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「私が和平交渉に?」
私はリュン兄様に呼び出されて向かった先で言われた言葉にそれはもう驚いてしまった。
グザックデーダ王国とは和平交渉を行うことは決定事項であるというのは私も知っていた。しかし、私が交渉に向かうことを提案されるとは全く以って思っていなかった。
青天の霹靂というものである。
リュン兄様の隣にいるエネア姉様はにこにこと笑っている。エネア姉様からすると、私がその場に向かうことを良い事だと思っているのだろうか。
この交渉って、正直言って成功が決まっているようなものだというのは聞いている。
向こうだって我が国とのいざこざを続けるつもりはないのだ。いってしまえば交渉の場につくのは向こうの国にとって失礼に当たらない人物であるならば誰でも問題がない。
――それなのに、わざわざ私が行かなければならない理由ってなんだろう?
何の理由もなしにリュン兄様がそんなことを私に言うとは思えなかった。私を呼びだしたのがリュン兄様なのは今回の和平に関する責任者がリュン兄様だからなのだろう。
なんというか、お父様とお母様も私が交渉の場に立つことは凄く心配しそう。リュン兄様もどこか不満そうな表情は浮かべていた。
きっとこういうことを私に言って、嫌われたらどうしようとかそういう心配はあるんだろうな。
リュン兄様ってば本当に私のことが大好きね? そう思うとにこにこしてしまった。
「……グザックデーダ王国からの要望だ。ぜひ、その場に“フルケーヘンの魔女”に来てほしいと」
「まぁ、どうしてですの?」
「“白炎の魔法師”が会いたがっているからと。かの魔法師はグザックデーダ王国からすると特別な存在だと聞く。だからこそその望みを叶えようとしているのだろう。……しかしヴィオをそのような場に送り出すのは……」
リュン兄様はそう言って、申し訳なさそうな表情をする。
本当に過保護だわ。私のことを可愛がってくださっているからこそ、ほぼ成功が決まっている交渉の場にだってやりたくないなと思っているのだろう。
「あらあら、リュエン。あまりにもヴィオのやることに口出しし続けると嫌われてしまうわよ?」
エネア姉様はリュン兄様の言葉を聞いて、楽しそうに笑いながら言った。あら、エネア姉様ってばそんなことを言ったらリュン兄様がショックを受けてしまうわ!
実際にリュン兄様は「うっ」と声を上げていた。
「エネア姉様はリュン兄様と違って楽しそうね?」
「だって良い機会じゃない。“白炎の魔法師”はあなたを気に掛けている。きっと隠したとしても探し出すとは思うの。それだけの力が彼にあることを私だって知っているわ。だから堂々と会わせた方が丸く収まると思ったのよ。それにね、私はあなたがそこまで過保護にしなければならないほど弱くないというのは分かっているから。もちろん、可愛い義理の妹のことは心配にはなるけれど」
美しく微笑むエネア姉様を見ると、見惚れてしまいそうになる。
だって本当に綺麗なのよ? それに私のことを思って、信じてくれているからこその言葉なの。
「それもそうかもしれないわ」
「あとは今回の件は危険性など何もないもの。だから、ちょうど良いのよ。ヴィオはこれからオウロイアのためにも前に立とうと思っているのでしょう。そのためにもあなたが国にとって有益な王女であると示すのは悪いことではないわ」
「ふふっ。そうね。どうして和平交渉に私が? と驚いたけれども、説明を聞いたら納得したわ。……私、行ってみようと思うわ」
「ヴィオ……! 無理はしなくていいんだよ。君はそんな交渉の場には立ったことがないだろう?」
「もう、リュン兄様? 私は王女よ? 王族なのだから国のために出来ることがあるならやりたいわ」
「ヴィオ……!」
リュン兄様が見たことがないぐらい顔を歪めている。本当に心配性だ。私が表に立つのは賛成だけど、他国との交渉の場に行かせるのは……と葛藤しているのかもしれない。
「それに私も“白炎の魔法師”の魔法は気になるし。親しくなれたら魔法を見せてもらえるかしら!」
私が今回の件に前向きな気持ちなのは、“白炎の魔法師”への興味があるからというのもある。
だって一個人が、魔法師として周辺諸国に名を馳せるぐらいの実力を持っているのよ。同じく魔法を嗜むものとして凄く興味があるわ。
小競り合いではちょっとした嫌がらせの魔法ばかりが目立っていたけれど、魔物討伐などでも大活躍しているのよね。
それこそ見ていて興奮するような素晴らしい魔法とか使えるのかしら? 見てみたいわ!!
考えてみると不安よりも楽しみな方が強くなってきた。
「ヴィ、ヴィオ……っ。“白炎の魔法師”にそこまで興味があるのかい?」
ショックを受けた様子のリュン兄様。
「そうね。だって素晴らしい魔法師じゃない。ふふっ、折角だから魔法の話を沢山出来たら嬉しいわ。って、交渉の場でそんな気持ちだと駄目かしら?」
「問題ないと思うわよ。だって向こうもヴィオに興味があるのだもの。どんな方なのか是非教えてね?」
リュン兄様は固まっていたけれど、エネア姉様は楽しそうにそういって私の背中を押してくれた。




