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「なるほど、表に出てこない第三王女殿下が“フルケーヘンの魔女”だとはまさか思ってもいませんでした。無礼をお許しください」
私が王族であることを知って、“白炎の魔法師”はそう言って頭を下げる。その表情は何処か楽し気に見えた。
「構わないわ。私が王族だなんて知らないだろうから、仕方がないわ。私に興味を持っていたと聞いているけれど、どうしてかしら?」
「これまで散々あなたの魔法と対峙してきたので、興味を持つのは当然でしょう?」
そう言って微笑まれる。作ったような笑顔にも、心からの笑顔にも見えた。なんというか、本心が凄く分かりにくい方だ。
「そうですか。まぁ、そういうことにしておきますわ。それで、私はどう? “白炎の魔法師”の期待に応えられたかしら?」
私はそう言いながら微笑みかける。これからグザックデーダ王国との交友を結ぶことを考えると、私は彼と良い関係を築けた方がいいだろう。だって“白炎の魔法師”はかの国においての最大戦力なのだから。
「はい。とても興味深いです。それと私の名前はフルダーナスですので、好きなようにお呼びください」
ほほ笑みを向けられて、綺麗なとても綺麗な笑みだなと思った。
それにしても話しかけた時は少し砕けた口調だったけれど、私が他国の王族だと知って口調を丁寧なものにしているようだ。
「では、フルダーナスと呼ばせていただくわ。私もあなたと話してみたいと思っていたから、会えて嬉しいわ」
「こちらこそお会い出来て光栄だ。和平交渉は終わったのですよね? 良かったら話をしませんか?」
「構わないわ」
私はそう言って頷く。
想像よりもグイグイくるわね。私に興味を抱いてくれているのは真実なのだろうな。悪い気はしない。
……そういえばリュン兄様は私が彼に惚れたらと心配していたなと思い出した。
なんだかリュン兄様に言われたからこそ、居に少し意識してしまいそうになるわ。確かに……綺麗な顔立ちをしている。異性から人気だというのもよく分かるわ。
グザックデーダ王国の外交官は何とも言えない表情をフルダーナスに向けていた。何か思う所でもあるのかしら?
まぁ、そのあたりはフルダーナスと話していたら分かるかもしれない。
砦の一室で、彼と話をすることになった。侍女や騎士の姿はあるので完全にふらりっきりというわけじゃない。流石に興味があるとはいえ、異性と二人で過ごすわけにはいかない。
そのあたりのことは私もちゃんと考えているのよ。
そもそも異性と長時間二人で居たとかそう言う噂が流れるだけでも中々致命的だもの。王侯貴族の女性は貞淑であることを求められている。事実はどうあれ、そういった噂が流れただけでも嫁ぎ先に困ったりするものね。
私は結婚などを自由にしてもらって構わないとお父様達に言われているからともかくとして、そうじゃない方は嫁ぎ先の幅が一気に狭まってしまう。
フルダーナスも私が王族であることは分かっているから、侍女や騎士達の姿があることに特に何も言うことはなかった。
「最近使われた魔法について話したい。癖が変わったように見えたが……」
「人と一緒に開発したものだからだと思いますわ。二人で作ったものですもの」
おそらくオーロと開発した魔法のことを言っているらしい。なんというか、フルダーナスって、私の魔法のことをよく見ているらしい。
私一人で開発する魔法もそれなりに多かったものね。オーロとのものに関しては、私が彼女の意見を多大に取り入れて作ったものだから。
それからしばらく、私はフルダーナスと魔法に関する話をした。
”白炎の魔法師“と呼ばれるだけあって、その名に恥じない魔法知識を持ち合わせていた。
それに彼は実戦も沢山使っているのよね。私は正直実戦経験はそこまでないわ。王族の命ってとても重いから、早々行けるわけでもないし。魔物討伐はたまに参加させてもらっているけれど。
機会があったらもっと実戦経験は積みたいなとも私は思った。
結論から言うと、私はフルダーナスと話すことがとても楽しかった。だって同じく魔法を嗜むものなのだもの!
彼は私に興味を抱いていて、不快にさせようなんて全くしなかった。
フルダーナスは私と話していて楽しいと思ってくれているかしら? これで社交辞令で付き合っているだけなら少し面白くないかもしれない。
リュン兄様の言う惚れるのではないかとかそういうのは抜きにして、ただ仲良くはなりたいかもと思った。楽しいしね。
そんな風に私は呑気に考えていたのだけど、
「そういえばヴィオミーリナ殿下は、婚約者などは?」
急にそう問いかけられた。
なんでそんなことを聞かれるのだろうと私は不思議に思った。
「え、居ないですけど?」
私は不思議に思いながらもそう告げた。
私が答えると同時に、フルダーナスは笑った。
これまでのちょっと作られたような笑みとは違って、何だか心からの笑みに見えた。
思わず見惚れてしまった時に手をとられる。
「ヴィオミーリナ殿下、良かったら私の物になりませんか?」
そしてフルダーナスはそう言って、私の手の甲に口づけた。




