39
予想外の行動をされて私は固まってしまった。
「ちょっと、何をなさっているんですか!! ヴィオミーリナ殿下から離れてください!!」
私が固まっている間に、女騎士が私とフルダーナスの間へと割り込んでくる。私はそこでようやくはっとした。
目の前のフルダーナスは、とても楽しそうに笑っている。女騎士から睨まれていても全く気にしていないようだ。
「……フルダーナス、冗談はおよしなさい」
私はようやくなんとかそう答えた。
それにしてもまさかこんなことをされるとは思わなかった。私はフルダーナスと魔法の話が出来て楽しかった。それなのに、こんなことをされるなんて……少しだけがっかりしてしまう。
私はそんなに軽い女性に見えただろうか。確かにフルダーナスは、見た目は整っているし、少しちょっかいをかければ異性は靡くかもしれないけれど。
私の視線を受けて、フルダーナスは傷ついた顔をする。この表情は敢えて作っているのかしら? それとも本心? 読めないわ。
「冗談ではないのだが……そう思われてしまったのなら、申し訳ない。私はあなたに前々から関心を持っていた。こうして話していて浮かれてしまったらしい」
「そう……。話半分に受け止めておくわ。浮かれるのは構わないけれど、あまりそう言った態度ばかりしていると、本命が出来た時に勘違いされてしまうわよ?」
フルダーナスがどんなふうに生きているかなどは私には分からない。ただ興味を持ったからといった理由でこうやって異性を口説いていたら、本命が出来た時に大変だわ。
まぁ、それはそれで想像すると面白いかも。
“白炎の魔法師”なんて呼ばれる特別な存在が、女性を必死で口説いて振られるってちょっと面白い光景ではありそう。なんて他人事のように考える。
「これは手厳しい。ただ本気で受け止めてほしいんだが」
「あら、本気だというのならば正式にお申込みくださいませ。このような場で口だけで告げられても、冗談にしか聞こえませんわ」
私は笑みを張り付けつつ、そう答えた。
そう、本気だというのならば正式に王族である私相手に申し込めばいい。ただそれを行ってしまえば、引き下がることは出来なくなるだろう。
もちろん、お父様達は申し込まれたからといって無条件に結婚を了承するような方ではない。私は婚姻の自由を与えられているので、正式に申し出があったら公式に断ることになるだろう。
“白炎の魔法師”と呼ばれるグザックデーダ王国の英雄がわざわざそんなことをしないだろうと私は思っている。
だってね、求婚して断られるのってそれだけでも経歴に傷はつくというか、周りにあることないこと言われたりするのよ。それにフルダーナスは英雄として貴族社会にも当然関わって生きているのだから、王族と結婚したりすると面倒事の方が多いってきっと分かっていると思う。
少し話しただけでもフルダーナスって自由が好きなように思えるんだよね。自分の意思を貫きたいというか、そんな雰囲気。わざわざ私とそういう仲になるなんてことしない気がする。
少し調べたら私が家族に大切にされていることも知っているだろうし、わざわざちょっとした興味で正式には申し込まないだろう。私はそう確信していた。
「ああ。そうしよう」
だからそう言って頷かれたけれど、もちろん、本気にはしていなかった。
しかしこうやって楽し気な笑みを浮かべながら頷かれると、本気にしてしまう人もいそうよね? 罪な男だわ。
「とりあえず、この話はこれぐらいにして私はそろそろお暇させていただきますわ。今回はお話が出来て楽しかったわ。今後、またお話をする機会があったら魔法について沢山語りましょう? その時は冗談などはよしてね。折角楽しい話をしている中で、そんなことを言われたら、気分を害してしまうので」
私は笑ってそう告げる。本当に、冗談はよしてほしいものだわ! それがなければもっと楽しかったのになと思ってならない。
「信じてもらえなくて残念だよ。まぁ、それはおいおい信じてもらうとして、私もヴィオミーリナ殿下と話せて楽しかったよ。もっと話したいから、こちらから会いにいくとしよう」
「あら、そう言ってもらえるのは社交辞令でも嬉しいわ。では、また」
口がよく回ること。こういうところも、英雄としてやっていける素質ではあるのでしょうね。
社交の場に全く姿を現していなかった私と違って、周りとの交流もよくしているようだし。
そもそも魔法の腕が良いだけでは英雄として、国の顔として生きて行くことなど出来ないもの。
上手く立ち回れない人間ならば良い様に使い捨てられて終わりだもの。そう言う所も含めて凄い人ではあるのだとは思った。
フルダーナスがその場から去ってから、女騎士には「あんな軽薄な男に近づかない方がいいです」などと言われた。リュン兄様たちに色々言い聞かされているのだろうな。
本当に過保護だ。




