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私はこの男のことを情報として知っている。
プラド・コミューリエ。伯爵家の長男として産まれ、順当にその伯爵家当主の座を継いだ存在。
客観的に見て、見た目は悪くはないだろう。オーロのことを散々蔑ろにしていた存在だ。
怒りを表しているのを見るに、王女である私がオーロと仲良くしていることに関して思う所が様々あるんだろうな。勝手な話だわ。
私が噂の王女だとは気づいてなさそう。魔道具を使って見た目が違う風に見えるようにはしている。本来の髪色でぶらぶらすることもなくはないけれど、違う色に見えるようにしていた方がずっと街を歩きやすい。
「何の御用でしょうか?」
オーロは一瞬顔を青ざめた後に、そう言って問いかけた。
堂々としていてかっこいいわ! 流石、私の友人だわ。このオーロの元夫がどういう思考をしているかも含めて、ちょっと聞いてみましょうか。かなり苛々するだろうけれど、私が直接聞いたという事実があればそれだけで何かあった時に有利に進むわ。
あまりにもしつこいようなら裁判などをしてもいいしね? それにこの場で情報を口にしてもらえば、私の周りにいる護衛達の耳にも入るもの。
ちなみにオーロの態度が気に食わなかったのか、伯爵は顔をしかめていた。
……我慢をしよう。かなりとっちめたくなっているけれど。あとは周りから視線を向けられていることは分かっているのかしら? はた迷惑だわ。
「何の用……だと? 貴様、なんだ、その態度は! 王女殿下と親しくしているなどという話を聞いたぞ。なぜ、貴様なんかが王族と親しくなる? そんなのありえないだろう!!」
なんなの、この人。
私の率直な感想はそれだけである。だっておかしな話じゃない。私はオーロのことは知っているけれど、この伯爵のことは何一つ知っていないのよ。会ったこともなかった。
それなのに何を根拠に私と仲良くなることがおかしいなどいうのかしら。
あとこんな場所で騒いでいるあたり、醜態だわ。それが分かってないの? その段階で愚かよね。
「あなたには関係ありません。第三王女殿下とは縁があって仲良くさせていただいているだけです。それよりもこのような場所で大声をあげないでくださいませ。そもそも私とあなたは今はもう他人です。私の交友関係をどうのこうの言われる筋合いは全くないです」
オーロの言い返しに、笑みが零れる。いいわね。とても素晴らしいわ。そうよね、他人の交友関係に口出すをするなんてどうかと思う。
「貴様っ!! ただの男爵令嬢ごときが伯爵である俺に何を言うか!!」
偉そうすぎない? なんで? 伯爵という地位は確かに貴族の中でもそれなりの発言力があるわ。でもコミューリエ伯爵家って、伯爵家の中ではまだ下位の方よ? だからこそかしら。男爵家を下に見続けていて、偉そうにしているのは。
こういう人間、私は好きではないかもしれない。
だってもっと身分が高くて柔らかい雰囲気の人を私は幾らでも知っている。それに高圧的に見える態度でも、下位貴族の意見をきちんと聞くような上位貴族も居るし。
この人ってそのどちらとも違って、中途半端な身分で偉そうにしている人って感じなのよね。
「そう、大声をあげないでください。確かに私は男爵令嬢でしかございません。でもあなたの言う通り、第三王女殿下とは親しくさせていただいております。もし私の身に何かがあったら、彼女は動くと思います」
オーロはあくまで、穏便にこの場をおさえようとそんな言い回しをしているようだ。
王女である私が此処にいることを悟らせないように、ちゃんと気遣いをしてくれている。
伯爵の方が私やオーロよりも年上なのに、オーロの方がずっと大人だわ。
それにしても“思います”ではなく、断言してもいいのにな。私はオーロに何かあったら間違いなく怒る自信はある。というか、今も大分、私は腹が立っている。
「はっ、王族の威を借って情けない。貴様が王族と仲良く出来ていると思っても、そんなわけがない! 王族が貴様の為に動くことなどありえないのだ。そもそも少しでも王族と縁があるのも信じられない! まさか、伯爵家でのことを伝えているわけではあるまいな? そんなことは許さないぞ。それに王族との縁は貴様なんかよりも俺やチアノーエの方がふさわしい。その場所をすぐに俺にひきわたすように」
……おおう、びっくりするぐらい自分勝手すぎる。そもそも私が許しているのだから、いくらでもオーロは私の名を使って問題がないのに。
それにどこまでもオーロのことを見下して、自分がどうにでも出来るとそう思い込んでいる。だからこそ、その立場を引き渡せなどと口にしている。
もし仮にオーロがいうことを聞いて、伯爵やチアノーエ……伯爵の幼なじみと会うことになったとしても、仲良くするはずがない。自分ならば王族とも仲良くなれるはずだって勝手に思っているのか? 酷い、自惚れだ。
そんなことはあり得ないのに。オーロに対して凄い侮辱だ。
「そのようなことは出来るはずがありません。それに第三王女殿下の友人の座を誰かに渡すつもりはありません。それにこのような往来で王族の名を口にすることはやめてください」
激高して馬鹿みたいに大声をあげる伯爵とは対称的に、オーロはあくまで冷静な様子である。
よし、このくらいでいいかしら。
もう既に大声をあげて声をあげている伯爵は周りから眉を顰められているし、噂にはなるでしょう。
「貴様……!」
「ねぇ、こんな場所で愚かな発言をして無事で済むと思っているの? あなたみたいな存在に私の友人が蔑ろにされてきたなんて……許せないわ」
私はようやく口を開いた。
さて、このまま煩い口を黙らせましょうか。




