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「また来たんだね、二人とも」
目の前でルンジャーが柔らかい笑みを浮かべている。私とオーロは時折、王都の酒場を訪れるようになっていた。他でもないオーロが望むから。
あまりお酒に強くない私にオーロは「無理してついてこなくていいのよ?」とそう言って笑っていた。
ただ私は護衛が居るとはいえ、オーロを一人で酒場に向かわせることは嫌だった。私たちが酒場に行くとルンジャーの姿が度々見られた。
ルンジャーは下位貴族の出で、王都の騎士として働いているようだ。王宮に勤めているわけではないので、私の顔は把握していないよう。
とはいえ、少なからず王宮の情報を知っているなら、私が何者なのか察しては居るのかもしれない。
ただルンジャーは特に私達に素性について事細かに問いかけてくることはなかった。
そのことはとても有難かった。
オーロとルンジャーは互いにお酒が好きというのもあるのか、みるみるうちに仲良くなっていった。もちろん、あまりお酒を飲めない私を放って二人で盛り上がるなんてことはない。
三人で話すことは楽しい。
酒場に居ると時折、私やオーロの噂が聞こえてくることもある。これまで表舞台に立つことが皆無だった王女の私が姿を見せることになったことは平民達の間でも噂になっているらしかった。
何だかこうやって私のことを話されているのは何だか不思議な感覚ね。平民たちが私のことを悪くは言わずに、賛美をする者ばかりなのは……それだけお父様達が民に寄り添った統治をおこなっている証よね。そう思うと嬉しかった。
だって王家に対して悪感情を抱いている民ばかりだったら、王族である私に対しても文句ぐらいは口にしたかもしれないから。
「そういえば、グザックデーダ王国との戦いが収束しそうだと噂だね」
ルンジャーがそう口にした。
リュン兄様がおっしゃっていたようにグザックデーダ王国との小競り合いはもうすぐおさまろうとしている。
その準備として、民にも噂が流れるようにしているようだった。
そのうち、小競り合いがおさまるのは決定事項だろうな。
「そうね。長く続いていた小競り合いがおさまるのは素晴らしいことだと思うわ」
「私もヴィオに同意ですわ。本格的な戦争ではないとはいえ、他国とのいさかいが続くことで良いことは特にないもの」
ルンジャーの言葉に私とオーロはそう答えた。
そう、最近行われているのはあくまで小競り合いでしかない。国の存亡をかけたような争いではない。それでも諍いによって人生が変わった人もいるし、傷ついた人もいるだろう。
争いがおこるのは国の責任ではある。それがおさまるというのならば、喜ばしいことだとは私も思う。
「そうだね。俺の知り合いも戦いに参加しているから一安心したよ。小競り合いが悪化して、大きな争いになったら大変だったから」
ルンジャーはそう言って、ほっとした様子を見せた。
それにしても身近な人が戦いの場へと向かったのならば、心配になるのは無理はないことだと思う。
確かにルンジャーの言う通り、国家間の関係が悪化した結果、大きな争いにならなくて良かったとは思う。
小競り合いとはいえ、争いをしている状況ということは何かのきっかけで殺し合いが行われる戦争になってもおかしくなかった。
――私は国政にあまり関わっていない王女ではあるけれど、もし大きな争いになったら私だって自由に過ごすことは出来なかっただろうな。私の今は、平和であるからこそ許されていること。
お父様達が国の為に全力を尽くしている証。
私は魔法関係で国のために行動を起こしてはいるけれど、それだけだもの。改めて家族達に敬意を抱く。
もし国に余裕がない状況だったら、私が魅了もちだったとしても政略結婚をしなければならなかったかもしれない。
今の時代が、比較的平和な治世で良かったなとも感じた。
私はあくまで殺傷性のない嫌がらせの魔法を開発していることが主だけど、もし仮に大きな戦争が行われたらそう言う魔法ばかりを開発することにはならなかっただろう。
私はそう考えて、王族としてもっと国のために出来ることはしたいなとも思った。
「そうね。そうなったらルンジャーも大変だっただろうから、良かったと思うわ」
そう言ってオーロは笑った。
オーロにとってルンジャーと話すことは本当に楽しいのだろうな。王都の騎士という立場のルンジャーは緊急時には、危険な場所にも赴くことになっただろう。
そうなればこうやって三人で会話を交わすことはなかったのだ。
……それにしても楽しそうなオーロを見られるのは嬉しいけれど、すっかり心を許している様子には少し心配になったりもする。
少なからずの好意はあるだろう。それが恋愛感情であるか否かはともかくとして。
……ルンジャーのこと、本格的に調べておこうかな。オーロが仲良くしたいならそれが必要だ。




