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「え?」
和平交渉が終わり、王宮へと戻った。
フルダーナスのことはきちんと報告をした。というか私が言わなかったとしても護衛達によって正しく情報は伝えられるだろうけれどね。
オーロには心配されて、「無事に戻ってきてくれてよかった」と安心した様子だった。
フルダーナスに冗談で口説かれたことに関しては、ハラハラした様子だったわ。
それから色んな報告を受けたり、魔法の研究を続けたりといった日常を謳歌していたら苦い表情のお父様に一つのことを言われたのだ。
――“白炎の魔法師”から、第三王女である私への求婚の申し出があったと。
「……ヴィオの報告では、冗談にすぎないものだったと言っていただろう。それなのに、まさか、グザックデーダ王国の国王の押印もされた正式なものが届くとは……」
お父様はそう言って何とも言えない表情だ。お父様は大変な娘思いなので、私にこうして正式な求婚が来たことに思うところがあるらしかった。
「私もただ面白半分で反応を見ていただけだと思っていたわ。本当に送ってくるなんて……!!」
フルダーナスのことだから、正式な求婚を申し出たらどうなるかぐらいわかるはずだ。それなのに、どうして? と私は疑問で仕方がなかった。
「余程、本気なのだろうな。すぐさま断ろうと思ったが、本気なら正式に申し出るようにと言ったのはヴィオなのだろう?」
「……だって、冗談だと思ったんですもの。というか、今も本気だとは信じられませんわ」
うん、信じられない。本気? ただ反応を見たいから送り付けた?
でもここまで本格的な求婚をしてくる意味ってなんだろう? もう後には引けないほどに多くの者を巻き込んでしまうものだ。
「ヴィオ、自分のことを過小評価しすぎだよ。君は私にとって自慢の娘だ。可愛いだけではなく、素晴らしい魔法の使い手だ。“白炎の魔法師”も、同じ魔法使いとして君に大きな関心を抱いているのだろう」
「……そう、です? 私、そんな理由で彼が求婚してくるとは思ってもいなかったのだけど」
関心を抱いているというのは事実だろうけれども、初対面の人間相手に求婚してくる意味はよく分からない。
少なくとも私にとっては結婚というのは特別なことだ。
それをただ興味を持ったからといって結婚しようとするなんて信じられない。まぁ、これは私がそう言う考え方をしているだけで、直感で結婚相手を決める人だって幾らでもいるのかもしれないけれども。
「冗談ではなく、関心を抱いて本気で結婚をしようと思っているのではないかと思うが……。ヴィオは本気だった場合は受け入れるつもりか?」
お父様はそう言って、少しだけ心配した様子で私のことを見ていた。
父親としては娘が結婚を決めるのではないかと、ハラハラしているらしい。お父様ってば、本当に子煩悩ね。
「いえ、今の所受け入れるつもりはないわ。とはいっても……今後、気が変わったりはするかもしれないけれど、私、まだ結婚とか考えられないもの」
私はお父様を安心させるようにそう言って笑った。
断言をしなかったのは、これから先の未来のことなんて自分自身にも分からないから。
私は結婚することなど考えられない。自分のことで精いっぱいで、恋なんてしたこともない。魅了の力のこともあるから、よっぽど一緒に生きていきたいと思わなければ結婚を決めることはないだろう。
それにしても……どういうつもりで、どのくらいの感情で私に求婚をしてきたのか聞いておかないといけないわね。
私が断って諦める程度ならそれで終わりだし。……でも本当に私を結婚したいだったらどうしよう?
私は王族の姫だからこそ、求愛がなかったわけじゃない。
ただ基本的にお父様達のところで止めてくれていたし、断ったらそこで終わりだった。
私はフルダーナスと話すこと自体は嫌いじゃない。寧ろ魔法の話は幾らでもしたいとは思う。
彼は私が断ったところで気にしないというか、逆恨みなどをするタイプではないとは思っている。ただそれってあくまで私が思っているだけだからなぁ。
私は彼と話せなくなることは嫌だ。折角楽しく魔法の話が出来るのに、気まずくなったりするのもなんだかモヤモヤしてしまうかもしれない。
……かといって、そんな理由で求婚を受け入れるなんて真似は絶対にしないけれど。
「それならいいが……」
「お父様、そんな顔をしなくて大丈夫ですからね? 私、少なくとも結婚をすることになっても国を出る気は今の所ないですし」
私がそう言って笑えば、お父様は安堵した様子だった。
結婚したら男性の方のところに向かう女性の方が多い。それは分かっているけれど、私は結婚したとしても国外には出たくないなとは思う。違う場所で暮らしていくのも不安だし、私はこの国が好きだもの。
そういうのを許してくれて、私が私らしく生きられる人相手じゃないと私は結婚はしたくないかな。
……オーロの結婚生活の話をきいているから、余計にそういうことには慎重になった方がいいなとも思っているのかも。




