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「“白炎の魔法師”だか知らないけれど、ヴィオに手出しはさせないようにするから」
オーロは私が彼から求婚を受けたことを知って、そう言っていた。私を守ってくれる気満々らしい。
オーロは結婚生活で苦労したのもあって、男性に対する警戒心はそれなりに強い。私のことを大切にしてくれているから、フルダーナスが良からぬ考えで近づこうとしているのではないかと心配しているのだろうな。
「彼は私を嫌っているわけでも嫌がらせをしようとしているわけでもないから、多分、大丈夫よ。お父様は本気で結婚を求めているのではないかと言っていたけれども……私はちょっとした好奇心からなのかなとは思っているわ」
「もう、ヴィオってば……そんなことを言っているけれど、本気だったとしてもよく考えるのよ? 私はヴィオが望むならば、そう言う相手と結婚するのは良いことだとは思うわ。ただ向こうが真剣だからという理由だけで、押されて頷いたら後悔するかもしれないからね?」
オーロの忠告に私は大きく頷いた。
オーロの言葉には実感が籠っている。苦労してしまった結婚生活のことを思って、私が同じような思いをしないようにって思ってくれているんだろう。
まぁ、私の場合だと仮に誰かと結婚してそう言う目に遭っていたら、すぐさま王家に仕える者がお父様達に報告しそうだけど。
「うん。ありがとう、オーロ。私、意思は強い方だからちゃんと安心して? それにフルダーナスって、無理やりはしないだろうから大丈夫よ」
私がそう言って笑えば、オーロは心配そうな顔をする。
「ヴィオはすっかり“白炎の魔法師”を信頼しているのね?」
「信頼というか、知っているだけよ。話したのはこの前が初めてだったけれど、私は彼と魔法で会話はしていたようなものだもの。それに権力が欲しいとか、そういうのは一切ないと思うから」
そう、ただ彼は純粋に私に対する関心があるだけなのだと思う。国の英雄なんて立場であり、素晴らしい魔法の使い手であるフルダーナスは、わざわざ王族と縁を結ぶ利点なんてないのだから。
私はグザックデーダ王国では“フルケーヘンの魔女”と呼ばれているけれど、私と同一人物だと知っている者はそこまでいない。
そもそも私がそんな呼ばれ方をしていようとも“白炎の魔法師”として名を馳せている彼の方がずっと有名人だ。
「そう……。ヴィオがそう言うならそうなのでしょうね。それにしても物凄く美しい男性だと聞いているけれど、実際はどうだった?」
「見たことがないぐらい綺麗な人ではあったわ。あれだけ魔法を使うことが出来て、見目も美しくて……本当に何でも持っている方なんだろうなとは思うわ」
そう、フルダーナスは何だって持ち合わせている。それに話しているだけでもその節々に自信が見え隠れしいた。
どこか不遜な様子があるというか、堂々としているというか……そんな感じがした。
それだけ自分の手で、色んなものを掴み取ってきた人なのだとは思う。もちろん、“白炎の魔法師”と呼ばれるまでに苦労を一つもしていないなんてことはあり得ないだろうけれど。
「そうなのね。私はお会いしたことがないけれど、ヴィオがそこまで口にするのならば素晴らしい方ではあるのでしょうね。ヴィオは友人として“白炎の魔法師”と関わることは望んでいるのよね?」
「ええ。だって魔法の話を彼とするのは楽しいもの。きっとオーロだって楽しくなると思うわ」
「それは楽しそうだけど……私はヴィオの友人とはいえ、男爵令嬢でしかないから挨拶をする機会はないのではないかしら?」
「向こうが本気だったらオーロとも話すことになるとは思うわ。私は何処まで本気かは分からないけれど……」
だってより取り見取りなはずだ。
これだけ有名な魔法の使い手ならば、様々な女性から懸想はされているだろう。それなのにどうしてわざわざ私に求婚するんだろうか? という疑問はある。
「もう、ヴィオってば……。ヴィオはこんなに可愛いのだから、本気になってもおかしくないわよ。話を聞いている限り、強引なタイプにも見えるからヴィオが押されて大変なことにならないように私も出来る限り目を光らせておくわ」
オーロも心配性だなと思った。
リュン兄様たちもそうだけど、私の周りって私のことをそれはもう心配している人達が多い。
ああ、でも私も……オーロに男性が近づいてきたら警戒はすると思う。オーロはとても素晴らしい女性だから、男性が近づくのは当然だもの。私の友人という立場になっているから余計に人は近づいてくると思う。
「ありがとう、オーロ。でも本気だったとして、どんなことをしてくるのかしら? 私、求婚は来た時点で断ってもらっていたから、求婚してきた相手と交流を持つかもしれない状況ってあんまりないのよね」
「少なくともヴィオには理由をつけて会いには来るのではないかしら? 行動力のある人間なら、そのまま返事を待つだけなんてしないだろうし」
オーロはそう言った。
――そして実際にオーロが言う通りにすぐに彼はフルケーヘン王国を訪れた。




