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4/26 三話
オーロとお出かけをしてから数日、たったそれだけの期間であの伯爵のことはすっかり貴族社会で噂になっているようだった。
私やオーロには直接の問い合わせはないけれど、社交界の場に出ることも多く、沢山の人達とやり取りをしているリュン兄様たちはそのことを聞かれることもあるらしい。
「ヴィオ、伯爵家の前当主夫妻があなたに会いたいと申し出ているわよ」
お母様に言われた言葉に私は驚いた。
あの伯爵に当主の座を渡してからは隠居していると聞いていたけれど、そんな彼らの耳にも噂が耳に入ったのかしら。
「ねぇ、お母様。それは私にだけ?」
「そうよ」
「なら、お断りだわ。伯爵家が社交界から締め出されることを良しとせずに隠居先から出てきたのだろうけれど、話をする相手が違うもの。まず彼らは私に説明をするではなく彼女に謝るべきだもの」
前伯爵夫妻にはどういう教育をしてきたのか? なども含めて言いたいことは幾らでもある。だけど、私にだけ会おうとするのはおかしいでしょう。
オーロと仲良くしている第三王女である私の采配により、王家の居るパーティーに伯爵たちが出れなくなったことをどうにかしたいからなんでしょうけれど。やっぱりオーロのことを舐めているのね? 私の友人だって分かった上でそんな風だなんて、嫌な話だ。
「それはそうね。でもヴィオ、前当主夫妻と話した方があなたの望む形に出来るかもしれないとは思うわ」
「……お母様は謝罪や説明は受けるべきと思っているの?」
「それも一つの手だと思っているだけよ。もちろん、ヴィオがどうしても嫌なら会う必要はないわ。ただあなたの友人に酷い扱いをした伯爵家の使用人達にも報復はしたいのでしょう? それなら話の通じない現伯爵ではなくまだ少しは話が通じる前当主夫妻と話すのもありだと思ったのよ」
お母様はにっこりと笑ってそう言った。
お母様って基本的には優しくて、愛情深い人だ。私達兄妹に対して、いつも笑顔を向けてくれる。お母様が王妃としての公務が忙しい時は中々お会い出来ないけれど、お母様のことは大好き。
子供の頃は私が魅了の力を制御出来なかったのもあり、中々お母様に会えなかった。
だからお母様は私のことを好きじゃないのかもしれないなんて思ったこともあった。だけど会えるようになってからは沢山抱きしめてくれて、私のことをどれだけ大切にしているかというのを伝えてくれた。
お母様は一見すると、騙されやすい雰囲気というか、簡単に人を信じてしまいそうなぽわぽわした表情を浮かべていたりする。それでもお母様って王妃としてやっていけるだけのしたたかさもきちんと持ち合わせているのだ。
お母様を侮って話しかけた人が返り討ちにあったなんて話もよく聞くぐらい。
お父様よりもお母様を懐柔した方が自分のやりたいように出来るとでも思っている人はやはり多いみたい。ただ流石に今はそこまでいないけれどね。
どれだけの人達がお母様を良い様にしようと行動を起こしても、一度も成功したことがないのだから。
やっぱりお母様ってすごいなと素直に尊敬出来る。
私は国母という立場はやりたくないなと思ってしまう。責任も大きくて大変だから。お母様も一番上のお姉様も凄いなって思ってならない。
「お母様、助言ありがとう。オーロと相談をして決めようと思うわ。もし前伯爵夫妻と会う場合はオーロも一緒の方が良いと思うの。お母様の言う通り、伯爵家の使用人達のような伯爵に同調して、私のお友達に酷いことをしたものはそれ相応の報いは受けて欲しいもの」
それは私情も多く含まれているけれど、そもそもその家の夫人に対して敬意を持てない使用人なんて、貴族の家には要らないもの。他の家に仕えることになった際に、新たな被害者が出ることは想像にたやすかった。
そう言う使用人がこれからも貴族に仕え続けようとすることなんて、迷惑でしかない。
そもそもオーロの辛い日々の要因の一つである使用人達は今、どう思っているんだろうか。伯爵領にまで、私とオーロが友人だということは広まっている? そもそもの話、前伯爵夫妻が私に会いにくるのって伯爵に泣きつかれたからとかなのかしら?
親は子供を愛するもの。それが一般的で、子供を大切に思うあまりに驚くような行動をしてしまう人だって当然いる。
前伯爵夫妻がどういった性格なのか、私は知らない。
まともな神経をしているならば、まずオーロに謝るはずよね。人様の娘に酷いことを息子がしてしまったと知って、伯爵を叱るのが正しいわ。
だって人としてもどうかと思うもの。下位貴族の存在だから、切り捨ててもいいと思っているなんて。
大勢を救うために、何人かを切り捨てる。その選択肢をどうしてもしなければならない場合はあるかもしれない。でも周りから見て納得が出来ない形の切り捨てをいとも簡単にできる人だと伯爵が認識されれば、それだけ領民達にとっても不安になると思う。だって自分たちのことだって些細なことで切り捨てる領主だと知ってしまうことになるから。
「ええ。そうするといいわ。ヴィオ、何か困ったことがあったらすぐに私に言いなさい」
「もちろん! ありがとう。お母様」
伯爵の両親に会うことは、少しだけ心配もある。だけれども何かあったらお母様が手を差し伸べてくれるんだなと思うと安心した。
お母様は前伯爵夫妻は伯爵よりも話が通じるタイプだと言っていたけれど、どのくらい会話が出来るタイプなのかしら?




