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4/26 二話目
私はお酒を飲むことはほとんどしない。それに暗い時間まで王宮の外に居るのは周りに心配をかけてしまうからなかなかしないの。
私はもう十七歳になるのだけど、家族からしてみると末っ子の私はいつまでたっても子供に見えるのか、かなり心配されるのよね。ちゃんと護衛達だってついていて、私は一人ではない。それに知らない人についていくような愚かな真似だってする必要はないのに。
「お客さん、沢山ね」
「そうね。でもすぐに席には案内してもらえそう」
護衛たちの調べてくれた酒場は、女性の姿も多かった。というか、店主が女性の方みたい。
仕事帰りであろう王都民たちの姿見られる。
騎士の姿もちらほらあるわね。……私の顔を見て気づいた方もいたようだけど、知らないふりをしてくれた。
それにしても酒場なんて場所に来るのは初めてだわ。
お酒の匂いが鼻をつく。
お酒を飲んで口が軽くなっているのか、大声で喋っているお客さんも居るわ。あの女性は恋人に振られたようね。あんな風に泣き叫んでいて、余程好きだったんだろうなというのが分かる。
あんな風に泣いてしまうぐらいに、別れがつらいと思える相手と出会ったら――どうなんだろう。例えば別れが来ると分かっていても、幸せな思い出として頭に残るんだろうか。
案内されたカウンター席に座って、お酒を頼む。私は甘くて飲みやすいものにした。流石に度数が強いものは飲めない。
……オーロは最初から度数が強いものを頼んでいた。お酒に強いのもオーロのギャップよね。
私もオーロも、周りから見てみるとお忍びの貴族令嬢にしか見えないだろう。そんなオーロが度数の強いお酒を飲んでいるのは目立つ。持ってきた店員の方にも驚かれていた。
「本当に飲めるのですか? 無理をしないでくださいね」
そう言われてオーロは良い笑顔で、「問題ないわ」と答えていた。
私はちびちびと飲んでいるのに比べて、オーロはどんどん飲んでいた。飲むスピードが速くてびっくりだわ。
「オーロ、そんなにハイスピードで飲んでいて大丈夫?」
私は少しだけ心配になって問いかける。本人は問題がないと言っていたけれど、本当に大丈夫なのかしら?
「ええ。問題ないわ」
それにしても沢山の量を既に飲んでいるのに、オーロは平然とした顔をしていて本当にお酒が強いのね。私が同じぐらい飲んだら、でろんでろんに酔ってしまうでしょうね。
「お姉さん、良い飲みっぷりだね」
オーロの様子は酒場でも目立っていて、声をかけられた。その人物は、綺麗な青髪の男性だった。穏やかな雰囲気の男性なのだけど、こちらも凄い。オーロと同じぐらい飲んでいた。
オーロもこの男性も、見た目に反してお酒に強いことに驚く。年は私と同じ年ぐらいかしら?
「ええ。お酒は好きなの」
「そうなんだ。君たちの名前は?」
「私はオウロ……オーロ。そしてこちらがヴィオよ」
本名を答えようとしたオーロは、あだ名だけにとどめたようだ。確かにオウロイアとヴィオミーリオと本名を口にしたら、分かる人には分かってしまうもの。
「俺はルンジャー。よろしくね。良かったら話さない?」
私はどうしようかと悩んだけれど、オーロが頷いていたのでそのまま話すことになった。
嫌な雰囲気はないし、護衛たちも黙って見ているので特に悪い人間ではないのだろうとは思う。何かあればすぐに護衛たちが駆けつけてくれるだろうし、少し話すぐらいは問題ない。
「二人とも友人同士?」
「そうよ。私とオーロは友達なの」
私がそう答えたら、ルンジャーは楽しそうに笑っていた。
「このお店にはよく来るの?」
「いえ、初めてよ。私は王都に来るのは久しぶりだし、ヴィオはこういうところにはあまり来ないみたいだから」
「そうなんだ。俺はよく王都で飲み歩いているよ」
そういってルンジャーは柔らかい笑みを浮かべた。凄い酒豪なのかもしれない。何だかお酒を沢山飲みながらも周りを気に掛けているようにも見える。
……もしかしたら明らかにお忍びの貴族令嬢である私たちが酒場にやってきたから、心配して声をかけてきてくれたのかも。
そう考えるとただ優しいだけじゃないというか、侮れないタイプの人間ね。
その後の会話も、一切不快な気持ちにはならなかった。ルンジャーは私とオーロを楽しませようと沢山話を振ってくれた。
オーロもルンジャーと話すことは楽しかったようだ。
私とオーロのことを気遣ってか、「送ろうか?」とも口にしてくれた。なんとなく察してくれてそうなので、「護衛が居るので問題ないわ」と言ったら驚かれた。
なんにせよ、初めての酒場はとても楽しかった。




