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伯爵は私に視線を向ける。私の発言を聞いて、こちらを見る。私の存在にようやく気付いたみたい。それにしても私が誰だかは気づいていないみたい。少し考えてみたら、簡単に分かるだろうに。
「許せない? 貴様が誰なのかは知らないが、この女とは関わらない方がいい」
「どうしてあなたにそんなことを言われなければならないの? あなたも先ほど言った通り、彼女は王族と関わっているわ。もしあなたが何か成して、ただで済むと思っているの?」
少なくともその噂の王族本人である私は許せない。この男はこんな状況でも、私の友人のことを切り捨てて、好きに扱おうとしているのだ。
これは警告だ。
私はこの男のことを許せないと思っている。個人的には滅茶苦茶気に食わない。ただ私は王族だから、ただ私欲で処罰を突き進めるというのは少し問題だ。ちょっとぐらい私が我儘に行動しても、リュン兄様たちは許してはくれそうだけど、でもね、ちゃんと処罰を受けても仕方がないってやらかしをもっとしてもらえた方がいいの。
誰の目から見ても、伯爵に非があると思わせるのが一番だもの。
「はっ、貴様はオウロイアのような女が王族とこのまま親しく出来ると思っているのか? 俺はこの女と夫婦生活を送っていたからこそ、如何につまらない女なのか知っている。オウロイアは俺やチアノーエに王族との縁を引き渡すことを拒否しているが、そんなものは時間の問題だ。オウロイアが王族なんかと親しくなったという一時的な情報に踊らされてこの女と共にいるなど……愚かな」
うーん、凄いことを言うわね。私、こんな風なことを言われるのは初めてだわ。私が王族だと知らなかったとしても、仮にも初対面の女性にこんなことを言うあたり、今まで自分の思い通りに生きてきたんだろうな。それこそ、挫折もしてこなかったのかもしれない。
親や周りが甘やかしてきたんだろうか? そして伯爵家というそれなりの権力を持ち合わせていて、上手くいくだけの環境が整っていたんだろうな。
「愚かなのはあなただわ。少なくともこれより、あなたは王族の居る社交界の場には呼ばれることはないでしょう」
「は?」
「というより、此処に私がそれを宣告するわ。あなたは私とオーロの前には必要ない」
私はそう言うと同時に、伯爵の後ろの方へと目配せをする。王族である私が、護衛たちの耳に入る宣言をしたのだから、これは決定事項だ。
王族の居る場に、この伯爵は要らない。
伯爵は社交のために王都にやってきたのだろうけれども、そうはさせない。反省して、心からオーロに謝罪をするのならば別だけれども、もし仮にすぐに反省出来るような性格ならここまでやらかしていない。
「なにを――」
私に向って何かを言おうとした伯爵は、私の合図とともに現れた護衛たちが捕縛していた。全くオーロの元夫とは初めて話したけれど、言っていることが全く理解出来なかったわ。
こうしているうちに当然のことながら、連れていかれている伯爵は騒いでいるし、注目を浴びている。
「オーロ、行こう」
「え、ええ」
私はオーロに手を伸ばす。彼女は手を重ねてくれたので、そのままオーロの手を引いてその場を後にした。
「ヴィオ。……プラド様がごめんね。私のせいで絡まれてしまって」
オーロは申し訳なさそうに言った。
「オーロが謝る必要はないわよ。あんな風に大声をあげて絡んできた伯爵が悪いのだもの。はっきりと反論しているオーロはとても素敵だったわ。それにしてもあの伯爵、私が誰か気づいてなかったようね」
「……そうね。まさかヴィオがこんなところにいると思わなかったのでしょうね。あの方、これまであんな風に人前で声を上げたりはしていなかったのだけど……。自分がやっていることが周りに知られない方がいいことだという自覚はあるのかも」
「だからこそオーロが王族と親しくしていると知って焦ったのだと思うけれど、短慮的だわ」
オーロは困った様子である。焦るとやっぱり人の本性って出てしまうものだものね。それにしてもあの伯爵、親はどういう教育をしていたのかしら。オーロのこととか、全部知った上でだったら彼らのことも嫌だなと思ってしまう。
「一先ず、連れて行ってもらったし、私に迷惑をかけたのだからこのまま騎士達から詰められはするわ。これからオーロが参加するパーティーにはあの伯爵は来ないから、向こうがやってきたことをやり返しましょう。ふふんっ、じわじわ追い詰められたら、流石に反省でもするかしらね」
折角王都に社交のためにやってきたのに、パーティーに参加することも出来なくなる。そうなったらどれだけ焦るだろうか? 新しい妻となった女性は、思ったような暮らしが出来なかったら荒れたりするのか。
あとは今回、護衛たちに連行されたところから他の問題に対しても追及はしていけるわよね。もっと伯爵とその幼なじみが何かやらかせばやらかすほど、やりやすいのだけど。
「もう、ヴィオってば悪い顔をしているわ」
「だってオーロのことをコケにしているのだから、やり返さないとね? これだけじゃ足りないわ」
私がにっこりと笑ってそう言ったら、オーロは仕方がないなとでもいうような優しい笑みを浮かべてくれた。
オーロは三年も苦しんでいたのだから、一瞬で終わらせるのも嫌なのよね。同じぐらい苦境になって欲しいところだわ。




