウロイアが王族と仲良くすることなど出来るはずがないという言葉を信じ切っていたようですわ。というよりオウロイアが王族と親しくしていれば自分たちが罰せられるかもしれないから、信じないようにしていたようでした」
前伯爵夫妻の言葉を聞いて、私は何とも言えない気持ちになる。なんというか、バレなければいいとか、相手から報復されなければ問題ないとか、そういう思考なのかもしれない。
保身ばかりを考えて、自分さえ良ければそれでいいと思っているんだろうな。
「まぁ、その者達にどういった対処をしたの?」
「……私共で処罰を与えようとしたところ、息子たちに反対されてまだ行えておりません。それに使用人達全体でオウロイアを虐げる動きは発生していたので、全員を処罰するのは……ってもうしわけございません!! きちんと処罰は行いますので、どうかお許しください」
いけないわ。私ってばつい、冷たい視線を彼等に向けてしまったみたい。
それにしても本当にほとんどすべての使用人達がオーロにそう言う態度をしていたなんて、問題のある屋敷すぎる。だって一人ぐらい、伯爵夫人が酷い扱いをしていることを訴えることもしなかったのだろうか?
なんというか、自分たちの近くにある世界が全てだとそんな風に思っているのかもしれない。
王族や貴族に仕える使用人はただその言うことを聞いていればいいというわけでもない。何らかの事情があって嫌々言うことを聞かなければならない状況ならともかくとして、使用人の立場で虐げる方に回るのってなんて思い上がりなのかしら? と思ってしまった。
「すぐに行いなさい。それであなたの家の財政が破綻しようともそれも自業自得よ。それ相応の罰は受けないと、私は安心出来ないわ。少なくとも貴族としても嫁いでいった夫人に対して、不当な扱いをした使用人達が伯爵家に仕えていたという経歴の元、他の家に行く方が国家としても迷惑なのよ」
――頭の回る者は、逃げる可能性も高い。でも出来れば逃がしたくはない。
だって伯爵夫人に好き勝手するような存在が、他の屋敷で悠々と使用人生活をしているなんて後々大きな問題になるわ。
そんな風に状況によっては仕える者に対して、酷い扱いをする者が貴族に仕えるなんてリスクしかない。




